9.とある兄弟たちの未来の話⑨
お読みいただきありがとうございます。
序章の最終話です。
次話の第1章から動きが出ます。
まさかの事実に気付いた瞬間、アーディエンスが必死で両親を守る理由の一端が分かった。母は心がフワフワ、父は頭がユルユルなので、自分がしっかりしなければと思っているのだ。
さらに、ウォーロックが神々に気に入られていた理由も分かった。おそらく、脅威のポケポケ面を見抜かれ、それがゆえに可愛がられていたのだ。
ついでに、あの腐れ先達たちが操作対象としてウォーロックを選んだ理由も分かった。何と言うか、ひょいひょい操りやすいのだ、この弟は。警戒心がすっこ抜けているというか、良くも悪くも魂がオープンというか、相手や周囲に対してひたすら無防備なのである。操り糸を取り付け放題だ。
何しろ、自分に対してあれだけのことをやらかした老害爺共を、『驚くほど優しくて、色んなことを教えてくれる物知りな先達の皆様』と受け入れてしまうほどの無邪気さだ。もう常軌を逸している。
だが、それも当然なのかもしれない。神から目をかけられ同胞にまで迎え入れられるには、どこかの面で、何かの形で、普通とは隔絶したブッとび部分を持っていなければならない。常識の範疇に収まっていてはその他大勢に埋没し、そもそも神から注目されることがないからだ。
……ただし、ウォーロックだけでなくアルシオもシルファールも、アーディエンスでさえ、何だかかんだであの先達爺共を嫌えない。口では散々にこき下ろしても、本心では深く愛慕している。そのことを自覚してもいた。
シルファールは先達たちに徹底的なケアを受ける中で、彼らは決して邪悪な者ではない、むしろ驚くほどに優しいと分かったと言っていた。ミスティーナも同じくだ。根に持つアルシオとて、ラグドール以外の爺たちのことも結局は受け入れてしまうだろう。
アーディエンスが彼らに吐き捨てたという『さっさと昇華して消えちまえ』という趣旨の台詞も、『これ以上疲弊し切った心を抱えて留まらなくて良いから、早く心穏やかに休んで下さい』という本音の裏返しだ。
最後に付け足した『どうぞごゆっくり』という労いの一言こそが、きっとアーディエンスの本心だった。それは先方にも伝わっていただろう。文字通り神同士の同胞愛の真骨頂なのかもしれない。
『それで、兄さん。今日は何の用なの?』
安定の鈍さでアルシオのツッコみを聞き流したらしいウォーロックが、コテンと首を傾げた。
『大事な用事があるから直接話したいって、念話をもらったから来たんだけど』
『ああ……』
これ以上コイツの鈍感さに付き合っていても疲れるだけだと悟ったアルシオは、あっさりと話題転換に乗った。
『今度、メアに贈り物をしたいと思っている。何が良いか一緒に考えて欲しい』
『それなら僕じゃなくてイルーナに相談した方が良くないかな?』
『イルーナはメアと仲が良いだろう。共に茶を飲んでいる時、うっかりバラしてしまいそうな気がする。それか、必死に隠そうとして挙動不審になるかだ』
『……確かにそうだね』
夫婦そろって思考がゆっくりしている自覚はあるのか、ウォーロックがささっと目を逸らした。
『僕には良いアイデアを思い付けそうもないけど、考えてみるよ』
『そうやって自身を卑下する癖を改善しろ。お前の発想力は本物だ』
『でも僕は、ミスティーナに対しても最低なことをしてしまったし……』
『そこまでだ。その件に関しては、他ならぬメアが水に流すと言っている。アディもだ。被害者かつ当事者たちg自発的な意思で決めたならば、私を含む誰にも否やはない。今後はネガティブ思考は禁止だ。今までに幾度もそう言っているのだが、効果がないな』
『自分の考え方は中々変えられなくて。ごめんね兄さん』
『――いや、私も急かして悪かった。私たちの時間は無制限なのだから、焦ることはない。これから少しずつ直していけば良い』
柔らかさを宿したアメジストの双眸に見つめられ、トパーズの瞳が瞬いた。
『うん……ごめん……いや、ありがとう兄さん』
おずおずと紡がれた言葉に、アルシオは小さく笑う。そして兄弟で顔を突き合わせ、何を贈るか話し合い始めた。
◆◆◆
――共に真剣な眼差しで、あーでもないこーでもないと話すアルシオとウォーロック。彼ら兄弟はまだ知らない。これより先、とある事情で老害共を呼ぶことになり、蘇った先駆者たちと再び見えることを。
神として復活した先達たちは、大喜びした最高神たちから従神と同等な神格を授けられ、ラグドールに至っては筆頭従神に匹敵する神格まで引き上げられる。これは色無しの中では最高峰に位置する神位だった。
使役の立場から完全に脱したため、使役たちのことを考えたり使役界の均衡を調整する必要が無くなったラグドールは、ようやく本心のままに弟たちと向き合い、交流を深めることができた。
その未来が訪れるまで、後ほんの少し。
ありがとうございました。




