第7話:見透かされた心
縁談が滞りなく済んだとあって、アレクは非常に上機嫌。
一方、マルクスの機嫌は氷点下まで下降した。
アレクはマルクスが何も言わないのを良いことに、さっさと結婚させようと企み、結婚相手であるミレーヌに5日で実家を発つよう要求した。
その事実をダラスによって知らされたのは、何とミレーヌがすでに城を発った後だった。
ここ数日マルクスの機嫌は常に悪く、ダラス以外の臣下たちは恐怖で近づきもしない。
ダラスは機嫌が悪かろうがなんだろうが近づかなければ仕事が増えるだけ。
そんなダラスを、只でさえ仕事もあるというのに臣下及び大臣までもが彼を捕まえ、書類を渡してくれだの、意見を聞いて来いだのといつのも倍はやる事が増えてしまった。
「マルクス様…イライラしてるのはわかりますが、皆怖がってますよ。おかげで仕事の伝達だの色々と押し付けられて正直迷惑です」
「………」
ダラスの言う事など眼中にないと言うように書類にサインをしているマルクスに彼は心の中でため息をつき、持っていた書類を差し出した。
「この書類は早急に対処してして下さい…それと…ミレーヌ様の…」
「そこに置いといてくれ。今日中にはどうにかする」
話を途中で遮られたが、これも最近ではよくある事。
とにかくミレーヌの話を持ち出そうとしても無駄なのだ。
こうやって話を遮るか、無視のどっちか。
明日にはミレーヌがこの城へとやってくると言うのに聞く耳を持ってくれない。
ダラスは自分の不甲斐なさに落胆した。
---------------------------------------------------
次の日の夕方、ミレーヌは予定度通りマグナルドへ到着した。
元々ダラスに案内するように言っていたし、ここ最近ずっと彼女の存在を否定し続けてきたマルクスにとって、顔を合わせるという考えは毛頭無かった。
だが、なぜか気になって仕事もはかどらず手が止まってしまう。
この状況にもイライラしてきて、マルクスは立ち上がった。
「ちょっと、出て来る」
マルクスはスタスタと扉に向かい、後ろで「お待ちください!」という臣下達を無視して執務室を出た。
階段を一つ下がり廊下を進むとミレーヌが居る筈の扉の前で立ち止まった。
扉を開けるとダラスの背中とその脇の椅子に腰掛けるミレーヌと思われる女性が目に入った。
(あれが…どうせ今までの女と同じだろ…)
そう心の中で呟きながら、彼らの話に割って入り、彼とミレーヌの侍女を部屋から出て行くよう命令した。
自分がこの部屋へやってきたのは結婚する意志など無い事を目の前にいる姫に思い知らせるため。
「勘違いするな…俺はまだお前を妃として認めたわけじゃない」そう言って乱暴に扱って脅してやれば相手が泣き出すか、怒り出してこの縁談が無くなればいいと思った。
だけど実際、そう言った時の彼女の反応は驚いてはいるものの、泣き出すでもなく、怒り出すでもなく、俺から目を逸らす事も無く、ただその澄んだ瞳でじぃっと見るだけ。
どうしてなのか自分の心を見透かされた気がして気分が悪くなった。
これ以上一緒に居ては自分は何を言ってしまうか分からない。
言いたいことは言っただろうと、彼女のそばを離れるという事しか頭に無く、マルクスは急いで部屋を後にした。
執務室で待っていたダラスに「姫は?」と問いかけられたが、無視をした。
ダラスが小さなため息をついたが、それも気づかない振りをした。
(なんだ…あの女…)
考えれば考えるほど謎だ。
自分の心を覗かれるのはマルクスにとって恐怖なのだ。
昔、心を許した途端に裏切られたことがあった。
その時からマルクスはどんなに悲しくても、寂しくても顔に出さず自分を偽るようになった。
(まぁ、どうせ放って置けばそのうち実家へ逃げ帰るだろう)
しばらくしてこの考えが甘かった事に気が付くことになろうとは…
昔あった出来事とは??
ちょっと謎を残しつつ次のお話からはまたミレーヌ視点に戻りたいと思います。