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スピンオフ置き場  作者: 土広 真丘
第1章
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6.何故か泣きそうになっていた

お読みいただきありがとうございます。

『せーので呼ぼう。……またお会いできるなんて嬉しいね』


 こんな時だというのに目を輝かせているウォーロックを眺め、アルシオは一つ嘆息した。自分もきっと同じような瞳をしているのだろうと思いながら。


『――私は根に持つんだ。奴らが戻って来たら付きまとって、かつて私たちを利用したことをチクチク突っついてやる。お前も言ってやれ。貴様らのせいで自分はすっかり自信を失くしてしまったのだから、責任を取ってもっとケアしろ、とな』

『つまりあの方とたくさん一緒に過ごしていっぱいお話しして、ちょっと甘えてみたりとか、優しくしてもらったりしようってことだね。うん、そうしよう。だってあの方は僕たちの大兄(おおにい)さんだもんね』


 無邪気な顔でこちらの本心を暴いてくる弟に、アルシオは美貌を引き攣らせて舌打ちした。図星を突かれたのだ。


『……お前……何故こういう時だけ異様に鋭いんだ。普段はドン引きするくらい鈍ちんでアンポンタンな癖に』

『は? アンポンタンだと? その言い方――やっぱり兄弟だな』


 率直な所感に、アーディエンスが眦をつり上げる。ウォーロックを愚弄されたことに怒ったのだろうか。だが、やっぱり兄弟とはどういう意味だろう。気になったアルシオだが、尋ねるより早くウォーロックがぽやんと笑った。


『いや、何となくそうなんじゃないかなって感じたから。先達様……大兄さんだって、アルシオ兄さんの本心をすぐ見抜くと思うよ。じゃあやろう』


 最後は表情を改めての言葉に、アルシオも気を引き締め直した。きちんと呼び戻せるよう、脳裏に原初の精霊の姿をはっきりと思い返す。


 理想に描いていた偉大な先達とはかけ離れた姿を見せられたことで失望し、反抗的な態度で幾度も食ってかかった大精霊時代のアルシオを、赤子でもあやすようにヒラリヒラリといなし続けた食えない奴。本心も感情も全く読めない、読ませない、底知れぬ怪物。最初から最後まで彼に翻弄され続けた。


 だが、ふとした拍子に酷く優しい口調になり、常とは異なる温かな言葉を紡ぐことがあった。フードに覆われた内から、とてつもない慈愛を込めた眼差しをこちらに注いでいることにも気付いた。『幸せにおなり』と、あの台詞を言ってくれた時もそうだった。おそらく、その状態が彼の素だったのだ。

 彼が時たま垣間見せる深愛の片鱗に触れるたび、アルシオはどうしてか泣きそうになった。どれだけ失望しようとも、最奥に根付く尊崇と思慕の念が消せなかった。きっと、魂が兄から与えられる愛情を感知していたのだ。


 ラグドールたちの思念が消滅した後、アルシオは古き神々に聞き込みをした(しょ)(ぱな)に問うた。あなた方もラグドールが自分たちの兄であることを知っていたのですね、と。返って来たのは謎めいた微笑みだったが、無言の肯定だとすぐに分かった。太古の神々が認知していないはずはないからだ。

 何故今まで、その事実を言ってくれなかったのかは聞いていない。ラグドールが伏せておいて欲しいと頼んでいたのか、何か神々なりの判断があったのか。だが、理由を知ったところで過去が変わるわけでもないため、掘り下げて聞くことはしなかった。


 なお、フレイムとラミルファは若神であることから、当初はラグドールとアルシオたちの兄弟関係について知らなかったという。ウォーロックの凶行の黒幕として先達たちがいることを察した後、仔細を調べて関係性を知ったそうだ。だが、太古神たちが口を噤んでいるので、自分たちから話すことではないのだと察し、黙していたと言っていた。


 思えば、先達たちが神々の抱擁と愛撫の中で最期を迎える時もそうだった。一度くらいフードの中の(かお)を見てやろうと、アルシオはラグドールを透視しようとした。今でも試みて来たのだが、その度にこちらの力を相殺されてしまったのだ。

 だが、神成し完全にラグドールより格上になった今ならば視えるだろう。そう踏んでの行動だったが、やはり見透かすことは叶わなかった。


 その結果に、アルシオは潔く諦めた。仕方ない、きっと数多の神々の神威が集って渦巻いているせいで、こちらの神威が上手く通らないのだと思って。しかしあれは、神々が意図的に透視を遮断していたのかもしれない。ラグドールが自らの意思で素性を明かさない限りは、布の(とばり)の内に抱いた秘め事が暴かれぬように。


 そもそもを言えば、元々は神逐されて無残に果てる予定でいたラグドールは、当初は自分が兄だと告白するつもりはなかったはずだ。しかし、神々の熱烈すぎる愛と幾重もの計らいにより、その予定が根底からひっくり返った。別れの時、弟たちに己の素性を伝えた彼は、どのような想いでそれを告げると決めたのだろうか。

ありがとうございました。

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