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第8話:ミレーヌの思い

「くしゅっ」


ミレーヌは自分のくしゃみで目が覚めた。

いつの間に眠ってしまったのだろうか?


瞼を開けたミレーヌは上体を起こすと、足元にある上掛けが目に入った。

どうやら上掛けも掛けずに寝しまったらしい。

今は春で昼間は暖かいが、朝晩はまだまだ冷え込む。


ベットから足を下ろしたミレーヌは、周りをキョロキョロと見回すと窓の外が明るいみたいだった。


(もう、朝?)


窓へ近寄ると引かれていたカーテンをそっと開けた。

やはり辺りは明るくて朝だという事を主張していた。

テーブルと椅子が置かれたベランダの先には庭があり、色とりどりの花が咲いていた。


ミレーヌは小さい頃から花や植物が大好きで、アナタリアに居た頃は王女なのにも関わらず、庭師に混じって毎日のように庭弄りをしていた程だ。

だから、色とりどりの花たちを見てミレーヌは嬉しくなった。


そうして窓際にある椅子に腰掛けて庭を眺めていると、リリーが控えめなノックと共に寝室に入ってきた。


「おはようごさいます、ミレーヌ様」

「おはよう、りりー」


朝の挨拶を終えると、リリーはクローゼットと思われる扉を開いて、アナタリアから持ってきた服を出してきた。


「今日はこちらのお召し物でよろしいでしょうか?」

「えぇ。かまわないわ」


リリーが出してきた服は水色の裾がふんわりしていてとても動きやすそうだけど、人前に出ても恥ずかしくないようなデザインのドレス。

ミレーヌは早速着ていた寝巻きを脱ぐと、リリーに手伝われながらドレスを着た。

次に鏡の前に移動すると、水を張った洗面器が置かれ、顔を洗うと丹念に化粧を施される。

腰まである長い金色の髪の毛は櫛で艶が出るまで何度も梳かされた後丁寧に編み上げられた。

他の姫や貴族の令嬢などはこの後アクセサリーなどを着けるのだろうが、ミレーヌはそういったものは好きじゃなかった。

というのも庭弄りするのに邪魔だというだけの理由なのだが…


身支度を整え応接室の方へと行くとすでに食事の用意がされていた。

昨日の夜に比べて色々な料理が並べられていた。


「ミレーヌ様、おはようございます。お食事のご用意は整ってございます」


そう声を掛けてきたのは、セレナだった。

二十三歳で、この城に来てから七年が経つと言う。

他に二人の侍女が紹介された。


食事も終盤に差し掛かった所に廊下から足音がしたかと思うと、ミレーヌの部屋の前で音が止み、続けて扉がノックされた。

リリーが返事をして扉を開けるとそこにはダラスが立っていた。


「ミレーヌ様はいらっしゃるかな?」

「はい。只今お食事中ですが…」


そう言うとダラスは顔だけを覗かせて「食事中でしたか…すみませんが少し失礼してもよろしいですか?」と聞いてきた。

ミレーヌが彼の入室を許可すると、ダラスはミレーヌの前へやってきた。


「お食事中に申し訳ありません。昨日はマルクス様が失礼なことはされませんでしたか?」

「え?」

「いえ…マルクス様は女性の方に対しての言動が少しばかり…いや、かなり悪いので…」

「……それでわざわざ?」

「はい。マルクス様は口は悪いですが、国の事、民の事を一番に考えてらっしゃる根は優しい方なので、どうか見捨てず……ってミレーヌ様?」


普段真面目そうな彼が必死にマルクスを庇うのを見て、ミレーヌは思わず「くすっ」と笑ってしまった。

突然笑い出したミレーヌに彼は困惑しているようだった。

ようやく笑いが収まったところでミレーヌはダラスに向き直った。


「昨日の話ではマルクス様はわたくしを妃には認めてくださらないみたいだけど…でも、だからと言って国に逃げ帰ることはしませんわ」


笑顔と共にそう言ってやるとダラスは安心したかのように胸を撫で下ろしていた。


「そうですか…では…」

「その代わり、わたくしとの縁談を認めてもらえるまでその話は保留にさせてもらいたいの…やっぱりお互い納得した上でそういう話をしたいし……」

「……それで…いいんですか?」

「はい…。ところで、今日は庭へ出てみたいのですけれど、よろしいかしら?」

「え?あぁ…それは全然かまいませんが…」


突然、縁談保留の話から飛んで、庭に出たいだなんて言って、迷惑だったかしら?と一瞬思ったが、特にどちらもダメだとは言われずにミレーヌはホッとした。


「……縁談の話は保留という事で、マルクス様にお伝えさせていただきます」

「お願いします」

「では、僕はこれで失礼します。ごゆっくり」


そう言うとダラスは部屋から出て行った。

リリーは扉が閉まると神妙な面持ちで話しかけて来た。


「ミレーヌ様…縁談保留だなんて、本当によろしいんですか?」


質問の意味としてはきっと、ミレーヌの立場などを考えての事なのだろうが…


「だって…マルクス様がわたくしを妃と認めない以上、結婚したところで幸せになるどころか不幸になるだけだわ。そんな姿をお父様にもお母様にも見せたく無いし…それに政略結婚とは言え、やっぱり幸せになりたいじゃない…」


もう結婚に夢を見る歳ではないけれど、一生を共にするならお互いを認め合いたい。

好き嫌いだけでなく…。

ミレーヌはそれなりに覚悟してこの国へやってきたのだ。


「そうでしょうけど…」

「幸い、マルクス様は国へ帰れとは一言もおっしゃらなかったわ…。だからこれはお互いを知るチャンスなんだと思うの」


ニコッと笑ってそう言うと、リリーはちょっと難しい顔をしていたけど特に反論はしてこなかった。

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