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第18話:雨に降られて

マルクスに醜態を晒してしまったあの日から五日が過ぎた。


その間、ミレーヌはと言うと部屋へ閉じこもって大人しくいた。

また庭師の手伝いなんかしててマルクスに見つかりでもしたら、今度は何を言われるか分からないし、それで傷つくのは自分だ。


だからと言って、このままずっと三ヶ月もの間、部屋に閉じこもっている訳にはいかないこともわかっているのだが…。 


「ミレーヌ様…差し出がましいでしょうが、部屋に閉じこもって本ばかり読んでいないで、お庭の散策でもしたらいかかですか?」


ミレーヌ付きの侍女であるクラリスはここ数日部屋にばかりいるミレーヌに豪を煮やして発言を試みたのだが、本に集中している彼女はその言葉を聞いてはいなかった。


「ミレーヌ様!!聞いてますか!?」

「きゃっ!な、なに!?」


突然人影が出来たと思ったら、次の瞬間には本は取り上げられていた。


「ですから…本ばかり読んでいないで、たまにはお庭にでも出て、外の空気でも吸ってはどうですか?」

「あ……そうだったの?ごめんなさい。本が面白くてつい……」


笑顔で答えてみたものの、クラリスは仁王立ちしたまま表情は厳しい。

彼女は誰に対しても平等な態度をとる。上も下も関係なくだ。

それは時として侍女にあるまじき行為をしてしまうのだ。

そんな彼女にエルマはオロオロとしていた。


彼女も本当はこんな強硬な態度に出たくは無いのだろう。

そう思うのだが、ミレーヌは部屋の外へ出てマルクスに会ったらどんな顔をすれば良いのか悩んでしまい…。


「とにかく今日の予定はお庭の散策です」

「わ、わかったわ」


力強くそう言われてしまっては嫌とも言えない。

渋々重い腰を持ち上げて庭へと出る。

五日ぶりに出た外はミレーヌの心を移したかのように曇っていた。


今日は朝から用があるとリリーとセレナは不在。

三人で庭を散策しながら話に夢中になってたからか、いつの間にか開けた所に出てきてしまった。

その奥には何やら変わった建物がある。

ミレーヌは二人にあの建物は何かと尋ねた。


「あれは、元王妃様が建てられた温室です」

「元王妃様?」

「はい。御存知なかったですか?今の王妃様は後妻で、マルクス様のお母様でらした元王妃様は十年前にご病気で亡くなってらっしゃいます」

「そうだったの……」


エルマが語った初めて聞く事実にミレーヌの心がチクリと痛んだ。

肉親を亡くすなんてきっと心が痛んだろうと思うとやるせない。


「そう言えば、元王妃様の侍女だった子もそのすぐ後に亡くなられたって…」

「ちょっと…クラリス!」

「えっ?あっ…ごめん…」


クラリスの言う侍女の話に対するエルマの反応が、ミレーヌは気になった。

何かあるのかと問いかけてみても、二人とも押し黙ってしまった。


「ごめんなさい。何か聞いてはいけないことを聞いてしまったかしら?」

「い、いえ…謝らないで下さい。噂でしか聞いたことが無いんで何とも言えないんですけど、その亡くなった侍女とマルクス様は大変仲が良かったとかって…でも当時勤めてた侍女も、今はほとんどいませんし…この話はちょっとしたタブーになってるんです」

「そうなの……」


マルクスと仲が良かったという侍女の話はとても気になるのだが、そう言われてしまっては突っ込んで話を聞くわけにもいかない。

かと言ってマルクス本人には口が裂けても聞く事は出来ないだろう。



なんだか微妙な空気が流れてしまった。

どうにかしなければと思えば思うほど、頭が働かない。

丁度その時ポツリと何かが頬に当たった。


(………?)


ミレーヌが上を見上げた次の瞬間、大粒の雨がざぁーっと降ってきた。


「やだ!雨だわ!!」

「ミレーヌ様!ここからだとお部屋までは遠いので、とりあえず中央塔の回廊まで走りましょう!」

「え、えぇ」


そう言うと三人は急いで中央塔まで走った。

中央塔までの距離はそんなになかったのだが、土砂降りの雨にうたれてしまい全員ずぶ濡れだ。

いくら日中は暖かいとはいえ、水を吸ったドレスは重いし冷たかった。


「皆濡れてしまったわね…」

「申し訳ありません。私が庭の散策にでもだなんて言ったから……」

「ううん、気にしないで。久しぶりの外はやっぱり良かったわ」


ポケットの中に入れていた刺繍入りのハンカチはかろうじて濡れていなかった。

それで顔や髪の毛を拭いていると正面からマルクスがダラスを従えて歩いてくるのが目に入り、ミレーヌはピタリと手を止め固まった。

ゆっくりと歩いてきたマルクスはミレーヌの前まで来ると立ち止まった。


「…なぜ、濡れてるんだ?」

「そ、それはお庭を散策していたら雨が…」


ミレーヌが答えようとすると、隣に居たクラリスが先に口を開いた。

彼女の発言にマルクスはチラリと外へ視線を向けたと思うとすぐにミレーヌに戻した。


「…寒いのか?」

「え?」

「震えてる…」


そう指摘されて初めて自分が震えている事に気が付いた。

自覚すると余計に寒く感じる。

どうにか震えを沈めようと無意識に腕をさすっていると突然何かに包まれた。


「それを羽織って行くといい。ダラス行くぞ」

「は、はい…ミレーヌ様、風邪など引かないように気を付けてくださいね。もちろん後ろの二人も…では」


ダラスはそう言うと先にスタスタと歩いて行ったマルクスを追いかけるように去って行った。

呆然と二人の後姿を見つめていたミレーヌはハッとして自分を包み込んでいるものに視線を向けた。

そこには上等そうな、きめ細やかな刺繍が施してあるマント。


「あ…これ…」


そう…自分を包み込んでいた物はマルクスのマントだった。

みるみるうちにミレーヌの顔に赤みが増す。

嬉しいやら恥ずかしいやら…。


「私、マルクス様があんな事するの初めて見ました…」


クラリスがぽつりと呟いた。

それにエルマが同意するかのように頷いた。


「あっ!!」

「ど、どうかされましたか?ミレーヌ様」

「お礼を言うの忘れちゃった…」

「言われてみれば…まぁ…でもお礼は後からするとして、ここはとりあえずダラス様が言うように急いで部屋へ戻りましょう。風邪を引いてしまいます」

「そ、そうね…」


確かにこのままここにいても風邪を引いてしまう。


三人は早足で部屋へと向かうのだった。

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