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第29話:予感的中 (リリー視点)

「ここが書庫室ですか?」

「そうだよ」


そう言って立ち止まって見上げた扉は大きく頑丈そうだった。

あまりの大きさに開けるのに苦労しそうだな、という予想は呆気なく裏切られた。

まるで扉の下に車輪でも付いているのではないかと思うぐらい、彼女がちょっと力を入れただけですんなり開いた。

それにも驚いたが、更に扉の先の光景にリリーは目を見開いた。

あまりの広さに奥が見えない。

ずらぁーっと並べられた本棚には隙間が一ミリもないほど本で埋め尽くされていた。


「うわぁー…すごいですね…」

「ここには国内中の書物や本があるからね。ほかに一部他の国のものもあるし…なんと言っても広いから、迷わないように気をつけて」

「はい。で、ここで一体何を?」

「うん、ちょっとこっちへ」


そう言って右の奥へと進んで行ってしまう。

キョロキョロしながらついて行き、しばらく歩くと机と椅子がずらりと並べられた場所へと出た。

しかし、こんなに机があるというのに、誰も居ないとは…。

よく考えてみれば、辺りは静かで自分達以外の気配が全く無い。

そう意識した途端、自分は男の人と二人っきりだという事にドキリとした。

彼はマルクスほどではないが、まぁ、ハンサムの部類に入る顔立ちをしていてスラリと背も高い。

だが、男性にあまり免疫のないリリーには未知の存在だった。

どうしたって意識してしまう。


「君には、ここに書いてある本を探して欲しいんだ」

「………」

「聞いてますか?」


何も返事をしないリリーを不審に思ったのかダラスは高い背を屈めて顔を覗き込んできた。

ダラスの赤茶色の瞳の中に自分が居るのが見えてしまい、その、あまりに近い距離に驚いた彼女は一歩後ずさった。

その行動を不思議そうな目で見つめられ、意識しているのは自分だけなんだと思うと急に恥ずかしくなった。


「は、はい。本を探せばいいんですね?」


恥ずかしさを隠すように急いでそう言うと、何も無かったかのようにダラスは姿勢を元に戻すと、手に持っていた紙を渡してきた。


「これが、リストです。ここに書いてあるものは、すべてあそこの本棚にあると思うので後はよろしくお願いします」

「わかりました」


後はよろしくの部分を聞き逃し、頷いて返事をした彼女は、ダラスが元来た方向へ体を向けるのを見て、まさかと思った彼女は慌てて彼の服を引っ張った。


「あの、どちらに?」

「僕はこれからミレーヌ様の所へ行かなくてはならないので」


(はい?まさか、一人でこれを探せと?)


どうにもムカッとして彼を睨みつけると何かを察したのか、ダラスは「あぁ、心配要りません。直ぐに他の者も来ますから、そしたら本を渡してください。では」と言って奥へと消えて行き、しばらくすると扉の閉まる音が微かに聞こえた。


「何よ、もう!」


そう叫んだ言葉は書庫室にこだまして消えた。

初めはダラスの事が腹立たしく何も思わなかったのだが、時間が経つにつれ冷静になってくると、なんだか、一人っきりだというのをもろに感じてしまい無性に寂しくなってきた。

しかも、1冊どうしても見つけられない。

いよいよ寂しさよりも困ったという気持ちが大きくなってきた所に、扉が開く音が耳を掠めた。


(やっと誰か来てくれたのかしら?)


と意識を入り口の方へと向けると人の話し声が微かに聞こえた。

一人は男で、もう一人は女の人の声だった。

しかし、その声の主達はこちらへとやって来る気配がまるで無く、ぼそぼそと何かを話しているようだ。


(ダラス様がよこした人とは違うのかしら?)


首をかしげながら、とりあえずその人達に話しかけようと、入り口へと足を向けた。

段々近づくにつれ、話し声は大きくなり、リリーの耳にもハッキリと聞こえてきた。


「いいか、計画通りに事を進めるんだ。じゃ無ければ、俺もお前も命は無い。わかってるな?」


そう言う男性の声が聞こえた途端、リリーはピタリと足を止め、息を呑んだ。

幸い、まだ二人からは距離がある為、彼らはリリーの存在に気が付いてはいない。

だがここで物音一つでも立てれば見つかってしまう可能性は高い。

それに話の内容が内容なだけに下手に見つかれば何をされるかわからない。


「わかっているわ。アリス様の為もあるけど私も死にたくは無いわ」


その声に、リリーの心臓は更にドクドクと嫌な音を立てた。

この声を彼女は知っている。

だが、顔を確かめて見なければわからない。

というか、彼女であって欲しくない。


どうしようと迷った末、意を決して確かめる事にしたリリーは、そうっと足音を消しながら何とか彼らに近づき、本棚の向こうを覗こうとした瞬間、扉が開く音が響き驚いたリリーは身体を元の位置へ戻した。

どうやら、扉が開いたのは彼らが出て行く所だったようで、もう一度覗き込んだときには、すでに誰もいなかった。



嫌な予感が的中してしまった。

床に座り込んで膝を抱え、顔を見なくて良かったという気持ちと、ちゃんと確認したかったという思いがぐるぐると頭の中を回る。

もし本当にあの声が彼女の物で、何かを企んでそれを実行しようとしているのであればマルクスかダラスに知らせなくては…。



「あの…」

「きゃっ!」


あまりにも考え込んでいて、人が入ってきた事に気が付かなかった。

突然話しかけられ驚いていると、ダラスに言われてやって来たという彼女は座り込んでいるのを見て、具合が悪いのかと言いながら覗き込んできた。


変に心配させてしまっては良くないと、リリーは急いで立ち上がると「大丈夫」と声を掛けた。

だが、彼女はまだ心配そうに見つめてくる。


「本当に大丈夫よ。ちょっと疲れたから休んでただけ」


そう言うと彼女は安心したように「なら、よかった」と言って微笑んだ。

その笑った顔を見ると、先ほどの緊迫した空気が嘘だったかのように緊張がほぐれる様だった。


とにかく一刻も早く本を見つけ、ダラスかマルクスに会わなければ…。


「あと、この一冊がどうしても見つからないの」


そう言うと、彼女は指差した文字を目で追い、「この本だったら、別の棚にあったと思います。すぐに取ってきますね」と言って奥へと行ってしまった。

だからいくら探しても無かったのね…とため息を付きリリーが机があった場所まで戻ると、本を探しに行っていた彼女が目的の物を手に持って棚の間から出てくる所だった。


「これで全部ですね」


紙と本とを交互に見て全部ある事を確認すると彼女は本を持ち上げた。


「半分持つわ」と言って彼女の手の上にある本の半分を取り上げる。

書庫室を出て廊下を歩きながらリリーは隣を歩く彼女に話しかけた。


「ところで、今ダラス様はどちらに?」

「え?ダラス様ですか?」

「う、うん。その…他にも頼まれた事があって…」


頼まれ事など無いのだが、そう言えばダラスを探している事に疑問を持たれることは無いだろう。

案の定、彼女は全く疑っていないようだった。


「えーっと、どこにいるかまではちょっとわからないです」

「そっか。じゃあしょうがないね」


とは言いつつ内心焦っていた。

この際、マルクスでもいいのだが、そんな事聞けるはずも無い。

と、視界の端に今最も会いたい人物が映った。

しかも、マルクス様と、ミレーヌ様まで一緒に居るではないか!!

今すぐ呼び止めたいのは山々なのだが、隣を歩く彼女に気付かれたらまずいような気がした。

それほど、あの三人は周りを気にしているような感じだったから。


(あぁ、行っちゃった…)


どうしようかと考えているうちに目的の場所へと付いたのか、彼女が話しかけてきた。


「ここです。半分持ってくれて助かりました」

「う、ううん。じゃあ私はこれで…」


そう言って持っていた本を彼女に渡すと急いで歩いて来た道を戻る。


(確かここらへんで見たんだよね?)


三人を見かけた場所へ戻ってきたリリーは辺りを見回す。

そしてしっかり誰も居ない事を確認すると三人が向かったと思われる方向へと足を向けた。

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