第十八章 亀裂
蒼い光の中で、髪の長い少女がいた。
右手には刀を持っていて、蒼いワンピースを着ていた。
彼女は蒼い光の強い所に目をやった。そこから、優しく暖かな声が響いた。
『もう、私の教える事はありません。よく試練に耐えました』
「・・・・・・はい」
彼女はゆっくりうなずいた。
『それでは、皆のもとに戻しましょう』
「あの・・・・・・。お願いが・・・・・・」
『何でしょう?』
小さな声で、光にお願いした。
『良いでしょう。それでは、さようなら。私の主の愛しき者よ』
「ありがとう・・・・・・。蒼き龍さん・・・・・・」
彼女はそう言って微笑んだ。そして、その蒼い光の中から姿が消えた。
相変わらず、天地・祐二・魁人の三人は、屋上で昼休みを過ごしていた。
弁当を食べ終わった天地は、屋上に横になって眠っていた。
蒼い空には白い雲とギラギラと輝く太陽が浮かんでいた。
中間テストも終わり、運動場からは大勢の生徒の声が聞こえていた。
もうすぐ梅雨の時期だと言うのに、全く雨の降る気配がない。
セミの声が学校の裏の林から響き渡ってきた。
寝ている天地の横で、弁当を食べている祐二は、少し元気がなかった。
「はぁ〜っ・・・・・・」
ため息を吐き、暗い表情で俯いた。テストの結果が悪かったのだ。
もちろん、魁人はその事を知っていた。だから、なかなか声を掛けられないでした。
弁当を一口食べてはため息を吐く祐二に、寝ていた天地が急に置きだして怒鳴った。
「ダーッ!ため息ばっかり吐きやがって!空気が重いじゃないか!!」
「はぁ?空気は軽いに決まってるだろ?」
怒鳴った天地に祐二はそう言って、もう一度ため息をついた。
「ため息を吐くな!雰囲気が悪くなるだろ!!」
「まぁまぁ。そんなに怒らなくても・・・・・・」
苦笑いをしながら、魁人は天地をなだめた。怒りのおさまらない天地は、さらに怒鳴った。
「大体、魁人も魁人だぞ!あんなにため息吐いてるんだから、何か言ってやれよ!」
「エッ!何で、僕が怒鳴られなきゃならないのさ!」
怒鳴られた魁人は天地に言い返してきた。少しの間、天地と魁人の言い争いが起こっていた。
二人をなだめようと、祐二が立ち上がり二人の間に入った。
「まぁまぁ・・・・・・。やめろよ。一体なんで喧嘩になったんだ?」
その祐二の言葉に、天地と祐二は同時に答えた。
「お前のせいだろ!」「君のせいだよ!」
結局、仲直りしないまま昼休みが終わり、険悪なムードのまま岐路に着いた。
寮に続く道はいつも以上に、静かだった。いつも話をしながら帰っているからだろう。
今までは、すぐに仲直りしていたのだが、今回はまだ仲直りしていなかった。
天地と魁人が喧嘩をするなんて、そんなに無かった。
そんな中、オウガの気配が天地達の所にとどいた。天地と魁人は同時にオウガの気配のする方に走り出した。
もちろん、鞄は置きっ放しで・・・・・・。
祐二はため息を吐きながら、天地と魁人の鞄を拾い寮へと歩き出した。
住宅街の続く道を天地と魁人は走っていた。車の通りは少ないが、人通りは多くなっていった。
暫く走っていると、オウガの気配が突然消えた。
その場に足を止めた天地と魁人は、オウガの気配を探った。
「くっ!何処に消えた!」
そう言いながら、天地はオウガの気配を探った。しかし、いくら探ってもオウガの気配は感じられなかった。
天地と魁人が引き返そうとした時、またオウガの気配を感じた。
先程とは全く違う強い力を感じた。
「どうなってんだ!」
そう言った天地だったが、魁人からの返事は無かった。それどころか、魁人は天地を置いて先に行ってしまった。
やはり、まだ怒っているようだ。天地はため息を吐き魁人の後を追いかけた。
市街に入って、さらに人通りが多くなった。どの店も活気で溢れ返っていた。
活気溢れる市街の道を走っていると、人気の無い裏道に続く横道があった。
そこから、オウガの気配がしていた。
すぐにその横道に入っていった魁人の後を、天地は急いで追いかけた。
気配の強さから、憎のオウガだと感じていた。
意外と広い裏道には、禍々しい殺気を漂わせたオウガが立っていた。
両手には鋭い三日月形の剣を持っていた。体格は天地と魁人と殆ど変わらない。
頭に生えた二本の角は鋭く、口から出た牙は更に鋭かった。
「ハンターか・・・・・・」
ゆっくりとした口調でそう言って、天地と魁人の方に体を向けた。
ピリピリとした空気が漂い、体中が重く感じた。
「悪いが、お前達ハンターの相手をするほど、暇じゃないんだ」
「何だと!」
「そっちに無くても、こっちにはあるんだ!」
水鮫神を構えて、魁人はオウガに向っていった。早く鋭く突き出した水鮫神の勢いを、オウガは持っていた剣で勢いを抑え込んだ。
「な!?」
反撃を食らうと思った魁人は、すぐに距離をとった。
しかし、オウガの反撃は無かった。
「どういうつもりだ!」
「言った筈だ。ハンターの相手をしている暇は無い」
「なら、大人しく消え去れ!」
そう叫んだ天地は五龍神に力を集めた。
「目覚めよ!火龍神!」
五龍神が火龍神に変化した。それと同時に火龍神をゆっくりと構えた。
魁人も腰を低くして水鮫神をゆっくりと引いた。
火龍神の周りには、燃え盛る炎が渦巻いた。一方、水鮫神の周りには水が渦巻いていた。
そして、同時に叫んだ。
「燃え盛れ!炎裂弾!」「噛み砕け!水牙鮫!」
火龍神から放たれた炎は、分裂して一気にオウガに向っていった。
水鮫神から放たれた水の渦も、鮫の形に変化しオウガに向っていった。
しかし、オウガに届く事無く炎と水はぶつかり合い、相殺した。
その瞬間、白い蒸気が辺りを真っ白に染めた。蒸気が消えた時には、オウガの姿は無かった。
「くっ!逃げられた!」
悔しそうに魁人はそう言った。その魁人に天地は叫んだ。
「おい!どういうつもりだ!」
「・・・・・・」
天地の言葉に魁人は返事をしないまま裏道から出て行こうとした。そんな魁人の態度に、天地はムカッと来た。
「おい!待て!」
天地は魁人の肩を掴み、そう言うと自分の方を向かせた。
鋭い目つきで魁人は天地をにらんだ。そして、いきなり水鮫神で天地に襲い掛かった。
この前のオウガとの戦いが終わった後から、魁人の様子がおかしかったのは分かっていた。
魁人から距離をとった天地に、闘志をむき出しにして歩み寄ってきた。
「どうしたんだ!魁人!!」
「僕の邪魔をするな!!」
リーチの長い水鮫神が天地に襲い掛かってきた。鋭く早い突きを、火龍神で何とか防いでいたが、水鮫神の刃は確実に天地の体を捕らえていった。
激しい魁人の攻撃に、天地は防戦一方だった。
「そ!そっちがその気なら!!」
突き出された槍の刃の側面を蹴り上げて、魁人の攻撃の手を緩めるとすぐに距離をとった。
火龍神の周りに燃え盛る炎が集まり渦巻いた。
「燃え盛れ!炎裂弾!!」
炎は分裂して魁人に向って飛んでいった。しかし、魁人も腰を低く落とし水鮫神を引いた。
水鮫神の周りに霧状の水滴が渦巻いていた。
「喰らい付け!霧鮫連牙!」
水鮫神を突き出すと同時に、無数の霧状の鮫が分裂した炎に向って飛んでいった。
炎と霧状の鮫がぶつかりあい、蒸気で真っ白に染まった。
相殺したかに見えたが、その蒸気の中から天地に向って霧状の鮫が一匹飛んできた。
完全に不意を突かれた天地は、完全に避ける事が出来ず、霧状の鮫の体に触れてしまった。
その瞬間に触れた所が切れて、血しぶきが舞った。
地面に膝をついた天地に向って、蒸気の中から魁人が歩み寄ってきた。
「これで、終わりだ!」
水鮫神を引いた魁人の背後で昴の声が響いた。
「何!やってんのよ!」
「そうですよ!ハンター同士が傷つけあってどうするんですか!」
昴の横で千春がそう言った。ゆっくりと二人の方を見た魁人は不敵に笑っていた。
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