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激闘戦鬼  作者: 閃天
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第二十一章 林の中の罠

雨の降り注ぐ街道を天地達五人は走っていた。

水溜りの上を走ると泥が跳ねる。しかし、五人はそんな事気にしなかった。

雨が降っているため、街道には人の姿は無い。

市街に入ってもそれは変わらなかった。市街を暫く走っていると住宅街に出た。

その住宅街を真っ直ぐ突っ切ると、林の中へと続く道があった。

ただでさえ薄暗いのに、林の中は更に暗い。

五人は林に入ってすぐに足を止めた。林の中は木々が雨を凌いでいる。

ここまで来るのに、髪も洋服も雨で濡れてビショビショになっていた。

濡れた洋服が体に張り付いて、気持ち悪かった。


「これだから、雨は嫌いなんだ!」


服を脱ぎ絞りながら天地はそうぼやいた。女性陣は目を背けていた。

洋服の水気が大分とり、それを由美に渡した。洋服を差し出す天地に、戸惑いながらも由美は洋服を受け取った。


「そのままだと、風邪引くだろ?お前の服の水気も取るから、その間俺の服着てろ」


「あ…ありがとう……」


頬を少し赤く染めながら、由美は天地の服を着て、自分の服を脱いだ。

その間、もちろん天地と魁人は木の陰に行かされた。


「天地君って、結構優しいんだね」


「それ、どういう意味だ?」


隣に座る魁人を鋭い目つきで睨みつけた。そんな天地に魁人は楽しそうに微笑んでいた。

その微笑んだ魁人の顔を見ていると、なぜか天地も楽しくなってきた。


「もういいわよ」


昴の声が響き、天地と魁人が木の陰から出た。天地にとってはいいくらいの大きさの服でも、由美にとってはブカブカだった。


「ちょっと……大きかった……」


「ちょっとか?」


そう言って天地は頭を掻いた。濡れた由美の服を絞り、水気を取っていた。

その後、千春・昴と続き、ようやく全員の服の水気を取った。

実際、そんな事をしている暇は無かったのだが、五人には分かっていた。

この林にオウガが誘い込んでいる事が……。


「さて、これからどうするか……」


「確かに、オウガの気配はするけど、きっと罠よね」


「でも、絶鬼程の力を持ったオウガが、僕らを罠に誘い込む必要があるかな?」


複雑な表情で魁人がそう言った。確かに、絶鬼の様な絶対的な力を持ったオウガが、罠に誘い込む意図が分からなかった。

五人は林の入り口で立ち尽くし暫し悩んでいた。


「この気配、阿修羅のにも似てるけど……。

 何処と無く、静けさのある気配なんだよな……」


「どういう事よ?」


「阿修羅の気配は……激しく燃える……炎って感じ。

 でも……。今回のは……静かに流れる……水って感じ」


静かにそう言った。天地も同じような感じだった。


林の奥では、一体のオウガが居た。蒼く染まった長い髪に隠れているが角が二本生えていた。

体格はさほど大きくは無い(とは言っても、天地達よりかは大きい)。

腰には長い刀をぶら下げていた。

大きな岩の上にあぐらを掻いて座っていた。

その横に白髪の色白の絶鬼が立っていた。


「君に、用があってきたんだけど?」


「拙者は、お主に用は無いが?」


「まぁ、そう言わずに……」


絶鬼はそう言って微笑みそのオウガと話を始めた。


話のまとまらない天地達一行は、まだ林の入り口に立っていた。

天地と魁人と由美と昴の話を、千春は黙って聞いていた。

四人は深刻そうな顔をしながら話を続けていた。


「どちらにしても、絶鬼とは決着をつけなきゃいけないんだが……」


「だけど、今じゃなくてもいいんじゃないかな?」


「どっちにしても…今の私達じゃ……勝てない……」


「そうだよね……」


四人はほぼ同時にため息を吐き、深刻なムードが漂っていた。

すでに人格の変わっている千春は我慢の限界だった。

グダグダと無駄な話をしている四人に怒鳴り散らした。


「いつまで、無駄な話をしているつもり!

 私達ハンターは、どんなオウガも倒さなきゃいけないの!」


「確かにな……。でも、これが絶鬼の罠なら、俺たちは確実に死ぬ!」


真剣な表情で天地は千春を見た。しかし、表情を変えずに千春は言い放った。


「そう。わかりましたわ。あなた方が腰抜けだと言う事が」


「ちょっと!どういう事よ!」


「千春さんは絶鬼の力を、見た事無いからそんな事が言えるんだよ!」


そう言った魁人と昴を、千春は睨み付けた。

その目には何か強い意志のような物を感じた。

暫く雨音だけが響き渡った。


「もういいですわ!私一人で行きますわ!」


「待って!千春……」


千春は由美の言葉を聞かずに、林の奥へと走り出した。

由美はゆっくりと天地の顔を見た。その目は何か訴えかけるような目をしていた。

ため息を吐き魁人と昴の顔を見て頷いた。


「千春を一人にする訳には行かない。急ごう」


「うん……」


小さな声でそう言った由美の言葉は雨音に寄ってかき消され、天地達の耳には届かなかった。

林の下の地面はぬかるんでいて、千春の足跡がはっきりと残っていた。

天地達四人は、その足跡を追っていった。

すぐに追いつけると思っていたが、一向に千春に追いつく事が出来なかった。

と、言うか先程から同じ道を何度も走っているのに気がついた。

四人は立ち止まり辺りを見回した。


「天地君。おかしいよ!」


「さっきから、同じ場所を回ってる」


「でも、足跡を追ってきたのにどうして?」


「分からない。もしかすると、これが罠なのかもしれない」


厳しい表情で天地は、もう一度見回した。静かで冷たい風が木々の間を吹き抜けてきた。

オウガの気配も感じなくなっていた。

何か別の空間に切り離された感じだった。

まるで、結空陣の様なものに閉じ込められた様だった。


「どこをどういっても、同じ場所に出るな……」


「……どうする?」


「どうするって……。まずは、ここから……」


「どうやって出るのよ?」


「いや……。どうにかして……」


「どうにかって?」


次々と天地に質問をしてきた。頭がこんがらがってきた。

そんな天地の顔に三人の視線が集まった。

天地が黙り込み、沈黙が続いた。木々のザワメキだけが響き渡っていた。

そんな天地の顔を由美が覗き込んだ。


「……どうかした?」


顔を覗き込まれた天地は、驚き慌てふためいて後ろに仰け反った。

そして、慌てながら言った。


「だ、大丈夫だ!ちょ、ちょっと、考え事してただけだから!」


「そう?」


「アーッ!何イチャついてるのよ!!

 大体!この非常時に何しちゃってるのよ!」


「……どうしたの?」


「嫉妬だよ。嫉妬」


昴の横で笑いながらそう言った魁人の横腹に、昴の右の拳が深く突き刺さった。

鈍い音と共に魁人の体がぬかるんだ地面に崩れ落ちた。

その様子を見ていた天地と由美は苦笑いを浮かべていた。

魁人は暫く動かなかった。


「それで、どうするの?」


「……どうしよう?」


「何で俺の方を見るんだよ」


二人の視線が集まっているのに気付いた天地はそう言ってため息を吐いた。

三人の間に沈黙が続き、天地は近くの木にもたれかかった。

千春のことが心配だった。確かに、人格の変わった千春は強いが、絶鬼には絶対に勝つ事は出来ないだろう。

と、色々な事が頭を過った。

ふと空を見上げた天地は何かをひらめいた。


「なぁ、上も切り離されてるんだよな」


「当たり前でしょ?」


「だったら、風の矢を空に向って打てば、いずれ壁に当って境界線が見えるんじゃないか?」


「……そうかな?」


「まぁ、やってみなきゃわかんないし、やってみようぜ」


笑いながら天地はそう言った。

ぬかるみに横たわったままの魁人をそのままに、天地の案を試す事になった。

昴は風鳥神を上に向けて構えて、大きな風の矢を引いた。


「行くわよ!準備はいい!」


「おう!いつでもいいぜ!」


「いつでも……。いいよ」


天地と由美は走る準備をした。


「射抜け!大燕!!」


大きな風の矢を放った。風の矢は空に上っていった。そして、壁にぶつかり止った。

その瞬間、天地達を閉じ込める空間の壁が見えた。


「あそこだ!行くぞ!!」


「……うん」


由美の声は天地の足音でかき消された。天地と由美は壁の前に来ると五龍神と疾風丸を構えた。

そして、同時に壁を切り裂いた。壁が切れると同時に空間を区切っていた壁が崩壊した。

動かない魁人の服を引っ張り、地面を引きずりながらやってきた。


「どうやら、出られたようね」


「ああ。それより、魁人はまだ動かないのか?」


「結構…鈍い音してたから……」


「確かに……」


「天地は……平気だよね?……あれくらい」


由美はそう言って天地の顔を見て微笑んだ。

苦笑いを浮かべながら天地は、鼻の上を掻いた。

実際、あんな鉄拳をくらったら、天地だってひとたまりも無いだろう。

自分が殴られた所を想像すると、体中が恐怖で震えた。


「そ、それより、ち、千春を探そう」


若干天地の声が震えていたが、由美と昴はそんな事は気にしないで歩き始めた。

天地も、ゆっくりと二人の後を追った。


この度、アクセス数が500人を超えました。

僕としては、大変嬉しく、満足しています。

読者の皆様には感謝しております。ありがとうございます。

始めの頃は一日十人も行かず、これって僕の書く小説は面白くないのかと、自信を失くした事もありましたが、まさか500人を超えるとは思いませんでした。

僕の書く小説で、悪い所があればドンドン言って下さい。

なるべく、直す様に努力したいと思います。

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