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第13話:過去に捕らわれし王子

「マルクス様いかがなさいました?」


ダラスに声を掛けられハッとする。

自分は一体何をしているのか?

ここ最近仕事に集中できない…あの姫の事が頭から離れてくれず…。


縁談を破棄してくるかと思えば、保留にしてくれと言い出した。

なぜそんなに結婚にこだわるのだろうか?


だから、本人に直接問いたくて呼び出した。

ダラスに「ミレーヌ様がいらっしゃいました」と言われ奥の書斎から出て来て一番に目に入ったのは棚の前で何かを手にしたミレーヌの姿。

あの棚は……。


そして手元に視線を移した時、頭よりも口や体が先に動いていた。


「それに触るな!!」


そう言ってミレーヌが手にしているものを奪う。

彼女はビクっと肩を揺らしてこちらを振り返り固まっていた。


これは彼が何よりも大切にしているもの。

もちろん彼以外の者には決して触らせない。

その中に写っているのは自分の本当の母親--------。


産みの親である母親は自分が十五歳の時に病死した事になっている。

現王妃は後妻で本当の母親ではない。

そして自分の隣で笑顔で写る彼女は自分が唯一信頼し、そして恋をした相手だった。


彼女ユーリは代々王家に仕える家の出で幼い頃からこの城へ出入りしていて、母親の侍女を勤めるようになり…そして、いつしか恋い焦がれる存在となっていた。

身分の差はあれど、近い将来結婚を申し込むつもりでもいたのだ。


それが結局彼女も母の後を追うように亡くなった。

それも自殺だった。

無惨にも自分の部屋で首を吊って…。

大切な人を続けて二人も失ってしまった彼の悲しみは相当のものだった。。


彼女が亡くなって数年後…ある日記が見つかった。

その中に書かれていたのはマルクスを更に追い詰めるには十分な内容だった。



『マルクス、あなたに謝らなければならないことがあります。

私は過ちを犯しました。それは許される事じゃないでしょう…。

あなたの母親を死なせてしまったのはこの私です。

私はある方の命令によりずっとメアリー様が飲むお茶にある薬を混ぜ続けていました。

そして亡くなったあの日私は耐え切れずメアリー様にその事を打ち明けました。

だけど、メアリー様は知っていたと…ずっと死を覚悟していたと言われました。

ずっとずっと私を庇い続けていたんだとその時になって気がついて…でも遅すぎました。

メアリー様は亡きお方へと姿を変えてしまわれた…。

私はなんと愚かな事をしてしまったのか。

後悔しか残りませんでした。

そしてあなたにも、もう顔向けできません。

こんな私を好きになってくれたこと嬉しかった。

でも罪悪感でいつもどうにかなりそうでした。

だからこの身を持って償います。

ごめんなさい。本当にごめんなさい』



そう綴られた日記にマルクスは裏切られたと初めは怒りを覚えユーリを憎みさえした……しかし時が経つにつれ、きっといつも悩んでいたんだろう彼女の心情にも気付けなった当時の自分をも責めるようになった。

あの日記は今も誰の目にも触れないように厳重に保管してある。

取り敢えず自分だけが知っていればいい内容だ。

だれが母に薬を盛るように命令したのか?

憶測でしかないが、それは現王妃ではないかと思っている。


後妻となったアリスは自分の欲に忠実な女だった。

元々側室だった彼女が妃の座を狙っているというのは母が亡くなる随分前から言われていたのは事実だ。それだけではなく、妻を亡くした父に付け入り一年も経たずに後妻となった。

ただ、ユーリに命令したと言う証拠が何も無く…犯人と決め付けることは出来ずにいた。

自分は何も知らないと忠実な息子を演じ…自分を偽るようになった。


いつかボロを出すんじゃないかと機会を待ち続けている。

そんな自分の周りに近寄ってくるのはアリスのような女ばかりで…。

女は欲の為だったらどんな努力も惜しまない。

男はただのステータスに過ぎず、金と権力さえ持っていれば最高級だと言っているようだった。


そんな女を相手にする事も何度かあった。

だがその度に心はどんどん冷えていき、いつしか人を愛するとはどういう事なのかわからなくなってしまった。

だから、ミレーヌに対しても、金や権力が結婚の目的なんだろうと決めつけて本性を探ってみたが、なんとも煮え切らない返答しか返って来ることはなくマルクスを苛立たせるだけだった。


金や権力が目的でないとすればなんなのか?

そんな事ばかり考えているマルクスにはミレーヌの思いなど察することなど出来なかった。

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