6.とある兄弟たちの未来の話⑥
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――やはり早朝散策に繰り出していたアルシオ、シルファール、ミスティーナが、修羅場と化した現場を通りかかったのは、まさにその時だった。元々行こうとしていた場所を他の神々が使っていたため、急遽行き先を変更したのだ。先達精霊たちの思念が穴場だと勧めてくれた場所に。そして、この状況を見て喫驚した。
こうなると、合わせる顔が無いだの事情があったとしても割り切れないだのと言っている場合ではない。荒神の神威は常の和神とは比較にならないほど強大だ。このまま放っておけば神苑が塵と化してしまう。
必死でアーディエンスを止めようとしていたウォーロックとイルーナに、一瞬だけ怯んだアルシオと迷わず飛び込んだシルファールが加勢した。四柱がかりで宥めている隙に、ミスティーナが何やら叫んでいるイーネストを豪快に蹴り飛ばして強制退去させた。
この騒動の中で、互いに避け合って来たアルシオたちとウォーロックは強制的に会話をすることになり、それがきっかけで細々とだが交流が再会した。最初はそれはもうぎごちなく、しかし徐々に距離が縮まっていった。
そして約一年後、ウォーロックが初めてアルシオに兄さんと呼びかけ、アルシオがそれに応えた日。互いの声は緊張で上擦っていたが、それでも本当の意味で兄弟として向き合っていた、あのど腐れ先達たちは、それを見届けてから消えて行ったのだ。
あれから190年ほどが経つ現在、ウォーロックはアルシオに促され、だいぶ表舞台に出るようになっている。シルファールもそれを喜び、まだ若干及び腰の叔父を誘って共に従神業に励んでいた。
『――あれは私たちの仲を少々強引にでも改善しようと、腐れ先達たちを含む神々が動いたのだろう。あのクズ外道が都合良く裏領域から脱走できたことも、ちょうどお前たちが散策に出ていたことも、騒動が起こったその時に私たちが通りかかったことも、タイミングが良すぎる』
アーディエンスたちが朝早くの時間を選んだのは、他の者がいない時に少しだけ風に当たるならばウォーロックも出やすいだろうと、腐れ先たちと神々が提案したからだ。
また、アルシオ一家が早朝散歩をよく行っていることは、天界の者ならば知っている。いつも通っているルートも。神々が少ない早朝にも関わらず、何故かいつもの目的地が使われていたことや、先達たちに穴場としてあの場所をお勧めされたことといい、偶然とは思えなかった。
『あの後、私たちとお前の関わりが復活すると同時に、お前とイルーナも親密になっていったのだな』
自己評価が地の底まで落ちていたウォーロックは、恋愛という意味でイルーナとの交流を深めることを躊躇した。だが、アーディエンスを始めとする神々が影に日向に後押しした。腐れ爺たちも、アルシオ一家も。
結果、イルーナはウォーロックと再婚し、新しい家庭を築いていくことになった。ウォーロックがアルシオを兄さんと呼ぶ少し前のことだった。アーディエンスはその前からウォーロックと父子の契りを結んでいたので、ちょうど良い結果に収まったとも言える。
ちなみに、イーネストは裏領域のさらに奥へ送られ、次に脱走すれば神罰牢行きも視野に入れた厳罰に処されることになっている。
『私とお前が本当の意味で兄弟になれたのも、あの騒動がきっかけだった』
イーネスト突撃事件が発端となり、断絶状態であったアルシオとウォーロックの関係が再始動したことで、兄弟はようやく本音で語り合うことができた。互いに対して羨望と引け目を感じていたのだと。
――何でもできるあなたが羨ましかったんです。本当はあなたとたくさん話をして、一緒に過ごして、色々なことを教えて欲しかった。でも、あなたはいつも怖い顔をしているように見えて、中々本音を言えませんでした
――たくさんの使役が僕に声をかけてくれたけど、本当は大勢でいたり誰かと話すより静かに本を読んでいる方が好きだったし、何よりあなたが隣にいてくれればそれで良かった
――あなたがミスティーナ様と両想いになった時も、シルファール様が生まれた時も、心の底からおめでとうと思ったのに。ミスティーナ様には僕も思いを寄せていたけど、あなたが相手ならどんな素敵な女性でも惚れると思って、素直にお祝いしていたはずなのに
――いつの間にか、持っていなかったはずの憎しみが勝手に湧き上がって来て、自分が呑み込まれてどこかに行ってしまいました。ごめんなさいアルシオ様、ごめんねミスティーナ様、本当にごめんねシルファール様
そう言って泣きくずれたウォーロックを見たアルシオは、自分が一番に目を向けるべきだったのはこの弟だったことに気が付いた。
同じ天樹の同じ雫から生まれた、唯一無二の存在。ミスティーナよりもシルファールよりも、ずっと長い時間、自分の近くにいた弟。時折、こちらを見て何か言いたそうにしつつ、結局は口を閉じ、寂しそうに俯いて別の場所に行ってしまった。彼を呼び止め、きちんと話をしていれば良かった。
大精霊の力を持つ自分が、もっと早くからきちんと片割れを見ていれば。あの腐れ爺共が干渉した時点で察知できたかもしれない。なのに、大事な者など持たないと格好を付けて背を向け続けた結果、老害たちが弟に付け込む隙を与えてしまった。
そしてその果てに、最愛の存在である妻子までもみすみす傷付けられた。全ては自分が見るべき者を見ず、蔑ろにしていたからだ。あの状況にまで陥ったのは、自分の咎でもある。
自分がウォーロックを守ってやるべきだった。その力だって持っていたのに。だが、アルシオが張った〝家族〟の網はミスティーナとシルファールだけを囲い、弟はすり抜けて落とされた。その結果が――
深い後悔と共に、アルシオはようやく弟と正面から向き合った。
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