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激闘戦鬼  作者: 閃天
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第二十章 ただいま

目を覚ましたのは自分の部屋のベッドの上だった。

体中がズキズキ痛み重たかった。天地は体を起こして窓の外を見た。

外は雲が掛かり薄暗く、雨が降っていた。雨の日は嫌いだった。

雨の日に由美は居なくなったからだ。天地はそんな風な事を思いながら空を見上げていた。

窓に雨が当たりぬれていた。天地はため息を吐き、台所に向った。

その時、部屋のドアをノックする音がした。天地は重い足をゆっくりと動かし、玄関に向った。

ドアを開けると、目の前には由美が立っていた。

天地は暫く目の前の光景に呆然としていたが、あの日の事を思い出した。


「オオッ!」


驚きの声を上げて由美の顔をマジマジと見た。恥ずかしそうに顔を背けた由美に、天地は首を傾げて言った。


「お前、本当に由美か?」


「エッ?」


「実はドッキリで誰かが変装してるとか?」


「どうして・・・・・・。そう思うの?」


「何となくかな?」


そう言いながら笑い出した。由美はムスッとした表情で天地の顔を見ていた。

そこに、祐二がのんびりと歩いてやってきた。


「何してるんだ?そんな所で?」


「オッ!祐二」


「何だよ。見せ付けやがって・・・・・・。アツアツだな」


笑いながら二人の肩を叩いて通り過ぎていった。

取り合えず、部屋の中で話をする事にした。

天地はベッドに寄りかかりながら座った。天地の向かいに由美は座った。

テーブルを挟み向い合った二人だが、何から話していいか分からなく沈黙が続いていた。

その光景を台所の窓から見ている者達がいた。


「おいおい・・・・・・。何か話せよ!」


「ちょっと!祐二!押さないでよ!」


「うるさいな!静かにしないと、ばれるぞ!」


「二人とも、覗きなんて駄目ですよ!」


「そうだよ。バレたら大変だよ」


覗きをしている昴と祐二を、暴走が収まった魁人と千春が止め様としていた。

だが、祐二は二人の方を見て不敵に笑いながら言った。


「バレなきゃいいんだよ。それに、お前達だって、気になるんだろ?」


「な、何言ってるんだよ。そんな事無いよ・・・・・・」


と、言いつつ魁人は窓から中を覗き始めた。


「ちょ、ちょっと!魁人さんまで!」


「千春も気になるんでしょ」


「そ、そんな事・・・・・・」


千春もそう言いつつ部屋の中を覗いてしまった。

もちろん、その声は部屋の中の天地と由美には聞こえていた。

ゆっくりと立ち上がった天地は窓の方を見て叫んだ。


「お前ら!全部聞こえてるぞ!!」


「やばい!バレた!散れ!!」


と、祐二の声が響きバタバタと足音がして静まり返った。

ため息を吐きゆっくりと腰を下ろして、由美の方を見た。

何から話していいか、わからなかった天地は取り合えず言った。


「久しぶりだな。傷の方はもういいのか?」


「うん・・・・・・。少し・・・・・・後が残るけど・・・・・・」


「そっか・・・・・・」


申し訳ないと言う気持ちで一杯だった。だが、口にする事が出来なかった。

暫し沈黙が続き、雨音だけが響き渡った。

久しぶりに会って、話したい事が沢山あったはずだったが、なかなか言葉が出なかった。

由美も同じだった。

話したい事が沢山あり、何から話していいか分からないでいた。

そんな時、天地がゆっくりと立ち上がり台所に向った。

その天地を由美は目で追った。

冷蔵庫の中を見てから由美の方を見ていった。


「ちょっと、飲み物買って来るから、待っててくれ」


「うん・・・・・・。わかった・・・・・・」


財布を持って天地は部屋を出た。そして、階段を下っていた。

それと同時に祐二の部屋から、祐二と昴が出て来た。そして、魁人の部屋からは魁人と千春が出てきた。

四人は天地の部屋の前に集まり話し合いを始めた。


「このままだと、話が進まないぞ!」


「そうね。私達で何とかしましょう!」


「エッ?何とかって?」


「どうするつもりですか?」


「取り合えず・・・・・・」


昴は三人に小さな声で耳打ちした。


「それじゃあ!魁人と祐二は天地の方を任せるわ!」


「おう。任せろ!由美の方は任せたぞ!」


そう言って祐二は魁人を連れて天地を追いかけた。昴と千春は天地の部屋に入っていった。

天地の部屋に居た由美は、天地が帰ってきたと思い玄関の方を見た。

しかし、そこにいたのは昴と千春だった。

昴と千春は由美のそばに駆け寄った。


「昴に・・・・・・千春・・・・・・。どうしたの?」


「どうしたのじゃないわよ!」


「何が?」


「久しぶりに会ったのに、話す事無いわけ?」


「向こうが・・・・・・話さないから?」


落ち着きながら昴の顔を見てそう言った。昴は由美の横に座り気を静めた。

その後ろに千春がゆっくりと腰を下ろした。


「久しぶりに会ったんだから何か話しなさいよ!」


「でも・・・・・・」


「でもじゃない!」


昴は由美に説教をはじめた。黙って由美はそれを聞いていた。

一方、飲み物を買いに出かけた筈の天地が、寮の入り口で立ち止まっていた。

丁度、そこに祐二と魁人が降りてきた。

その二人に気付いた天地は声を掛けた。


「お前ら!さっきは人の部屋覗きやがって!」


「まぁまぁ。それより、何で話さないんだ!」


「お前に関係あんのかよ!」


「久しぶりにあって、話したい事も沢山あるんだろ?」


「だから・・・・・・。お前に関係ないだろ・・・・・・」


「わかってるって、ちゃんとアドバイスしてやるって」


「そうだよ!僕もアドバイスするよ!」


「いや・・・・・・。人の話聞いてるか?」


呆れながら天地はそう言ったが、祐二と魁人はそんな事はお構いなしに話を続けた。

結局、飲み物を買いに行く事が出来ず、天地は自分の部屋に戻った。

その時には、昴と千春も居なくなっていた。

疲れた様子の天地はベッドにもたれて座った。

何も手にしていない天地に由美が言った、


「飲み物・・・・・・買いに行ったんじゃ?」


「ああ、行ったけど、この雨じゃあな・・・・・・」


「私・・・・・・部屋から取ってこようか?」


「いいって、別に」


笑いながら天地はそう言った。

祐二と魁人からのアドバイスなど、すっかり忘れてしまっていた。

由美も昴のアドバイスをすっかり忘れていた。

だが、由美は意を決した様に立ち上がった。急に立ち上がった由美に驚き、天地は仰け反った。


「ど、どうした?」


「た、た、ただいま・・・・・・。まだ・・・・・・言ってなかったから・・・・・・」


そう言って、由美は顔を真っ赤にして玄関の方に走っていった。

暫し、ポカーンとしていた天地だった。結局、話したい事は話す事が出来ず、天地は一人部屋に残された。

雨が窓に当たる音が部屋の中に響いていた。

そんな、静かな部屋に天地と魁人と昴が駆け込んできた。


「ちょ!ちょっと!!どういうつもりなの!」


「な!お前ら!勝手に入ってくるなよ!」


「それより!全然話してなかったじゃない!」


「そうだ!お前やる気あんのか!」


天地の言葉など聞かず、祐二と魁人と昴の三人の不満の声が上がった。

雨の音など、この三人の声に比べれば、とても静かな方だった。

三人の声が同時にバラバラの言葉を発し、天地は全く聞き取れなかった。


「ちょ!ちょっと待て!一斉に喋るな!」


大きな声で怒鳴った天地に三人の視線が集中した。

天地は三人を座らせて、話を聞く事にした。

天地の向かいに魁人が座り、右側には祐二が座り、左側には昴が座った。

ゆっくりと三人の顔を見回して、天地は言った。


「それで、何?」


「いや・・・・・・。どうして、何も話さないで帰したのかな?って」


厳しい表情の天地に、恐る恐る祐二はそう言った。魁人と昴は縦に頷きながら、天地の方を見た。

ため息を吐きながら天地は話を始めた。


「話そうとしたら、あっちがただいまって言って帰っていったんだ!」


「普通、ただいまって言ったら、お帰りって返すわよね」


「そうだよね」


昴の言葉に魁人がそう言って頷いた。鋭い視線で昴と魁人を睨み付けた天地は、深いため息を吐いた。

顔を俯けたまま天地が暫く動かなかった。

祐二は天地の顔を覗き込んだ。その瞬間、天地の拳が祐二の額に落ちた。


「ぐあっ!」


額を殴られた祐二は、床に伏せながら苦しんでいた。

そんな祐二をそのままにして天地は話始めた。


「俺だって、お帰りくらい言いたかったけど、なんかさ・・・・・・」


「そんな事でいいの?」


強気な声で昴がそう言った。こう言う事になると、昴は強い態度を取る。

そんな時だった、オウガの気配を感じた。

天地と魁人は同時に立ち上がった。厳しい表情の昴はゆっくり立ち上がり叫んだ。


「何で、こんな時に出てくんのよ!」


「まぁまぁ、話は後でも出来るし・・・・・・」


「祐二!留守番頼んだぞ!」


天地は苦しんでいる祐二にそう言い残して部屋を出た。寮の一階には由美と千春が三人の事を待っていた。


「急いで・・・・・・。今回は・・・・・・絶鬼の気配を感じる・・・・・・」


「絶鬼か・・・・・・。気を引き締めていくぞ!」


天地達は気合を入れて雨の中を走り出した。



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