第一章 入学式に少女と化け物
早朝から一人の少年がランニングをしていた。
彼は今日からこの街の天神学園に通う事になる高校一年生の神野 天地。
この街に来てまだ間もない天地は、ランニングをしながら街の中を探索していた。
暫くして、人通りが多くなったのに気付いた天地は携帯で時間を確認した。
「ゲッ!もうこんな時間じゃないか!急いで寮に戻らないと!!」
そう言って来た道を引き返したが、どこをどうやって来たのかすでに忘れていた。
道に迷いながらも天地は寮にたどり着く事が出来た。
寮に着くと同時に一人の女性が微笑みながら声をかけた。
「おはよう。天地君。運動もいいけど、入学そうそう遅刻はまずいわよ。」
「わ、わかってますよ・・・・。」
彼女はこの寮の管理人で天地の母の姉で幼い時から色々と面倒を見てもらっている。
二階にある自分の部屋に戻った天地は制服に着替えて学校に行く準備を済ませた。
部屋を出ると、一人の少年と会った。
天地よりも少し身長の低くかった。
「天地。遅いぞ。」
彼は天地と同じ中学に通っていた。名前は倉敷 裕二。
裕二は少し厳しい目つきで天地を見た。
「悪い。待たせたな・・・・。」
笑いながら天地は頭を掻いた。
裕二は呆れ顔で天地を見ていた。
「お前さ・・・・。」
何かを言おうとした裕二の言葉を遮り天地は叫んだ。
「話は後だ。急ぐぞ!裕二!」
天地は走り出した。その後に続いて裕二も走り出した。
一階にいる管理人に挨拶を交わし、学校へと走った。
ランニングをした後だと言うのに天地は疲れを感じさせなかった。
学校に着くと新入生が運動場に集まっていた。
「ギリギリセーフ!」
「そうでもないぞ・・・・。」
体育館から新入生を迎える行進曲が天地達の方まで聞こえた。
そして、新入生が順番に体育館へと歩き出した。
「ちょ!ちょっと待て!!」
「天地・・・・。諦めろ、完璧に遅刻だ・・・・。」
「俺はそんなの嫌だ〜!」
「お前が嫌でも、もう間に合わん。」
結局、天地と裕二は入学式には間に合わず、体育館に入る事を許されなかった。
二人は仕方なく、自分の教室へと向った。
幸いにも、二人のクラスは同じだった。
静かな教室で天地と裕二の二人の声が響いた。
「グゥソ〜!初日から遅刻なんて・・・・。」
「誰のせいだと思ってんだ?」
「うるせぇ〜。全部俺のせいだよ・・・・。」
「わかってるならいいや。」
そう言って裕二は窓から外を見た。
窓の外には人気の無い校舎の裏で木々が生い茂っていた。
そこに、一人の少女の姿が見えた。制服を着ている事からこの学校の生徒であるとわかった。
「おい、天地」
天地を呼んだが、返事が無かった。
「天地!聞いてるか」
もう一度天地を呼んで振り返ったが、そこに天地の姿は無かった。
その時、窓の外から天地の声がした。
「裕二!ちょっと行って来るから、後は任せるぞ。」
「あ、あぁ・・・・。わかった。気をつけろよ。」
「おう!」
そう言って天地は拳を突き上げた。
木々の中に走っていく天地の姿を見送った裕二はゆっくり息を吐くと椅子に腰をおろした。
一方、天地は木々の中を走っていた。
「確か、この辺で気配がしたんだが・・・・。」
気配を感じながら走っていると広い場所に出た。
そこには何も無く、一人の少女だけが立っていた。
可愛らしい顔つきで身長は少し小さかった。
彼女は片手に布に来るんだ長い物を持っていた。
「何してるんだ!こんな所で!(まさか、この娘があの気配の正体?)」
少女にそう叫んで天地はゆっくりと近づいた。
その時、少女が天地に向って呟いた。
「何しに来たの・・・・。」
少女は天地を睨みつけた。
その時、凄まじい音と共に少女の後ろから何かが飛び出した。
「危ない!!」
天地はそう叫んでそれを蹴り飛ばした。
少女の前に着地して天地は目の前の物体を見た。
目の前には二本の角を生やした化け物が立っていた。
体格は大きく、口からは牙が剥き出しになっていた。
目は一つで体の色が赤色だった。
(チッ!怒の鬼か・・・・。)
そう思いながら天地は目の前の化け物を見ていた。
その時、体が後ろに引っ張られた。
「ぐっ・・・・。」
後ろに倒れこんだ天地の前に少女が立ちはだかった。
「何するんだ!!」
「危ないから・・・・。邪魔しないで・・・・。」
彼女はそう言って布に包まれた物をだした。
布の中から出てきたのは刀だった。
彼女は刀を抜くと鞘を天地に投げた。
「持ってて・・・・。」
唖然としながら天地は鞘を受け取った。
彼女は刀を構えると化け物を睨みつけた。
暫し、沈黙が続いた。
先に動いたのは化け物の方だった。
化け物は大きな拳を振り上げて少女に振り下ろした。
少女は化け物の拳を右に避けて刀で化け物の腕を斬った。
「ウガアアアアッ!!」
化け物の腕からは血が飛び散った。
その血が付かない様に天地と少女は化け物から距離をとった。
化け物はゆっくりと少女の方を向いた。
そして、怒りをあらわにして向かっていった。
「グオオオオ!!」
もう一方の腕で少女に殴りかかった。
その拳を避けた少女は腕を斬ろうとした。だが、化け物は少女に肘打ちをした。
「くっ・・・・!」
肘打ちをとっさに刀で受け止めたが、化け物の力に押し負け吹き飛ばされた。
刀は地面に転がり、少女は地面に倒れ込んだ。
ゆっくりと化け物は少女に歩み寄っていった。
そして、拳を振り上げた時だった。
「これでも、くらえ!」
天地は近くにあった木の棒で化け物の右足を殴った。
バランスを崩した化け物は後ろに倒れた。
天地は彼女に駆け寄った。
「大丈夫か?」
「大丈夫。それより、邪魔しないで・・・・。」
「待てよ!助けてやったのに!邪魔するなだと!!俺も一応ハンターなんだぞ!」
「・・・・。」
彼女は天地の言葉を無視して刀を手に取った。
そして、刀に向って力を集めた。
「行くよ・・・・。疾風丸。」
そう言って彼女は化け物に向って走り出した。
化け物はそれに気付き彼女に殴りかかった。
だが、拳は空振り地面に突き刺さった。
彼女は空高く飛び上がった。
「散りなさい・・・・。疾風一閃!!」
彼女はそう言って刀を振り下ろした。
すると、凄まじい風の刃が化け物を切り裂いた。
天地はその威力に吹き飛ばされた。
風が収まった時には、化け物の姿は無かった。
「鞘を返して・・・・。」
少女はそう言って天地に手を差し出した。
天地は鞘を渡して立ち上がった。
鞘を受け取ると少女は刀をしまった。
そして、天地に一言言った。
「武器、持って無いのにオウガと戦おうとしないで・・・・。」
「俺の武器はな!!」
反論をしようとした天地だったが、少女はそれを聞かずに歩き出した。