第3話:王子の登場
「おや、マルクス様ではないですか…仕事はどうしたのです?」
ダラスの言葉を聞いて、目の前に立っている男性がマルクス王子だと認識すると、ミレーヌは慌てて、ドレスの裾を掴むと礼を取った。
「仕事は他の奴らに押し付けてきた。それよりダラス、俺から話をするからお前は下がっていろ」
この人が、あのマルクス王子…。
礼を取る前に一瞬見た彼の姿は噂に違わず、蜂蜜色の髪の毛と、緑がかった瞳で、とても美青年だった。
「仕事を押し付けてくるなんて、皆今頃泣いてますよ」
「大丈夫だろう…話が済んだらすぐに戻る。そう伝えとけ…。それと、そなたも出来れば外へ出ていてくれ姫と2人で話がしたい」
突然話しかけられたリリーは「はっ、はい!」と返事をすると縮こまりながら早足で部屋から出て行った。
ダラスもそれに続いて扉の前まで来ると振り返り、「では、ミレーヌ様…話の途中で申し訳ありませんが、失礼いたします」と、礼を取ったままのミレーヌに一礼すると部屋を出て行った。
「顔を上げなさい」
ミレーヌは下げていた頭を上げて、改めてマルクスを見た。
「お初にお目にかかります、マルクス様」
マルクスは聞いているのかいないのか、椅子の方へと移動するとドカッと足を組んで座った。
その、あまりの態度に呆然としていると話しかけられた。
「何をしてる?……取り合えず、座ったら?」
「は、はい…失礼します」
恐る恐る椅子に座ってみたものの、王子はじっとこちらを見つめてくるだけで、話をしようという気が無い様に感じられる。
一体どのくらい時間がたったのか…ほんの数秒だと思うのに、ピリピリしたムードの中ではものすごく長いような気がした。
「先ほどの話だが…」
「はい…」
「先日、選考が行われたのは事実だ。だが、ろくな女は居なかった」
「………」
「自分の容姿を自慢する女、いかに自分が妃になれば得をするか唱える女、ひどい奴は寝起きを襲ってきやがった。まったく反吐が出る。大体もう少し身の程を知れと言うものだ」
ため息交じりの発言に同じ女として、ミレーヌは少しムッとした。
「では、なぜ私の所に縁談が来たのでしょうか?そもそも選考の事実さえ知らないのに…」
「それは、親父が唯一選考に参加していないお前に縁談を持ちかけたからさ」
「え?」
「親父はあらゆる女を俺に進めたのに、全く見向きもしなかったものだから、焦ったんだろう。選考の日程を知らせた招待状を送ったはずが、当日現われなかったというお前を妃にと言い出した。そんな理由で結婚相手を決められたら堪ったもんじゃない。後から調べた事だが、お前の所へ向かった使者が崖から転落し遭難していたらしい」
「……!」
「誰かが手を回したという事はないらしいがな」
転落した人には悪いが、誰かの手によって転落したのではないと聞きホッとした。
しかし次の瞬間には、ミレーヌの体はマルクスによって長椅子に押し付けられていた。
肩に触れる手がギリギリと音を立てそうなほど強く、ミレーヌを見つめる瞳は物凄く冷たくて、あまりの恐ろしさに逃げたくても逃げられなかった。
「勘違いするな…俺はまだお前を妃として認めたわけじゃない」