第十四章 轟く雷鳴
血だらけの人達に囲まれた天地と魁人は背中合わせに立っていた。
そんな二人を見て、オウガは笑いながら言った。
「これが、私の能力。屍を操る力!」
屍は天地と魁人をジリジリと追い詰めて行った。
「このままじゃ、まずいよ!」
「そう言われても、屍が相手じゃな・・・・。」
「そんな事言ってる場合じゃないよ!」
「そうだな。それじゃあ、散るか・・・・。」
そう言った天地の方を見ようとした魁人だったが、急に体が宙に浮き驚いた。そのせいで、声が裏返った。
「ちょ!な、な!」
「そんじゃ!行って来い!!」
魁人の体を勢いよく投げた。体の軽い魁人は軽々と飛び、ジェットコースターのレールに乗っかった。
心臓がバクバク言っている魁人はレールに立ち上がり、天地の方を見て怒鳴った。
「ちょっと!何するんだよ!!死ぬかと思ったよ!!」
「生きてるんだから、いいだろ。」
「そう言う問題じゃなくて!」
「気をつけろ!来るぞ!!」
天地のその言葉で、横から飛び出してきたオウガの右の拳を避ける事が出来た。
「チッ・・・・。」
舌打ちをしながらオウガは魁人の方を見た。その時、レールの向こうから何かが迫ってくる音が聞こえた。
まさかと思った魁人の予感は当たった。
無人のジェットコースターがオウガの後ろから走ってきた。オウガはそれに飛び乗り笑いながら目の前を走っている魁人を見ていた。
「な!何で!!僕ばっかり!!」
一生懸命走る魁人だが、人がジェットコースターの速度に勝てる訳も無かった。
しかし、魁人は間一髪の所で、レールから飛び降りた。しかし、降りた所がさらに最悪の場所だった。
「ウウッ・・・・。酷い目にあった・・・・。」
立ち上がりながら服に着いた埃を払っていた。辺りを見回したが、何の気配も静かだった。
薄暗く光は魁人が落ちてきて壊した屋根からしか入ってこなかった。
「ここ、どこだ?」
一歩踏み込んだ瞬間だった、いきなり床が抜けて魁人は下に落っこちた。
激しく体を強打し、さらに暗い場所に出た。
「まさか・・・・。迷路の迷宮に落ちたのか・・・・。」
魁人の落ちたのは複雑な道の迷路の迷宮と言う所だった。色々な仕掛けがあり、入ると抜け出せなくなる人もいるらしい。
その迷路の迷宮を魁人はさまよっていた。
一方の天地はゾンビ達の包囲網を抜け出して園内を走り回っていた。
「くっそ!早くあいつを倒さないといけないのに!」
ゾンビの大群に追われている天地は辺りを警戒していた。裕二と魁人も心配だが、今は逃げる方が先決だと考えた。
しかし、徐々に逃げ場が狭くなっていき追い込まれていっているのに気付いた。
「野郎!ゾンビのくせに頭使いやがって!」
天地は噴水広場でゾンビ達に囲まれた。その時、千春の声がゾンビ達の後ろから聞こえた。
しかし、その声は先程まで一緒にいた時と何か違った。
「少々、おふざけがすぎた様ですわ!」
ゾンビ達は一斉にその声のする方に顔を向けた。そこには、自分の背丈ほどある大剣を右横に立てて立っている千春の姿があった。
やはり、先程とは違う雰囲気を漂わせていた。
「今度は私が助ける番ですわ!」
右横に立ててある大剣をゆっくりと持ち上げた。その大剣の刃には犬の形が彫ってあった。
それを見た天地は、アレが雷犬神だとわかった。
彼女は大剣を振り上げると天地を取り囲むゾンビを睨んだ。
「轟け!!雷鳴!!」
そう叫んで大剣を振り下ろすと、その刃先から勢いよく蒼い稲妻が走った。稲妻は天地を取り囲むゾンビを丸焦げにした。
「さぁ、次はあなたの番ですわ!出てらっしゃい!!」
ゆっくりと顔を上げながら千春はそう言った。すると、近くの建物の屋根の上にオウガが姿を現した。オウガは拍手を送りながら言った。
「いや〜。凄まじい稲妻でしたよ。しかし、その大きな剣では私の動きには・・・・。」
オウガは素早く体をひねり、そのままの体勢で屋根から落ちた。地面に着地すると千春の顔を睨みつけた。
雷犬神をゆっくりと構えるとオウガを見た。
「今のをよく避けましたわ。さすがは憎のオウガですわ。」
千春はオウガが話している時に素早く蒼い稲妻を放ったのだった。
一瞬の事だったが、天地にも何とか目で追う事が出来た。
その稲妻で建物の屋根が壊れた。
オウガは笑いながら言い放った。
「ハハハハッ。その大きな剣でこの様な素早い攻撃も出来ると!さすがですね。」
「褒めても何も出ませんわよ!」
そう言うと千春は地を蹴った。それを見て、オウガも地を蹴った。
千春の雷犬神がオウガの鋭い爪と激しくぶつかった。
振り下ろされた雷犬神の勢いに押され、オウガは後ろに吹き飛んだ。
千春とオウガのぶつかりあった地面はひび割れてへこんでいた。
「どうなさったのです?私はただ振り下ろしただけですわよ?」
「くっ!私を侮辱するとは、許さん!」
そう叫んだオウガは、千春に向って突っ込んで行った。千春は大きな雷犬神で軽くオウガの爪を受け止めていった。
千春とオウガの戦いを見ていた天地は、驚きを隠せなかった。
あのおとなしかった千春が、あんな大きな剣を軽々と持ちオウガと戦っているのだから。
次第に焦りを見せるオウガに対して、余裕の表情の千春は大きく雷犬神を振り上げて叫んだ。
「これで、終わりですわ!!」
雷犬神の刃の周りに稲妻が走った。その瞬間にその場を離れたオウガに向って、千春は叫びながら雷犬神を振り下ろした。
「大地を走れ!雷鳴犬!!」
振り下ろした雷犬神の刃に集まった稲妻は、一瞬にして犬の形に変わり、そのまま地面を蹴りながらオウガに向って走りだした。オウガは腕を振り上げた。
「ウオオオオッ!切り刻んでやる!!」
鋭い爪を迫り来る蒼い犬に向って振り下ろした。しかし、蒼い犬に触れた瞬間にオウガの体を、激しい電流が流れた。蒼い犬はオウガに噛み付き天に昇っていった。
そして、雲に入ると激しい音と共に地面に落ちた。オウガは消滅し、地面は真っ黒にこげていた。
その威力に天地は腰を抜かしそうになった。
千春は天地に歩み寄り、何かを言おうとしたが、雰囲気がまた変わった。
その途端、持っていた雷犬神の重さに倒れこんだ。
「キャッ!」
その勢いでスカートが捲れた。慌てて千春はスカートを抑えた。
すぐに目を逸らした天地だったが、その目にははっきりと見えた。
「み、見ました?」
「い、いえ・・・・。」
雷犬神に気付いた千春はハッと口を押さえて目を潤ませた。
「も、もしかして・・・・。私・・・・。変わってました?」
「エッ・・・・。まぁ、変わったかな・・・・。」
「一般の人に、ハンターだってばれちゃうなんて!」
千春はそう言って蹲りシクシク泣き出した。雷犬神はいつの間にか消えていた。
泣いている千春に天地はゆっくりと言った。
「あっ。俺、一応ハンターだから・・・・。」
「エッ!そうなんですか!」
それを聞いた千春は目を輝かせながら天地の顔を見た。
暫くすると、迷路の迷宮を抜け出した魁人と、隠れていた裕二が天地と合流した。
結局、あのあと遊園地は閉園となり、天地達は千春を連れて寮に帰ったのだった。
夕日の色でオレンジ色に染まった空を見ながら、相変わらず人通りの無い寮に続く道を歩いていた。
「せっかく、遊園地に言ったのに・・・・。」
魁人はそう呟きながらため息を吐いた。その魁人の横で裕二もため息を吐いた。
「結局、絶叫マシンにしかのれなかったし・・・・。」
その二人の少し後ろを天地と千春が歩いていた。荷物持ちの天地は深いため息を吐いた。
「ふ〜っ。結局、最後まで俺が荷物持ちか・・・・。」
「わ、私が少し持ちましょうか?」
「だ、大丈夫だよ・・・・。」
心配そうにそう千春が顔を覗いたので、天地は軽く微笑みながらそう言った。
二人並んでゆっくりと歩いた。
千春は幼い頃から、オウガの気配を長く感じていると、人格が替わってしまう。
どうしてかはわからないが、そのおかげで雷犬神も使いこなしている。
その間、自分の記憶が飛んでしまうため、オウガと戦っていると言う感覚は全く無い。
そんな話を千春から聞きながら、寮へと帰っていったのだった。
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