第21話:矛盾する考え
次の日、約束通りにリリーは午後やって来た。
「そこに座りなさい」
「はい…」
応接用の椅子にお互い向かい合って座った所で、ダラスは部屋を出て行った。
「お話とは何でしょうか?」
「決まっているだろう、私たちの縁談の話だ」
そう言うとリリーは困ったような微妙な顔つきになった。
その表情から彼女はこの縁談が乗り気でない事は一目瞭然。
アリスが勝手にこの話を進めているんだろうと思った。
「お前がこの縁談についてどう思っているのか聞きたい」
「私は…その…」
「アリスに何か口止めでもされているのか?」
「えっ?い、いえ…その様な事は…」
「なら、言える筈だろう?」
リリーは少し黙ってそれからぽつりぽつりと話し始めた。
「縁談については正直申し上げると…したくありません。ミレーヌ様を裏切りたくありませんし、ですが…叔母…アリス様のいう事に逆らう事も出来ない私は最低な人間だと思います」
「………」
「あの人は自分の地位や名誉の為なら何でもするでしょう…例えばミレーヌ様に危害を加える事も…」
「……そうだろうな…」
彼女はマルクスが同意した事に驚いたようだった。
それまで俯かせていた顔を上げマルクスを見つめてきた。
「お前は知っているか?かつてあの女がした事を…」
「え……?」
「まぁ…知らなくて当然だな…その当時この城で働いていた者はほとんど残っては居ないし…」
「それは…どういう…」
「今はまだ言えないが、あの女はきっと今回の事でも何か企んでいるに違いない」
「企むって…一体何を?」
「それは分からないが、俺に君との縁談を持ちかけてきた意味も分からない。何か良からぬ事を考えているとしか考えられない」
「…良く分かりませんが、マルクス様は…ミレーヌ様との事を利用したいという事ですか?」
利用したいのか…そう言われるとは思っていなかった。
確かに今回の事でもしかしたらあの女をどうにか出来るのでは無いかと考えた。
しかし、それでは何の関係も無いミレーヌを巻き込んでしまう事になる。
だが-----------
「そうだな…利用…したいのかもしれない…」
「ミレーヌ様は私とマルクス様の縁談が持ち上がっている事も何も知りません。それに、マルクス様のことはきっと…」
「………きっと?」
「いえ…何でもありません」
さて、どうするか…。
利用はしたいが、結婚はしたくない。
これでは矛盾だらけだ。
「あの…ミレーヌ様に正直に話してみてはいかがです?」
「ミレーヌに?」
「はい。何もかもを知らないままと言うのはどうにもならないかと…」
「………」
「私が、ミレーヌ様の立場なら嫌だと思います」
「……嫌…か…」
「私はミレーヌ様ではないのでどう思うかは分かりませんが…」
「………」
「私も……今はアリス様に何も言えず従ってはいますが、あくまでもミレーヌ様の侍女で…彼女の味方でありたいと思っています」
「そうか…」
マルクスは顎に手をやり考え込んだ。
ミレーヌにすべてを話す-----。
そうすると、マルクスの過去もすべて話さないとならないだろうか?
これは、誰にも知られず一人で抱えてきた問題。
それを彼女に知られる事が果たして良いことなのか…?
しかし、何も知らないではどうにもならないのは確かだとも思う。
丁度明後日ミレーヌと食事する事になっている。
その時に人払いをして…。
「明後日、ミレーヌと食事するのだが…」
「では、その時に?」
「あぁ…彼女がどう出るのか分からないが…一か八かだ」
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リリーが部屋から去って行ってしばらくすると、マルクスは一人でアリスの自室へと赴いた。
「あらマルクス…どうしたのかしら?やっぱり気でも変わってリリーとの縁談でもする気にでもなった?」
クスクスと嫌な笑いを漏らすアリスをマルクスは無表情で見つめた。
「…いえ、そんな気は更々ありません。それに、先ほどリリー本人にも確認しましたが、彼女も縁談を進める気はないそうです」
もっと違う反応を示すと思っていたアリスは「ふーん、……そう…」と言うだけだった。
一体何を考えているのか分からず、マルクスは眉に皺を寄せた。
そんな彼をアリスは一瞥すると口を開いた。
「で?あれだけ否定してたんだから、あの女とは縁談を進めたいだなんて今更言わないわよねぇ?」
「………」
アリスはじっとマルクスを見つめた後「まぁ、いいわ………それより、わたくし疲れてるの。休みたいから早く出て行ってちょうだい」と気だるげに手をしっしっと振った。
結局マルクスが何も答えなかった事をどう捉えたのかはわからないまま部屋から追い出された。
とりあえず、アリスが今の話を聞いてどう出るだろうか?
それも気になったが、まずは明後日ミレーヌにどのように話を切り出すべきなのか思考を切り替えた。