第5話:妃選考
マルクスは非常に機嫌が悪かった。
周りの臣下たちは皆マルクスの逆鱗に触れぬよう戦々恐々としていた。
というのも、先日いきなり親父に呼び出され、仕事の話かと思って顔を出してみれば、接見の間は女だらけ…その上、第一声が…
「マルクス、お前のためにわざわざ集まってもらった。この中から好きな女を選べ」
満面の笑みでそう言ったこの狸親父は「どうだ?どうだ?あの娘なんかいいんじゃないか?」と耳打ちしては王妃の前だというのにデレデレしっ放しで蹴り倒したくなった。
マルクスは女が嫌いだ。かと言ってあっちの気がある訳ではない。至って普通だし、昔は女も嫌いではなかった。だが、ある出来事が彼を変えたのだ。
「マルクス様はやっぱり素敵な方ですわね!わたくしの父は貿易商をしていまして……」
「………」
「わたくし、十数件の縁談をお断りしてきましたの」「何よ!わたくしだって数ある縁談を断ってきましたわ!」
「------!」
「--------!!--------!」
「………」
マルクスの不機嫌な様子に全く気づきもせず、女たちはいい争いまで始るしまつ。
取り合えず考えさせてくれと、その場を何とか切り抜けた。
が…その日の真夜中だった。
「誰だ!!」
枕元に人の気配を感じ、マルクスは素早く身を起こすと、枕元のナイフを手に取りそれを相手に向けると「ひっ」という女の声がした。
月明かりに目を凝らし相手を見てみれば、薄着をした女が立っていた。
自分に向けられたと言うのにナイフに物怖じする事もなく女はマルクスに近寄ってきた。
「マルクス様…驚いたではありませんか!そんな物騒なもの下げてくださいまし…わたくし夜のお勤めに参りましたのに」
女はそう言いながら自分の美貌を主張するかのように、マルクスの首に腕を回し身体を寄せてきた。
そんな女にマルクスの怒りは頂点に達した。
「出て行け…」
「え?」
「聞こえないのか?貴様…出て行けといっている!それとも首を飛ばされたいか!」
「なっ!!」
呆然としている女にマルクスは首に回る腕を掴むと乱暴にその体を引きずっていくと、部屋の外へと追い出し力任せに扉を閉めた。
(冗談じゃない!なんなのだあの女!!)
外の見張りにダラスを今すぐ呼べと命令すると、すぐにダラスは駆けつけてきた。
「ダラス!どういうことだ!説明しろ!」
「説明しろと申されましても…」
「お前、しらを切るつもりか!?あの女の事に決まっているだろう!」
「あの女?……そう言えば陛下が夜にはある娘をマルクス様の元に…ってまさか?!」
「その、まさかだ!ふざけやがって!」
そう言うとマルクスはテーブルをダンッと叩いた。
(やっぱりあの糞親父の差し金か!!)