第十三章 遊園地に現れたオウガ
遊園地に来ている天地は相変わらず一人荷物を持ち歩いていた。そろそろ、お昼だと言うのに裕二達は戻ってこなかった。
一人で皆と別れた噴水広場の噴水の前で待っているが誰一人来なかった。
ため息を吐きながら天地は蒼い空を見上げた。すると、静かに風が天地の側を横切って行った。
時は刻々と過ぎて行き、天地は誰も戻って来る気配が無いので芝生の木陰に向った。
木陰に座ると鞄の中を見た。中には、敷物・弁当・お手拭きなどその他にも色々と入っていた。
「さぁ、寂しいが一人で弁当を食べるか・・・・。」
お手拭で手を拭きながらそう呟き弁当を鞄から取り出そうとした時だった。
聞き覚えのある声が聞こえた。
「あっ!か、神野さん!」
苗字で呼ばれる事が滅多にない天地は始めは誰の事かわからなかった。
自分の事だと気付いたのは千春の顔を見てからだった。
千春は恥ずかしそうに芝生の向こう側に立って天地の方を見ていた。
「あ、あの・・・・。」
「さっきの・・・・。」
「お、お一人ですか?」
その質問に天地は苦笑いを浮かべながら答えた。
「友達と来たんだけど、一人置き去りにされて・・・・。」
「そ、そうなんですか?」
「そうだ!よかったら、一緒に弁当食べない?」
「えっ、いいんですか?」
「どうせ、一人じゃ食べきれないから。」
そう言って笑いながら弁当箱を鞄からだした。
その頃、裕二と昴の二人は中央広場にあるお店にいた。食事を採る為に来たのだろう。
二人は向かい合わせに座りジュースを飲んでいた。
グッタリと裕二は椅子の背もたれにもたれていた。一方の昴は清々しい顔でメニューを見ていた。
午前中、ずっと絶叫マシンに乗っていたため、裕二は気分が悪かった。
「ねぇ、裕二は何食べる?」
「俺は・・・・。いいや・・・・。今食べたら・・・・。吐くから・・・・。」
「もう・・・・。男でしょ?」
「男とか女とか、関係あるのか?」
ゆっくりと昴の方を見て裕二はそう言った。その顔に覇気が無く、今にも倒れそうな感じだった。
その顔を見て、昴は顔を引きつらせながら苦笑いをした。
「それより、絶叫マシンは・・・・。もう乗らないぞ・・・・。」
「そうね。午前中に全部乗ったし、次は何処行こうか?」
「絶叫マシン以外なら・・・・。何でもいい・・・・。」
そう言って裕二はテーブルに倒れこんだ。
一方、魁人と歩美の二人は遊園地の置くの池の辺にあるファミレスにいた。
向いあって座っている二人はメニューを見ていた。
「何食べようか?」
「そうだね・・・・。何がいいかな・・・・。」
二人は慎重にメニューを選んでいった。魁人はメニューを置くと複雑そうな顔をして歩美に言った。
「天地君の所に戻らなくてよかったのかな?」
「大丈夫よ。裕二と昴が戻ってるから。」
歩美はそう言って微笑んだ。そんな歩美の顔を見て、魁人も微笑み言った。
「そうだね。裕二君や昴もいるからね。」
「私達は私達で楽しみましょう。」
二人は楽しげに微笑みながら食事を楽しんでいた。
芝生の木陰で弁当を広げた天地は千春と弁当を食べていた。スカートの千春はしっかりとスカートを抑えていた。
その千春の首元にはチラチラと剣の首飾りが見えた。
その首飾りが目についた天地は千春に聞いた。
「その首飾り・・・・。」
「これ・・・・。ですか?」
千春は首飾りを左手で軽く持ち上げて天地に見せた。そして、優しく嬉しそうに微笑みながら千春は言った。
「これ、私の家に代々受け継がれてきた物なんです。」
「そうなんだ。大事な物なんだ。」
「はい・・・・。」
小さくそう言って顔を紅く染めた。そんな千春の表情に気付く事も無く天地は空を見上げた。
そんな天地の顔を千春はジッと見つめていた。
暫く沈黙が続き、草木のザワメキと風の吹き抜ける音だけが辺りを包み込んだ。
そんな風の流れに乗って、オウガの気配が漂ってきた。
天地はその気配を察知して、立ち上がったが、五龍神を寮に置いてきた事に気付いた。
(くっ!こんな時に限って・・・・。)
天地はそう思いながら下唇を噛んだ。
いつもなら、出かける時も持ち歩くのだが、今日は寮の管理人に無理やり置いて行かされたのだった。
勿論、他の二人も同じだった。オウガの気配を感じていたが、武器を持っていないため、動く事が出来なかった。
「こんな時にオウガなんて・・・・。ついて無いわ。」
「どうするんだ?このままじゃ・・・・。」
「わかってるわ。何とかしないと・・・・。」
そう言って昴はどうするか考えた。しかし、考えはまとまらなかった。
それは、魁人も同じだった。険しい表情の魁人に歩美が言った。
「どうかしたの?」
「い、いや・・・・。何でも無いよ。」
魁人はそう言って苦笑いを浮かべた。
芝生の木陰に居る天地はどうするかをずっと考えていた。
このままだと、沢山の人がオウガに食べられてしまう。しかし、今から五龍神をとりに戻っている暇は無い。
色々考えたが、やはり何も浮かばなかった。
結局、出した結論は被害を最小に抑えるために、何とかオウガを引き付けると言う事だった。
千春の方を見て、天地は言った。
「君は、今すぐここから離れるんだ。いいね。」
「神野さんは?」
「俺はやる事があるから・・・・。」
そう言うと天地は走りだした。オウガの気配のする場所からは人々の悲鳴が聞こえた。
誰かが襲われたのだろう。このオウガが憎のオウガじゃない事を願いつつそこについた。
そこには、沢山の人々が血だらけで倒れていた。
そして、その中央には1体の細身のオウガが立っていた。長い角が三本頭から生えていて、牙がむき出しになっていた。
そのオウガは天地に気付いて腕を広げて言った。
「オヤオヤ・・・・。ハンターさんのお出ましかな?
しかし、武器を持ってないと見るが・・・・。それで、私に勝てると?」
「この人達はお前が!(憎のオウガか・・・・)」
「そうですよ。私がやりました。しかし、近頃の人間の血はドロドロしていて不味いので。」
不気味に笑いながらオウガはそう言った。
この憎のオウガが、どんな能力を持っているのかわからないため、迂闊に手を出す事が出来ない天地は息をのんだ。
その頃、騒ぎに気付き客が逃げ惑う中、裕二達と魁人達が合流していた。
裕二と魁人は天地を探すと言って、昴に歩美を任せてオウガの気配のする方に向った。
「どうするつもりだ?お前も水鮫神は持ってないだろ?」
「えぇ。でも、天地君一人に頼るのはどうかと・・・・。」
「そうか・・・・。でも、俺はハンターじゃないんだが・・・・。」
「一応、ハンター見習いをやってたんだから、何とかなりますよ。」
「何とかって・・・・。」
笑みを浮かべてそう言った魁人の横で、裕二は顔を引きつらせていた。
そして、オウガと天地の対峙する場所に出た二人にオウガは気付いた。
「オヤ・・・・。仲間が来てくれた様ですが・・・・。どちらも武器は持っていませんね?」
天地の所からは建物が邪魔で見えていなかったが、声で裕二と魁人とすぐにわかった。
「天地君!大丈夫かい?」
「あぁ、まだ戦って無いからな・・・・。」
「って言うか、どうするんだ?武器無しで・・・・。」
三人の会話を聞いていたオウガは空高くまうと、ジェットコースターのレールの上に立った。
天地と裕二と魁人は合流した。
「お前!ハンターじゃないだろ!」
「仕方ないだろ!歩美は、お前らがハンターだって知らないんだから!」
「そうだよ。僕と昴が一緒に来たら変でしょ?」
「まぁ、そうだけど・・・・。とりあえず、裕二はどこか安全な所に!」
「わかってるって、俺もまだ死にたくないからな。」
そう言って裕二は近くの建物に身を隠した。レールの上から天地と魁人を見下しているオウガは顎に右手の人差し指を当てながら首をひねった。
何をする気かわからないが、二人は警戒していた。
静寂が続き、オウガはレールの上に座り込んだ。
「なぁ・・・・。何がしたいんだ?あいつ。」
「さぁ?僕に聞かれても・・・・。」
小声で天地と裕二は話をしていた。その時、オウガがいきなり立ち上がり不気味な笑みを浮かべた。
「これ以上、ハンターは集まりそうに無いようですし、そろそろ始めましょうか?」
そう言うと、辺りに血だらけで倒れていた人達が立ち上がり始めた。