7.とある兄弟たちの未来の話⑦
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――私もお前が羨ましかった。隙を見せれば食い物にされるはずの使役界の摂理を超越し、誰からも好かれる器量を持ったお前が。本当は、心のどこかでお前が私に声をかけてくれるのを待っていた
お兄様もこちらに来ませんか? 一緒にお話ししましょう。そう誘ってもらえるのを、魂の奥底では待っていた。そう伝えれば、トパーズの瞳が心底驚いたように真ん丸になった。
――あなたは僕のことが嫌いなんだと思っていました。たまに僕を見ている時、睨んでいるような気がしたから。嫌われているのかと思ったら、悲しくて何も話せなくなってしまいました
――嫌ってなどいない。何故私には声をかけてくれないのかと寂しかっただけだ。それから、私の目付きは元々悪いんだ
アルシオもウォーロックも、互いに面と向かって相手に手を伸ばすことができなかった。どちらかが勇気を出して言葉をかけていれば、何かが違っただろうか。だが幸いなことに、自分たちには終わりのない時間がある。まだやり直せる。同じ失態はもう犯さない。今度はきちんと守る。妻子も、そして弟も。
――実を言えば、メアとアディも、どうしてもお前を恨み切れないと言っていた。完全に許すことはできずとも、いつか笑顔で話がしたいと。神が抱く同胞愛も理由の一つだろうが、それだけではないはずだ。何故なら、お前が神成する前からそう漏らしていたのだからな。真実のお前を知っているからこその想いだろう
――私も同じだ。今からでも、お前と本当の意味で兄弟になりたい。いずれ私たちの心の整理が付けば、きっとお前と笑って相対できるようになる。だからお前の方も、いつか準備ができた暁には、私を兄と呼んでくれないか
胸襟を開いてそんな話をしてからは早かった。語った未来が実現するまでに、たった一年ほどしか要さなかったのだ。今は双方が和解し、ウォーロックはアルシオを兄さんと呼んでくれている。……自信のなさは相変わらずだが。
これにはフレイムとラミルファも驚いていた。アルシオとウォーロックがいつか雪解けを迎えるとしても、それは数百年単位では足りず、数千年や数万年単位が経過した果てのことだと予想していた、と。アルシオ自身もそう思っていた。だが蓋を開けてみれば、僅か6年ほどで和解へ到達したのだ。
なお、アーディエンスはアルシオとウォーロックの関係修復を静観していた。これまで散々知らん顔をして妻子にばかりかまけて来た癖に、今更兄貴面をするな――くらいは言われるかと思っていたが、ウォーロックはアルシオと和解した方が幸せになれると考えて受け入れたらしい。真実、ウォーロックのことを大切に想っているのだ。
『兄さんには一生拒絶されると思ってた。先達の皆様に操られていたとしても、神同士には同胞愛があると言っても、僕がやったことは酷すぎたから』
ポツリとウォーロックが呟いた。黄水晶の瞳が頼りなげに揺らぐ。
『兄さんの掌中の珠を傷付けてしまった。これ以上ないほど深く。だから永劫に嫌悪される。同胞愛で多少は緩和されたとしても、最低限の付き合いをしてもらえれば御の字だろう。そう考えてたんだ。兄さんは根に持つタイプだって聞いてたから、余計に』
全体的な評価としては公明正大で清廉潔白と評されるアルシオだが、実際には、遺恨を後々まで引きずり、己の逆鱗に触れた相手には容赦なく塩対応する面も併せ持っている。
『相手がお前でなければそうしていた。メアとアディは私の掌中の珠だ。いかなる理由があれ、我が妻子を踏みにじった輩を、私は決して許さない。お前でなければ歩み寄ったりなどしなかった』
『どうして僕は違ったの?』
『……お前が私の弟だからだ』
目を伏せたアルシオはボソボソと言葉を紡ぐ。
『お前もまた私の家族だ。……大事な存在だった。兄である私が、もっとお前を見てやるべきだった。私がお前を守ってやらなければいけなかった。今度こそきちんと弟を見て、兄として守りたい。お前の謝罪を聞いた時、そう思った。だからお前には冷徹になれなかった』
そしてそれは、ラグドールに対しても同じ。弟であるウォーロックを憎めないように、あの老害野郎もどうしても嫌悪できない。己の兄であると知ってしまったから。これぞ神の家族愛なのだろう。アルシオはもう、大切なのは妻子だけだと肩肘を張っていた昔とは違う。大事な者の枠が広がっている。
『っ…………』
傍らの弟が小さく肩を跳ねさせた。驚いているらしい。これ以上言うのは面映ゆいので、アルシオは微妙に話題を変えることにした。
『それに、孫たちが顕現したことも、私たちの仲を修復する一助になってくれた』
ウォーロックとイルーナの間には御子神が顕現した。アーディエンスにとって弟妹に当たる。その御子神はもちろん、シルファールとアーディエンスも妻を得て子を授かり、アルシオとウォーロックは祖父の立場になった。はとこの関係になる孫神たちは皆仲が良く、時折集まって一緒に遊んでいる。
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