◆第七章 完成式と冬の町
白い息が群衆の上に漂い、ライトアップされたホテルの外壁が、極夜の闇に浮かび上がっていた。
屋外のステージには、町長とStore Norskeの代表、それに悠介が並んで立つ。背後には、炭鉱跡を改装した大きなガラスの温室が輝き、内部の緑が遠くからも見えた。
「本日、私たちは新たなランドマークを迎えます」
町長の言葉に、拍手が雪原に反響する。
「このホテルは、風力発電と屋内菜園を組み合わせた、北極圏でも持続可能な観光モデルです。そして何より、町の人々と外から来た仲間たちの協力で完成しました」
続いて、エミリアがステージに立った。
「ここは誰でも住める町です。自由に来て、自由に夢を描ける場所。今日、このホテルがその象徴になったと信じています」
彼女の声は澄んでいて、冬の冷気をすっと通り抜けた。
悠介はその横顔を見ながら、胸の奥で静かに息をついた。
完成式の後は、温室でのレセプションが開かれた。
テーブルには、屋内菜園で収穫したレタスを使ったサラダや、地元のシーフード、温かいスープが並ぶ。
「これがこの町で育ったレタスか」
「ええ、外はマイナス20度でも、ここでは毎月収穫できるの」
観光客も地元の人も、同じ驚きと笑顔を見せていた。
夜も更け、最後の来賓が帰ったころ。
エミリアが悠介の方へ歩み寄る。
「この後、試運転するんでしょ?」
「うん。本番前の最終テストだ。…君も来る?」
彼女は小さく頷いた。
二人は温室の灯を背に、静かな雪原を歩き出した。向かう先は、ホテル前の発電設備と照明システム――そして、氷の粒を舞わせる仕掛けが待つ場所だった。