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星醒のアマテラス番外ハクレン/レイヴン編

作者: 度肝抜造
掲載日:2026/10/02

番外編「光の娘」

第一話「小さな家族」

――アマテリア聖王国。

光の星。

まだ七つの星が戦火に包まれる前の時代。

王都から少し離れた場所に、一つの孤児院があった。

そこには、身寄りのない子供たちが暮らしていた。

その中に――

一人の少女がいた。

白蓮ハクレン。

十歳。

白い髪を揺らしながら、庭を走っている。

「ハクレン、危ないよ!」

声をかけたのは、五歳ほど年上の少年だった。

「大丈夫!」

ハクレンは笑う。

「転ばないもん!」

「そう言って昨日転んだだろ」

「昨日は昨日!」

少年の隣には、同じくらい年上の少女がいた。

「ほら、ハクレン」

少女が手を差し出す。

「おいで」

「お姉ちゃん!」

ハクレンは嬉しそうに駆け寄った。

三人は血の繋がった兄妹ではない。

それでも。

この孤児院で暮らすうちに、三人は本当の兄妹のようになっていた。

少年はハクレンにとって兄のような存在。

少女は姉のような存在。

「今日は何して遊ぶ?」

「お兄ちゃん、木登り!」

「また?」

「だって楽しいもん!」

「じゃあ、俺が下で見てるからな」

「私も!」

姉も笑う。

ハクレンは二人の間に入って笑った。

――小さな家族。

それが、ハクレンにとっての世界だった。

その日。

孤児院に、一人の男が訪れた。

黒い髪。

落ち着いた眼差し。

白衣をまとった研究者。

男の名は――

天城レイヴン。

アルカディアに所属する研究者だった。

「この子ですか?」

孤児院の職員が尋ねる。

「ああ」

レイヴンは庭を見る。

その視線の先に、ハクレンがいた。

「白蓮ハクレン」

「はい」

「少し、手を見せてもらえるか?」

「……?」

ハクレンは首を傾げながら手を差し出した。

レイヴンが魔力測定器を近づける。

――ピッ。

数値が表示される。

レイヴンの目が僅かに細くなった。

「……これは」

通常の光属性適性ではない。

異常なほど高い。

光の魔力。

その奥に眠る、巨大な何か。

「この子は……」

レイヴンはハクレンを見る。

「特別な才能を持っています」

職員が驚く。

「本当ですか?」

「ああ」

レイヴンは静かに答えた。

「アルカディアで、正式に研究と教育を受けさせたい」

ハクレンは二人の兄姉を見る。

「……行かなきゃダメ?」

姉がしゃがみ込む。

「ハクレン」

「……うん」

「怖かったら、いつでも帰ってきていいんだよ」

兄も笑った。

「そうだぞ」

「……お兄ちゃん」

「俺たちは、ずっとここにいる」

ハクレンの目に涙が浮かぶ。

「……うん」

姉がハクレンを抱きしめる。

「頑張っておいで」

「……うん!」

ハクレンは涙を拭った。

「私、頑張る!」

こうして。

十歳の少女は、アルカディアへ向かうことになった。


第二話「師匠」

アルカディア。

巨大な研究施設。

そこには、七つの星から集められた魔力技術とMAS技術が集積されていた。

ハクレンはレイヴンの弟子となった。

「魔力は力じゃない」

レイヴンは教える。

「扱い方を間違えれば、自分自身を壊す」

「はい!」

「もう一度」

「はい!」

ハクレンは必死に学んだ。

魔力制御。

古代文献。

守護獣。

星の歴史。

MAS理論。

そして――

光の魔力。

ハクレンは驚異的な速度で成長していった。

「……やはり」

レイヴンは研究データを見ながら呟く。

「この娘の光属性は異常だ」

通常の光属性能力者とは明らかに違う。

まるで。

何かに守られているようだった。

ハクレン自身は知らない。

その身に宿る光が――

後に「アマテラス大巫女」と呼ばれる存在と深く繋がっていることを。

年月が流れる。

十歳だった少女は。

やがて少女から、一人の女性へと成長していった。

レイヴンとの関係も。

師弟という言葉だけでは表せないものへと変わっていった。

しかし。

それでもハクレンにとって、レイヴンは特別な存在だった。

そして。

ハクレンが十六歳になった頃。

一つの命を宿した。

その子の父親は――

レイヴンだった。

ハクレンは、自分の腹部に手を当てる。

「……この子」

小さく微笑む。

「私が守る」


第三話「光の娘」

一年後。

ハクレンは十七歳になっていた。

そして。

一人の女の子が生まれた。

白い肌。

小さな手。

静かな寝息。

ハクレンは、その赤ん坊を腕に抱いた。

「……アオイ」

それが、その子の名前だった。

「あなたの名前は、アオイ」

ハクレンは微笑む。

しかし。

その隣に立つレイヴンは、違うものを見ていた。

赤ん坊から放たれる微弱な光。

それは普通の光属性とは違った。

古代の文献に記された――

アマテラス大巫女。

その魂。

その器。

レイヴンの表情が変わる。

「……まさか」

アオイが小さく手を動かす。

その瞬間。

室内の光が僅かに揺れた。

レイヴンは息を呑む。

「アマテラス……」

ハクレンが振り向く。

「……何?」

「いや」

レイヴンは笑った。

「素晴らしい子だ」

しかし。

その笑顔の奥に。

黒いものが蠢いていた。

それから。

ハクレンは、レイヴンの変化に気づき始めた。

以前とは違う。

アオイを見る目。

研究対象を見るような目。

いや。

それ以上だった。

「……レイヴン」

「何だ?」

「この子に何をするつもり?」

「何もしない」

即答だった。

だが。

ハクレンには分かった。

何かがおかしい。

そしてある夜。

ハクレンは見てしまった。

レイヴンの背後に浮かぶ――

黒い影。

人の姿をしている。

だが。

人間ではない。

「……誰?」

ハクレンが震える。

影は答えない。

レイヴンの身体へ溶け込むように消えていく。

「レイヴン……?」

男はゆっくり振り向いた。

「どうした?」

その瞳の奥に。

一瞬だけ、黒い光が宿った。

ハクレンはアオイを抱きしめる。

「……怖い」

このままでは。

この子が危ない。

「逃げなきゃ……」

しかし。

十七歳の少女が、一人でアルカディアから逃げ出すことなどできない。

まして。

生まれたばかりの赤ん坊を連れて。

そんなハクレンの前に。

一人の少年が現れた。


第四話「少年」

夜。

施設の通路。

ハクレンはアオイを抱きしめながら歩いていた。

「……誰?」

暗闇から少年が現れる。

黒い髪。

十五歳。

腰には一本の剣。

黒羽クロウ。

「静かに」

クロウは周囲を確認する。

「ここから出る」

「……え?」

「今夜しかない」

ハクレンはクロウを見る。

「どうして……」

「時間がない」

それ以上は言わなかった。

クロウは隠し通路を開く。

「アオイを連れていけ」

「あなたは?」

「俺も行く」

ハクレンは驚いた。

「でも……」

「早く」

クロウが先へ進む。

ハクレンはアオイを抱きしめる。

そして。

少年の後を追った。

三人は施設を抜けた。

追手の目を避け。

暗い森を進み。

夜明け前。

光の星北部。

人里離れた山間へ辿り着いた。

小さな家があった。

古びた屋敷。

三人は中へ入る。

クロウが扉を閉める。

「……ここなら、しばらくは大丈夫だ」

ハクレンはアオイを抱きしめる。

「……ありがとう」

クロウは答えなかった。

ただ。

窓の外を見る。

静かな夜。

星空。

ハクレンは疲れ切った身体を壁に預ける。

アオイは腕の中で眠っている。

「……この子だけは」

ハクレンが呟く。

「絶対に守る」

クロウは何も言わない。

ただ。

腰の剣に手を添えた。

その瞬間だった。

――ゴォォォン!!

屋敷の壁が吹き飛んだ。

黒い魔力が流れ込む。

「……!」

ハクレンがアオイを抱きしめる。

クロウが前へ出る。

煙の向こう。

人の姿に見える黒い影が立っていた。

その存在から。

異常な闇の魔力が溢れている。

「……闇影」

クロウが呟く。


第五話「闇に堕ちた剣」

「光の器を渡せ」

闇影が言う。

ハクレンは震える。

「嫌……」

クロウが剣を抜く。

「断る」

闇影がクロウを見る。

「お前が守るのか」

「そうだ」

「その子が何なのか、理解しているのか」

クロウは答えない。

ただ。

一歩前へ出る。

「関係ない」

剣を構える。

「この子は渡さない」

闇影の黒い魔力が膨れ上がる。

次の瞬間。

クロウが地面を蹴った。

――ザンッ!!

剣が闇影を斬り裂く。

しかし。

黒い影は崩れない。

そのままクロウの腕を掴む。

「……っ!」

黒い魔力がクロウの身体へ流れ込む。

「ぐっ……!」

クロウは剣を振る。

闇影の腕を斬る。

だが。

切断された黒い腕は再び形を戻した。

「くそ……!」

クロウが後退する。

闇影が迫る。

クロウは再び踏み込む。

剣。

拳。

蹴り。

黒い魔力。

二人の肉弾戦が続く。

「ハクレン!」

クロウが叫ぶ。

「アオイを連れて逃げろ!」

「でも……!」

「早く!」

ハクレンはアオイを抱きしめる。

「クロウ……!」

「振り返るな!」

ハクレンは走った。

クロウは一人残った。

闇影が笑う。

「なぜ守る?」

「……」

「その少女に何の価値がある?」

クロウは答えない。

ただ。

剣を握り直す。

「俺が……」

黒い魔力が身体へ侵食していく。

腕。

肩。

胸。

首。

皮膚の下へ、闇が入り込んでいく。

「ぐああああっ!!」

クロウが苦しむ。

それでも。

剣を離さない。

「……守る」

闇影の声が響く。

――その少女は光だ。

「知るか……!」

――アマテラスの器。

「そんなもの……」

クロウの瞳が赤く染まる。

「……どうでもいい」

黒い魔力がさらに侵食する。

それでも。

クロウは立っていた。

「俺は……」

震える声。

「俺が、守りたいから守る」

闇影がクロウの身体を包み込む。

「ならば――」

黒い魔力が爆発する。

「その闇を受け入れろ」

クロウの身体が大きく揺れる。

「――ぐっ……!」

意識が遠のく。

それでも。

最後にクロウの脳裏へ浮かんだのは。

アオイの小さな顔だった。

「……生きろ」

その言葉とともに。

クロウは闇に飲み込まれた。


第六話「十五年前の夜」

森の中。

ハクレンは走り続けていた。

腕の中のアオイが泣いている。

「ごめんね……」

ハクレンは息を切らしながら呟く。

「怖いよね……」

しかし。

アオイは泣きながらも、ハクレンの服を小さな手で握っていた。

「大丈夫」

ハクレンは涙を拭う。

「あなたは、私が守る」

そのとき。

遠くの空が黒く染まった。

ハクレンは振り返る。

「……クロウ」

巨大な黒い魔力が夜空を覆っていた。

そして。

その中心に、一人の男が立っている。

クロウだった。

だが。

その姿は、先ほどまでとは違っていた。

身体を覆う黒い魔力。

赤く光る瞳。

手には、闇の剣。

「……クロウ……?」

ハクレンが呟く。

クロウは、遠くにいるハクレンとアオイを見つけた。

そして。

苦しそうに目を閉じる。

「……行け」

声だけは、まだクロウだった。

「ハクレン……」

「……!」

「その子を連れて……遠くへ行け」

ヤミカゲの声が重なる。

――逃がすな。

クロウは頭を押さえる。

「黙れ……!」

――その少女は、光だ。

「……知るか」

クロウの身体から、さらに黒い魔力が噴き出す。

それでも。

クロウは剣を下ろさなかった。

「……俺は」

震える声で呟く。

「俺は、あの子を守る」

ハクレンの目から涙が落ちる。

「クロウ……」

クロウは、ほんの少しだけ笑った。

「だから……行け」

ハクレンは頷いた。

「……必ず迎えに行く」

「約束する」

ハクレンはアオイを抱きしめ、森の奥へ消えていった。

クロウはその背中を見送る。

やがて。

完全に姿が見えなくなった。

クロウは一人、夜空を見上げる。

「……これでいい」

ヤミカゲが囁く。

――なぜ守る?

クロウは答えた。

「決まってる」

そして。

「俺が、そうしたいからだ」

一瞬。

黒い魔力の中に、白い光が走った。

ヤミカゲが沈黙する。

クロウは剣を握り直す。

「アオイ」

その名を、静かに呟く。

「……生きろ」

十五年前。

一人の少女の命を守るために、一人の男は闇を選んだ。

そして。

その少女が十五歳になったとき。

七つの星を巻き込む戦争が始まる。

――すべては、この夜から始まっていた。


第七話「小さな家族」

夜が明けた。

ハクレンは森を抜けた。

身体は限界だった。

それでも。

腕の中のアオイだけは離さなかった。

やがて。

見覚えのある道へ出る。

「……ここ」

ハクレンが呟く。

かつて自分が暮らしていた孤児院。

扉の前に立つ。

そして。

震える手で扉を叩いた。

「……誰?」

聞き覚えのある声。

扉が開く。

そこに立っていたのは――

かつての姉だった。

「……ハクレン?」

二人はしばらく動かなかった。

「……お姉ちゃん」

姉の目が大きく開く。

「ハクレン……!」

抱きしめる。

「ハクレンなのね……!」

「……うん」

涙が溢れる。

その後ろから。

かつての兄も現れた。

「……ハクレン?」

「お兄ちゃん……」

三人は抱き合った。

七年ぶりだった。

やがて。

姉がハクレンの腕の中を見る。

「この子は……?」

ハクレンはアオイを見る。

「私の娘」

二人は驚いた。

ハクレンは震える声で続ける。

「この子を……」

「お願い」

「私には、この子を守り続けることができない」

姉がハクレンの手を握る。

「……分かった」

兄も頷く。

そして。

アオイを優しく抱き上げる。

「この子は――」

二人が顔を見合わせる。

そして。

「私達が必ず立派に育てる」

ハクレンの目から涙が溢れた。

「……ありがとう」

姉が笑う。

「家族でしょう?」

その言葉に。

ハクレンは声を上げて泣いた。

七年前。

自分を送り出してくれた二人。

今度は。

自分の娘を受け入れてくれた。

ハクレンは眠っているアオイの頬に触れる。

「アオイ」

小さく囁く。

「いつか……」

「あなたが大きくなったら」

「きっと、また会いに来るから」

アオイは眠ったまま。

小さな手を動かした。

ハクレンはその手に指を重ねる。

そして。

「……元気でね」

最後に一度だけ。

娘を抱きしめた。

それから十五年。

アオイは何も知らずに育った。

自分が何者なのか。

母が誰なのか。

そして。

十五年前。

一人の少年が自分を守るために闇へ飲み込まれたことも。

何も知らないまま。

普通の少女として。

十五歳の春を迎えた。

やがて。

七つの星を巻き込む戦争が始まる。

そして。

その戦場には――

かつてアオイを守った少年。

黒羽クロウの姿があった。

今度は。

仮面を被った、彼女の宿敵として。

番外編「光の娘」――完。


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