第11話:本当の気持ち
第11話目の内容で、矛盾が出てしまわないよう10話目までの内容を少し修正致しました。
初めて読む方は特に問題は無いと思います。
そんなに変わってはいませんが、お知らせします。
「マルクス様、ミレーヌ様をお連れしました」
頑丈そうな扉の前でセレナは声を掛けると、しばらくして中から扉が開くと、ダラスが顔を出した。
「あぁ、お待ち兼ねですよ。すみませんが、ミレーヌ様だけ中へ」
そう言って右側に身を避けると「どうぞ」と声を掛けられた。
ミレーヌは一緒について来た二人にここで待っているようにと伝えると、執務室の中に足を踏み入れた。
ダラスはミレーヌが完全に部屋の中へ入ったのを確認すると静かに扉を閉め、長椅子に座るよう言った。
待ちかねていると言っていたはずなのに、ここにマルクスの姿は無い。
不思議に思っていると、ダラスは「あの扉の奥にいます。呼んで来るのでちょっと待っててください」と言って指差した扉の中へ消えた。
一人になってしまったミレーヌは何だか落ち着かなく、キョロキョロと周りを見渡していると、視線がある一つの棚で止まった。
そこには、写真立てだけがポツンと置かれただけで、他の棚のように物がない。
見てはいけないと頭の隅では考えてるはずなのに、勝手に体が動きいつの間にかその写真立てを手にしていた。
その写真には、綺麗な女性と五歳ぐらいの男の子、そして同じぐらいの可愛らしい女の子が一緒に陽だまりの様な笑顔をして写っている。
あまりにも幸せそうなその写真に、ミレーヌは知らぬうちに笑みをこぼしていた。
だから、背後に誰かがいるとすぐに気が付かなかった。
「それに触るな!!」
「きゃっ!」
突然背後から大声がしたかと思うと、手にあった写真をものすごい勢いで奪い取られた。
奪い取ったのはもちろんマルクス本人。顔を見れば激怒しているのがすぐにわかった。
ミレーヌは驚き過ぎてその場に固まった。
どうやら見てはいけないものを見てしまったようだ。
「勝手に人のものに手を出すなど、恥を知れ!!」
そう言ったかと思うとマルクスの振り上げた手が見えた。
ギュッと目を閉じて次に来る衝撃に身を構えていたが、何も起きない。
そっと瞼を開ければ、手をダラスに押さえられたマルクスが目に入った。
「マルクス様、女性に手を上げるなど…おやめください」
「ダラス!!何をする手を離せ!」
「では、手を上げないと約束してください。そしたらすぐにでも離します」
「………わかった。だから早くその手を離せ…」
ため息混じりにマルクスが言うのと同時にダラスの手が離れた。
「マルクス様…ご、ごめんなさい…その…」
「もういい。二度と触るな…言い訳も聞きたくは無い」
そう言うとマルクスは持っていた写真立てを乱暴に元の棚に伏せて置くと、これ以上この話はしたくないとばかりに背を向け長椅子にドッサっと音を立てて座った。
「…取り合えず、話がある。座れ」
「はい…」
ミレーヌが椅子へと腰を降ろすとマルクスは口を開いた。
「ダラスから報告を受けた。縁談を保留とは一体どういうつもりだ?」
「そ…それは…」
「俺はお前を妃にするつもりは無いと言った筈だ。なぜ、保留にしてまでこの城に留まる必要がある?何が目的だ?金か?地位か?」
「なっ…!ち…違います!!」
「なら、何だと言うのだ?女など、所詮それしか考えていないだろう?」
「………」
何も言い返す事も無く黙ってしまったミレーヌに、彼はため息を付くと静かに口を開いた。
「何か言ったらどうなんだ?」
「今……ここでわたくしが何かを言って…それを信じてくださいますか?……いいえ…きっと嘘のように聞こえてしまうでしょう…」
ミレーヌがここへ来てから、マルクスとは初対面だと思わせるような素振りをしてきたが、実はそうではない。
一度だけ会ったことがあるのだ。
それはマグナルド国主催の舞踏会での事。
当時十歳だった彼女は「ミレーヌ、今回はお前も一緒に行くように」と父に言われ、初めての舞踏会に胸を踊らせワクワクしていた。
会場へ着くなり父から挨拶をするから来なさいと言われ後を付いていった時だった。
人だかりを何とか進み、目的の人物の前で父は立ち止まった。
すると、「この国の第一王子だ挨拶しなさい」とマルクスを紹介された。
スラリと背が高く、たった五歳の差でも当時のミレーヌにとってはマルクスは洗礼された大人だと感じた。
背に隠れる様に立っていたため、挨拶以外の言葉を交わしたわけでもないから、マルクスが覚えていないのも当然なのだろうが…。
その時彼女は父の影からチラリと見えるマルクスの姿にドキリと心臓を高鳴らせていた。
そう…彼女はマルクスに一目で恋に落ちたのだ------
でも、この恋は叶わない…自分はその他大勢の中の一人にしか過ぎないし、周りには自分より美しい人が沢山いるのだと歳を重ねれば嫌でも理解してしまった。
だけど、この思いをどうしても捨てきれずにいたミレーヌは、どんなに父の反感を買っても縁談や婚約の話を断り続けて来た…。
だから、今回の縁談にはとても驚かされたが、それと同時に神に感謝した。
何故自分が…?そう思ったがこれは自分の気持ちを伝えられるチャンスでもあるのではないかとも考えた。
だから本当は「お金や地位なんかが目的じゃない。ただ、あなたが好きなだけ!!」と叫んでしまいたかった。
だけど、今の彼に何を言っても無駄な事は想像できた。
これ以上何か言って、嫌われる事が耐えられない。
だから彼女は固定も反論もしなかった。
それを彼がどう捉えたかはわからない…。
所詮女はこうだと決め付けられ、ただ------胸が痛かった。