第1話:結婚の申し出
今はまだそういった表現は出てきませんが、いずれ一部残酷な表現を含む文章が出てくる予定ですのでR15指定とさせていただきます。
「ミレーヌ…そなたの結婚が決まった」
そう言ってミレーヌの目の前で肩を落とすのは彼女の父親。
現アナタリア王国の国王である。
その隣では心配そうに夫を黙って見つめる妻マリーの姿。
アナタリア王国は大陸の西に位置する小さな小さな国だ。
国を支える鉱山に囲まれ決して豊かとは言えないが、緑に囲まれとても良い国だ。
民からも信頼され、争い事など一切無くここ数十年ずーっと平和である。
「お父様…なぜそう肩を落とされているのです?」
「……どうせまた結婚は嫌だ!とか言うんだろう?」
「……まぁ…否定はいたしません」
いつもは怒鳴り散らすほどミレーヌの結婚に対してうるさい父が、今度は気を落とす作戦に出てきたのだろうか?。
と言うのも、ミレーヌは次から次へと申し込まれる結婚話やら婚約話を尽く断ってきたのだ。
十五歳で結婚し嫁ぐのが当たり前の世の中になりつつあるというのにも関わらず…。
なぜ結婚や婚約をしなかったのか?
それは、彼女には密かに思い続けている相手が居るのだ。
最近ではそんな理由で両親を困らせていることに罪悪感すら感じるようになってきていた所に今回の縁談話。
そろそろ歳も歳だし妥協しないといけないのかもしれない…。
「で、お相手はどんな方です?」
「相手はあのマルクス王子で…」
「えっ!?マルクスってあのマルクス様ですか?!」
父親が最後まで口にする前にミレーヌは立ち上がり叫んでいた。
いきなり大声を出したのに驚いたのか、両親は顔を見合わせている。
「…?ほ、他にマルクスと言う王子は確か居なかったはずだが?」
「そうですけど…」
マルクス王子と言えば、こことは遠く離れた大陸一大きなマグナドル国王子だ。
ここ最近の噂では、とても冷徹で人を人とも思わないような方だと。
「彼は確か、女嫌いで有名で結婚とは無縁の方だったはずですが」
「あぁ。私もそう聞いている。だが結婚の申し出があったのも事実だ」
そう言ってテーブルの上に置かれたのは上等な紙で書かれた親書。
ミレーヌはそれを手にとって眺める。そこには間違いなくミレーヌに対しての結婚の申し出の内容がつらつらと綺麗な字で書かれていた。
「で?今まで相手すら聞いてこなかったというのに……もしや…受けてくれるのか!?」
「……そ、そうね…今までは断ってましたけど…私もそろそろ嫁がないといけませんものね?それに、もしこの申し出を断ってしまったら後々が大変ですわ。そうでしょう?お父様」
「そ、そうなんだが…本当にいいんだな?」
まさか結婚を承諾するとは思っていなかった彼は、ミレーヌの気が変わる前にと慌てて妻を連れ立って部屋を後にした。
ミレーヌはそんな父親を尻目にテーブルに置かれたティーカップを手に取ると、中に注がれた紅茶を口に含み考えた。
正直これだけの大国の王子が、なぜちっぽけな国の王女である彼女との結婚を望むのか?
それこそきっと選り取り見取りなはずの王子が…。
疑問はあったが、この際考えないことにした。
「マルクス様と結婚…」
ボソッと呟かれた彼女の一言に誰一人として気づくものはいなかった。
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あれよあれよという間にマグナルドへ赴く日がやってきた。
王である父はなぜ急にミレーヌが気を変えたのか…本気で結婚する気なのか半信半疑だった。
ミレーヌはというと、あの日から怒涛の日々だった。
まずは一緒に着いて行く侍女選びから始まり、持って行く物の仕分けに、あちらの国の歴史や作法の勉強。
作法は小国とは言え王女としてこれまで20年間過ごしてきたのでほぼ問題は無い。
ただ時間が無かった。
向こうが指定してきたのはあの親書が届いてから5日後には国を発つこと。
なぜそんなにも急がせるのか…?
父は気が変わる前には出発できそうだと周りの者に嬉々として触れ回っていたようだが…。
「では…お父様、お母様行って参ります」
王城の門前で馬車に乗る前に父、母へ挨拶をする。周りには城に残る侍女や執事が整列して皆頭を下げている。
母の腕の中では歳の離れた弟がスヤスヤと寝息を立てていた。
彼はまだ産まれて間もない赤ん坊。そんな弟にミレーヌは手を伸ばし頬をスッと撫でた。
「アレッサムお父様とお母様をよろしくね…」
「何かあったらすぐに連絡するんだぞ」
「ミレーヌ…幸せにね…」
「はい…!」と出来る限りの笑顔で返事をしたミレーヌは馬車に足をかけると一気に体を中へやった。
窓越しに見る父と母は肩を震わせ必死に涙を堪えていた。
「開門ーーーー!!」
兵士がそう叫んだと同時に馬車が動き始めた。
窓から身を乗り出したミレーヌはどんどん小さくなっていく父と母そして弟の姿が見えなくなるまで必死に手を振った。
1話目、大幅修正しました。