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第23話:食事会〔2〕

「事情はよく分かりました。それで…結婚することにして、どうなさりたいんですか?」


ミレーヌは拳を握り締め、彼を睨み付けた。

マルクスは睨みにも怯むことなく真っ直ぐにミレーヌを見つめ返していた。


「それは…こちらの件が解決したら、それ相応の物を贈らせてもらいますよ…」


(この人は何も分かってない!!)


「あなたは……わたくしが何かを…欲しがっているとでも?どうして…?わたくしは何かが欲しいわけではないわ!!」


そう言うと同時にミレーヌの瞳から涙が零れ落ちていた。


泣くつもりなんてこれっぽっちも無かった。

悲しさより腹立たしさが胸に広がっていたはずなのに…。

必死に止めようと思えば思うほど決壊したダムのようにボロボロとこぼれてくる涙を拭うことも出来なかった。


一方マルクスはというと、突然泣き出したミレーヌを冷めた目でしか見れずにいた。

今まで、どんなに酷いことを言おうとも涙一つ見せなかったというのに…。


(やはり女は泣けばいいと思っているのか?)


一体何が悪かったのか?

そんなこと考えなくても他の人なら当然分かることが、マルクスには分かっていなかった。


「なら、どうしろと言うんだ?」

「どうしろって…!」

「こちらは、言いたくもないことまで言ったんだ!それに、こうして頭を下げて頼んでいると言うのに!」

「そんな…あんまりだわ…」


そうして黙り込んでしまったミレーヌにマルクスは苛立ちを隠せなかった。

だが、ここで更に腹を立てては話にならない。

彼はとりあえず気持ちを落ち着かせようと目の前の水を一気に飲み干すと、ため息を吐き出し口を開いた。


「このまま話をしていても、仕方ないようだな…」

「………」

「……とりあえず、泣き止むんだ」


そう言ってマルクスはハンカチを取り出すとミレーヌに差し出した。

初め受け取る気配を見せない彼女だったが、マルクスが辛抱強く受け取るのを待っているとおずおずとハンカチをその手に収めた。


「俺は先に出るが、君は落ち着くまでここにいるといい。また別の日に話の場を設ける事にする。その時までに考えておいてほしい」


未だ黙って俯いている彼女にそう話しかけるとマルクスは部屋を出て行った。




(もう!馬鹿ぁ…何で泣いたりしたのよ…)


一人っきりになった部屋でミレーヌは自分を悔やんでいた。

マルクスの前で涙を見せるなんて事だけはしたくなかったというのに…。

その上、マルクスの優しさをまたしても垣間見てしまって、どうしても彼を憎みきれずにいた。


マルクスから受け取ったハンカチで涙を拭っていると、しばらくして扉を叩く音が耳に入ってきた。

今は誰にも会いたくはないのだが、きっと皿とかを色々片しに来たんだろう。

ちょっと目は赤いかもしれないが仕方ない。


「どうぞ…お入りなさい」


そう声を掛けると扉が開き中へ入ってきたのは、リリーだった。

駆け足でそばへとやって来たリリーは、ミレーヌの顔を見て何故かくしゃりと顔を歪めた。


「ミレーヌ様…」とぼそりとつぶやいたと思ったら黙り込んでしまった。

どうしたのかと問いかけてみてもリリーは俯いて涙を堪えている様だった。

普段何があっても涙を見せない彼女が泣くほどの事だ…。

何かあったのだろうか?と段々心配し始めた時だった。


「ミレーヌ様…申し訳ありません…!」

「ちょっと…いきなりどうしたと言うの!?」


突然頭を下げて自分に向けて謝ってきた事に驚き、思わず腰を上げ彼女の肩に手を掛けた。

するとリリーは顔を上げ涙にぬれた瞳を真っ直ぐミレーヌに向けた。

彼女は意を決したように口を開き、「私…ミレーヌ様に黙っていたことがあるんです…」そう言った後は信じがたい事実を次々と告げられたのだった-----。




「てことは…マルクス様があんな事を言い出したのはリリーが原因だったって事?しかも…アリス様に脅されてマルクス様との縁談を断りきれ無かったって…一体何がどうなっているのよ?」


リリーから語られる事すべてが嘘であって欲しいと思わずにはいられないような内容ばかりで頭が痛くなってきた。

だが、リリーの眼差しは真剣そのもので、嘘をついているようには思えない。

別に事情が事情だけに彼女が謝る事では無いだろう。

それに一つ確認したかった。


「あなたはマルクス様と結婚したくはないの?」


本当はそんな事聞きたくないのが心情なのだが…。

でも、そう言う訳にもいかない。

ここはきっちりと聞いておかなければならない大切な事だと思った。

なんて答えるのか。もし結婚したいと言ったら…自分は…身を引いてしまうかもしれない…。


「そんな!ミレーヌ様を差し置いてそんな事できません!」

「でも…」

「いいですか?私はマルクス様の事はなんとも思っていませんし…それにミレーヌ様にこそ幸せになって欲しいんです。だけど…王妃様に逆らうことも出来ないなんて…本当に情けないです」

「リリー…」


またしても肩を落としてしまったリリーに胸が苦しくなってきて、どう声を掛けていいのかわからなかった。

だが、リリーの答えを聞いてホッとしている自分も居た。

それにしても…王妃様ってとんでもない人だ!

マルクス様の母親を本当に殺してしまったのかは分からないが、リリーを何かで脅しているのは事実だ。

もともと責任感の強いミレーヌは段々王妃様のことが許せなくなってきていた。

自分の利益のためだけにそんな事をするだなんて…。


自分はどうするべきか?

この城へやってきた本来の目的とは少々ずれてしまうかもしれないが、ここはリリーの為…はたまたマルクスの為に自分は--------。


「決めた!私、マルクス様の言う通りにしようと思うわ」

「えっ!?でも、それじゃ…ミレーヌ様は…」

「そうね…もう気が付いているかもしれないけど、わたくし彼のことが好きなの。だから、結婚してくれじゃなくて、結婚することにしてくれだなんて言われた時はとても腹が立つやら悲しいやら訳が分からなくなってしまったけれど…」

「だったら…そんな事受け入れてしまっては…」

「そうねぇ、結婚もしないで国に出戻りなんて事になっちゃうかもしれないわね…」

「………」

「でも、少しの間だけでも彼のそばに居れるなら…この際…」


(結婚できなかったとしても…)


自分にとってはとても悲しい選択になるかもしれないが、それでも大切な人の悲しむ顔なんてこれ以上見たくはなかった。

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