第十六章 突然変異
中間テストが終わり、天地達は午前中で学校が終っていた。
のんびりと人通りの無い寮に続く道を歩く天地達。
落ち込んでいる者が居れば、嬉しそうな者やいつもの変わらない者も居た。
「そんなに落ち込むなよ。」
「そうだよ。中間何だしさ。」
天地と魁人が裕二の両端を歩きながらそう言った。ため息を吐いた裕二は魁人を見た。
「お前はいいよな。スラスラ解いていってたから・・・・。」
「そんな事ないよ。」
「全力を尽くしたんだ。それで、いいじゃないか?」
右側を歩いている天地がそう言うと、裕二はいきなり天地の前に立ち怒鳴った。
「うるさい!お前はいいよ!勉強できるんだから!」
「エッ!天地君って、頭良いの?」
「普通じゃないか?」
そう言いながら両手を頭の後ろに持っていった。その時、裕二の人差し指が天地の目の前に差し出された。
ゆっくりと、裕二の顔を見た。鋭い目つきで裕二は天地を睨んでいた。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「三年連続、学年トップのくせに普通なのか!」
「エエッ!三年連続って、凄いじゃないか!」
「俺達の通っていた中学のテストが簡単だったんだよ。」
寮に続く道で立ち止まり、話をしている三人の後ろから、昴・千春・歩美の三人がやってきた。三人は天地達が騒いでいるので、話に加わる事にした。
「何、話してるの?」
天地と魁人の間から顔を出して、昴がそう言った。それに続き、歩美・千春の順にやって来た。
裕二は先程の話を昴達、三人にも聞かせた。すると、昴と歩美は怒りをあらわにして怒鳴った。
「ちょっと!本当はカンニングしてたんじゃないの!」
「そうよ!授業中も寝てるあんたが、三年連続トップなんてありえないわ!」
疑いの目で昴と歩美は天地を見た。眉間にしわを寄せた天地は、軽く睨みをきかせながらその二人の顔を見た。
険悪な雰囲気があたりにただよった。
今にも喧嘩になりそうだった。何とかしようと、魁人がその間に入った。
「まぁまぁ。この話は、もう終わりにして早く寮に帰ろうよ。管理人さんも待ってるんだから」
「魁人は、黙ってて。」
「私達は真相を突き止めたいのよ!」
「うっ・・・・。」
鋭く厳しい目つきで睨まれた魁人は、おとなしく引き下がった。
その魁人の横で裕二が楽しそうに笑っていた。
「ちょっと、何笑ってるんだよ!」
「クククッ・・・・。だ、だってさ・・・・。」
「もしかして・・・・。」
「全部、嘘だから。」
そう言った瞬間、裕二の右頬には昴の拳が、左頬には歩みの回し蹴りが飛んできた。
両方が顔に直撃して、裕二は崩れ落ちた。
その横に立っていた魁人は呆然と立ち尽くしていた。
そして、二人の怒りは天地にも飛んだ。
しかし、右頬に飛んできた拳を右手で押さえて、左頬に飛んできた蹴りを左手で受け止めた天地は嫌味に笑った。
「甘いな!俺が、裕二と同じ!?」
その時、右足を掴まれている歩美が空に舞った。スカートがヒラヒラと揺れて、同時に天地の頭に左足の踵が直撃した。
まさか、歩美がこの様な身軽な動きが出来ると思わなかった、周囲にいた皆が驚きの声を上げた。歩美はビシッと、着地を決めてスカートを叩きながら息を吐いた。
頭に踵を落とされた天地は、一瞬で地面に崩れ落ちた。
「女だからって、甘くみると痛い目見るわよ!」
そう言うと、歩美は寮に向って歩き出した。感心しながら昴は歩美の後に続いた。
千春は天地の側に来ると、顔を覗き込んだ。
激痛の走る頭を右手で押さえながら体を起こした。
「だ、大丈夫ですか?」
「イデデッ・・・・。頭がフラフラする・・・・。」
「油断したね・・・・。」
魁人はそう言って道に倒れている天地と裕二の二人の顔を見た。
痛みを堪えながら、天地と裕二は寮に向った。魁人は裕二に肩を貸して、千春は天地に肩をかしていた。
「どうして、あんな嘘ついたのさ?」
「嘘は三年連続トップって言うのだけで、本当にテストは上位の方にいたんだぞ!」
「お前の嘘に付き合ったせいで、俺は踵落としだぞ・・・・。」
まだ、頭がきしむ様に痛かった。その時、市街の方からオウガの気配が漂ってきた。
魁人は裕二の肩から手を離しその方向を見た。その瞬間、裕二はバランスを崩し地面に倒れた。
ハッとした魁人は裕二の方を見て誤った。
「ご、ごめん!つい!」
「ついじゃないだろ!くっ〜。また鼻打った・・・・。」
「そんな事より、魁人と千春は先に行ってくれ・・・・。
俺は、ゆっくり後から行くから・・・・。」
「わ、わかりました。それじゃあ・・・・。」
千春はそう言って天地の肩から手を離した。鞄を下ろして、水鮫神だけを持って魁人は走り出した。それに続くように千春が走り出した。
天地は道に座り込み息を吐いた。そんな天地に裕二は言った。
「あの二人だけで大丈夫か?」
「昴も来るだろうから・・・・。一応、俺も後から行くし・・・・。」
「手遅れにはなるなよ。」
「あぁ。誰かが傷つくのはもう嫌だからな・・・・。」
そう言って鞄を下ろして、ゆっくりと立ち上がり五龍神を手に取った。
そして、裕二に向って右の拳を出して、笑みを浮かべた。それに対して、裕二も右の拳を出して笑った。
「そんじゃあ、行って来るわ。」
「おう。気をつけろよ。」
天地は裕二に背を向けて走り出した。
市街にやって来た魁人と千春はオウガの気配を探った。オウガの気配はビルの屋上からだった。いつの間にか、人格の変わっていた千春は立ち並ぶビルを見ながら言った。
「あなたは、あちらのビルを私はこちらのビルを探しますわ!」
「別々に行動したら、オウガの思う壷じゃ・・・・。」
そう言った魁人に千春の鋭い視線がとんだ。その視線は痛く、冷たかった。
息を呑み、一歩後ずさりした。
「一緒に行動してたら、時間が掛かるわ!」
「ですが!」
「それに、あなたが居ても足手まといですわ!」
この言葉が、魁人の胸に突き刺さった。少しの間、放心状態になった。そんな魁人を尻目に千春は、ビルの中へと入っていった。
気を取り戻したのは、歩いている人にぶつかってからだった。
魁人は被害が拡大しないように結空陣を張った。そして、千春に指示された様にビルの中に入っていった。
最初に魁人の入ったビルの屋上にオウガがいた。オウガはビルの角に立ち街を歩く人達を見下していた。
背中には大きな翼が付いていて、大きな角が一本額から出ていた。体は怒のオウガと同じくらい大きく。腕はとても長かった。両手の爪は鋭く、右手には大きな斧を持っていた。
「ウウーッ!ハンターノ、気配ヲ感ジル!!」(ううーっ!ハンターの気配を感じる!!)
片言の言葉でそう言うと、ゆっくりと魁人の方を振り返った。目は真っ赤で、鋭い目つきをしていた。その目からは、殺気を感じた。その殺気に魁人は飲み込まれていた。
足を動かそうとしても動かず、寒気が体を襲った。
「ハンターハ、皆殺シ!」(ハンターは、皆殺し!)
そう言って、オウガが鉄柵を越えて魁人に向って突進してきた。
足の動かない魁人は、突進してきたオウガの肩を両手で押さえて耐えた。
しかし、その勢いは凄まじく、後ろに押されていった。
壁とオウガに挟まれ、魁人は押し潰されそうになった。
「ぐああああっ!!」
魁人の叫び声が響いた。それは、向かいのビルの屋上にいた千春の所まで聞こえた。
雷犬神を構えてオウガに狙いを定めると、千春はゆっくりと雷犬神を振り上げた。
「やはり、足手まといになりましたわ!」
そうぼやきながら、雷犬神に力を集めた。雷犬神の周りには蒼い稲妻が集まり、バチバチっと音を立てていた。
「轟け!雷鳴!!」
雷犬神を勢いよく、振り下ろすと、向い側のビルに居るオウガに蒼い稲妻が落ちた。
稲妻を背中に喰らったオウガは、力を緩めて後ろを振り返った。
「マダ、他二ハンターガイルノカ!」(まだ、他にハンターがいるのか!)
「ガハッ、ガハッ・・・・。」
魁人は膝を付き、口から血を吐いた。体中痛くて、動く事が出来なかった。
オウガはキョロキョロとしていたが、すぐに魁人の頭を掴み上げた。
このオウガはハンターの気配を上手く、察知できないでいたのだ。
怒のオウガの突然変異で、少し喋れる様になったようだ。
「ぐぐっ・・・・。」
頭を捕まれ、苦しむ魁人をオウガは壁に叩き付けた。一度目で壁にひびが入り、二度目で壁が崩れた。魁人はそのまま、投げ飛ばされて、瓦礫に埋もれた。
オウガは雄叫びを上げて暴れまわっていた。
向かいのビルからそれを見ていた千春は小さく舌打ちをして、走り出した。