表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/40

第16話:リリーの事情

マルクスが半ば追い出されるように去っていった部屋で二人っきりになるとアリスは話を切り出した。


「マルクスがああ言い出すのは予想の範囲内…大丈夫よリリー心配しなくてもあなたを必ず妃にしてあげますからね…うふふ」

「叔母様…私は…」


リリーの言葉など聞いていないかのようにアリスが笑い続けているのは端から見ればとても不気味だろう。

何かに取り憑かれているのではないかとも思わせる。


リリーの正直な心の内はミレーヌへの罪悪感でいっぱいだった。

正直、アリスの言うことを聞きたくはない。

だが、彼女に逆らうことができないのが現状…。

そんな自分が情けなかった。


彼女と会ったのは過去一度きり。

それも母が亡くなった時だけである。

その時の印象も最悪なものだった。


かつて、リリーの母がこの国の側室へ召されるはずだったのを、妹であるアリスの助言によって伯爵家へと嫁ぐことになったという。


「あの時はごめんなさいね…まさかこんな事になるなんて…」


言葉では悪い事をしたと言ってはいるが、態度と表情は全く悪びれていなかった。

その後も、母が実家宛に送っていたという手紙の内容を話し始め、その内容は衝撃的なものだった。


最初は上手くいっていた夫婦関係。

それもリリーが生まれたことにより一変してしまう。

伯爵である父は、リリーが見ていないところでことあるごとに、跡取りを産めなかった母だけを攻めるようになった…。

父は母を精神的に…またある時は肉体的にどんどんと追い詰めていったようだ。



思い返してみれば、初めは優しかった母も時が経つにつれて、リリーに辛く当たるようになっていた。

父も自分が居ないように接してくるのがわからず、悲しくてしかたがなかった。

何故母や父は自分を愛してくれないのか?せめて母だけは昔の様に戻ってほしい。

いつしかそんな事ばかり考えるようになっていた。


やっとわかった事実に、リリーは生まれてこなければ良かったのではないかと悔やむことしかできなかった。

その事実をなんの躊躇もせず口にしたアリスに腹が立った。


母が亡くなってからの父はというと、相変わらずリリーの存在を無視し続けた。

母が生きてた頃から恐らく居たのだろう愛人の女を堂々と家へと連れ込むようになり、なんと隠し子までいたのだ。

皮肉な事にその子供は男の子…。

父の溺愛っぷりは吐き気がしたし、母は違えど幼い弟にも憎しみさえ感じた。

リリーの居場所はどんどん無くなって行った。


弟は何にも分かっていないからか、リリーに纏わり付くようになる。

どんなに冷たくあしらっても笑顔を向けてくる弟に更に嫌悪感が増した。


そしてついに、事件を起こしてしまう。


あの日は、丁度弟と二人っきりで留守番をしていた時だった。

勝手にリリーの部屋に入ってきて遊びだした弟を初めは無視していた。

だが、彼女が本を読むのに夢中になっている時だった。


突然、物が割れる音がして弟に視線を向けると、足元に散らばるガラス片…母が優しかった頃に唯一買ってくれた置物がバラバラになっているのが目に入った…。


「なんてことするのよ!!」


そう言って小さい弟を思いっきり突き飛ばしていた。

弟は小さな叫び声を上げて壁にぶつかって、打ち所が悪かったのかぐったりして動かなくなっていた。


その音を聞きつけたのか、リリーの部屋の扉が開き入ってきたのは丁度家に帰ってきた父だった。


「何をしている!!!」


そう怒鳴られ頬を叩かれた瞬間、自分が何をしたのか…サッと血の気がひいた。

父は弟を抱きかかえると出て行った。


その後、弟は頭を打っていたらしく、幼くして半身不随となってしまった。


父は仕事と看病に忙しく、家へと帰ってこなくなった。

そうして、半月が過ぎた頃…。

突然帰ってきた父に呼び出され、花嫁修行という名目でリリーをアナタリアの侍女となるよう告げた。

結局リリーは追い出されるように家を後にしたのだった。


自分としては、父…そして母から愛情というものを貰えなかった土地にいつまでも居るよりも、誰も自分を知らない所へ行けば少しは救われる気がした。

父は邪魔者が居なくなってきっと精々していることだろう。


そして、訪れたアナタリアの地で出会ったのが王女ミレーヌだった…。


感情を上手く表に出すことができなくなってしまったリリーは、侍女仲間からは誤解を生み嫌がらせされることも珍しくなかった。

そんなリリーに対して、ミレーヌは決して文句を言わず寧ろ友達のように接してくるのだ。

正直今までそんな人間に出会ったことの無かったリリーは戸惑いを隠せなかった。

実際偽善者だと決めつけて、出会ってから数年は心を開く事はなかった。


だが、リリーが病気になった時には…自分の立場もあるというのに、せっせと看病をする。

侍女仲間から嫌がらせされているのを見つければ身を呈して守ってくれた。

そんな姿を見て、少しずつ気持ちは変化していった。

今では、心を許せる唯一の存在だ。


だからこの国にやってきた時にアリスに呼び出され、自分とマルクスとの縁談の話を聞かされた時には驚いてしまった。


それは、ミレーヌに対しての裏切りだ。

断ろうと口を開きかけた瞬間、アリスが告げた言葉にリリーは顔を青くした。


「この話を断れば、どうなるか分かっているのかしら…?あなたがした罪を私は知っているのよ?」


リリーの表情が変わったのを見たアリスは嫌な笑みを浮かべると更に口を開いた。


「ミレーヌは知っているのかしら?あなたが弟を殺そうとしたのを…」

「ちっ違います!!あれは!!」

「何が違うと言うの?実際あなたの弟は、半身不随で床に伏せっているではないの…一歩間違えれば死んでいたかも。あーなんて恐ろしい子」

「………」


アリスに言い返せる言葉など何も無かった。


その事実をミレーヌが知ってしまったら、また私は独りぼっち…。


(そんなのは嫌だ!でもミレーヌ様を裏切るのも…)


そうは思っても結局はアリスの言いなりとなってしまったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ