第26話:ミレーヌ、マルクスの元へ
翌日、ミレーヌは午後のお茶を飲みながら、いつマルクスに話をしに行こうか考え込んでいた。
(話をするなら早い方がいいに決まっているけど向こうの都合もあるだろうし…。うーん…)
「ミレーヌ様何か悩みでもあるのかしら?」
「朝からずっと上の空というか…どうしたんでしょう?」
「リリーだったら何か知ってるんじゃないかと思ってさりげなく聞いてみたんだけど、逃げられたわ…あれは何か知ってるわね」
朝からずっと、話しかけても返事はするものの何だか様子のおかしいミレーヌにセレナもエルマも何かあったのではないかと思っていた。
それを一番ミレーヌと親しいリリーに聞いてみても困ったように「私にも…」と答えるだけ。
しかも、そそくさと部屋から出て行ったものだから余計何かあったとしか思えない。
クラリスなら堂々と本人に聞くのだろうが、今日に限って他へ手伝いに行っている為不在。
二人は直接聞く勇気もなく、どうしたものか?と思っている所にノックの音が響いた。
「ん?誰かしら?…はい、今開けますね……ってダラス様!?」
「こんにちは…ミレーヌ様にお…」
「はい!どうぞどうぞ!」
滅多に顔を出さない人間がやって来たことでミレーヌの今の様子と何か関係があると踏んだセレナはダラスが最後まで言うのを遮り満面の笑顔で招き入れた。
彼はいきなり腕を引っ張られ困惑気味に部屋へと入ってが、ミレーヌの姿を見た途端…。
「ミレーヌ様、昨日はマルクス様が大変失礼な事を…申し訳ありません!」
開口一番そう言って頭を下げた。
そんな彼に、ミレーヌは慌てて椅子から立ち上がると駆け寄った。
突然の事態に呆然と見守るしかない侍女二人。
しかし話が見えない…。
彼の話し振りから察するにマルクスが何かしたという事は確かだろうが…。
「あ、あの!どうか頭を上げて下さい」
「いいえ!お許しがいただけるまでは!」
「いや、でも…わたくしはもう怒っていませんし……それにマルクス様のお話をお受けしようと思っていますから…」
「えっ!?」
まさかあんな話を受けるだなんて言われると思っていなかったダラスは勢いよく顔を上げるとミレーヌを凝視した。
「昨日マルクス様が出て行った後、侍女に色々と聞きました。何かわたくしでもお役に立てるなら…」
「な、何を言っているんですか!?そんなの良くありません!考え直して下さい!」
「いいえ!とにかくもう決めましたから!」
「ですが、それではあなたが…」
「いつお話しようかと考えていたんです。やっぱりマルクス様はお忙しいですよね?」
「いや、まぁ……忙しいといえば忙しいんですが…。はぁ…いいんですか?」
「いいんです。元々歓迎されてなかったみたいですし?で、今マルクス様はどちらに?これからお会いすることは出来ませんか?」
「こ、これからですか!?」
「えぇ。お願いします。さぁ、参りましょう」
いきなり「会わせてくれ」と言われ困惑するダラスを伴うと、ミレーヌは部屋から出て行った。
ポカーンとして二人のやり取りを見守っていた、侍女達は「ねぇ…今の一体何の話?」と首を傾げていた。
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「ミレーヌを連れて来た?」
「はい。今すぐにでもお会いしたいと…」
「なら、通せ」
昨日の今日で会いたいと言われるとは思わなかった。
寧ろ避けられてもおかしくは無い事を自分はしたというのに…。
ダラスはすぐに廊下へ続く扉を開けるとミレーヌを執務室へと招き入れた。
ミレーヌは堂々とマルクスの前にやって来たかと思うと、腰に手を当て仁王立ちをすると声を張り上げた。
「あなたの言う昨日のお話、お受けいたします!!」
「…………は?」
いきなりの事で思考が停止したマルクスは間抜け顔とも取れる表情をして固まった。
こんな主人の姿を初めて目にしたダラスは、一瞬噴出しそうになり必死で口元を押さえ耐えて居たのだが、次のミレーヌの言葉には耐え切れなかった。
「マルクス様、王妃様をとっちめてやりましょう!」
「ぶはっ!!ミ、ミレーヌ様…いきなり何を…くっ…」
「………」
「あら、なんで笑うの?」
「…ちょっ…本気で言ってるんですか?」
「え、何が?」
「何がって…」
二人はマルクスが一言も発言していないことに気が付ずに言い争いのようなものを繰り返していた。
ミレーヌの「王妃様をとっちめてやりましょう」発言にはマルクスも正直度肝を抜かれた。
こんな事を言う、姫…いや、女には初めて会った。
まして、普段笑みすら殆ど見せないダラスを笑わせるなんて。
まぁ…半分は自分が間抜け顔を晒したってのもあるかもしれないが…。
(面白い…なんちゅう女だ…)
「ぶっ…あはははは!!」
いきなり笑い出したマルクスに、言い争いをピタリと止めた二人がぎょっとした顔でこちらを振り返った。
「な…なんだ?」
「い、いえ…マルクス様が笑うのなんて初めて…」
「は?何を言っている。ダラス…お前こそ普段笑わないくせに笑ってただろ?」
「それは…まぁ…そうですけど」
「俺だって面白ければ笑うさ」
そんなやり取りの中、ミレーヌはマルクスの笑顔に釘付けだった。
いつも無表情の人が笑うと破壊的威力を発するんではないだろうか?
それが好きな人ならなお更…。
自分がその笑顔を引き出したのだと思うとミレーヌの胸は張り裂けそうなほど嬉しさでいっぱいだった。
26話、何度も修正してすいません。
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