◆第五章 氷の下の未来図
会議室の中央に設けられた大型スクリーンに、悠介の資料が映し出された。
雪を払って入ってきた関係者たちは、温かいコーヒーを手に席につく。前列にはStore Norskeの経営陣、観光局の代表、そしてノルウェー政府の開発担当官が並んでいた。
「本日は、ロングイェールビュン旧炭鉱再利用プロジェクトの詳細をご説明します」
悠介は深く一礼し、リモコンを押した。
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スクリーンに坑道の断面図が表示される。
「こちらが既存の坑道構造です。山側入口から海側出口まで、全長約2.4キロ。通気口は3箇所あり、通年で風が通ります」
次に表示されたのは、小型風力タービンの配置図だった。
「入口、中央、出口の三ヶ所に耐寒仕様のタービンを設置し、合計出力は最大150キロワット。冬季はこれで菜園、ホテル、観光施設すべての電力を賄えます」
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スライドが切り替わり、今度は屋内菜園の3Dモデルが映し出される。
「坑道内の気温は年間を通して安定しているため、外気の影響を受けにくい環境です。ここに断熱ドームを設け、LEDライトによる植物育成を行います」
赤と青の光に照らされたレタス、ハーブ、トマトの写真が現れる。
「水は港の淡水化設備から供給し、循環利用します。CO₂はホテルのボイラー排気からフィルターを通して供給。外気温が氷点下でも、内部は常に20度前後を保てます」
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さらにスライドが変わり、観光導線図が示される。
「港のホテルを拠点に、観光客は海側の坑道入口から入り、発電区画、菜園区画、展示スペースを経て山側出口へと抜けます。最後に展望台から港町を一望できるルートです」
「菜園では収穫体験も可能に。北極圏で採れた野菜をその場で味わえる――これが最大の差別化要因になります」
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説明が終わると、室内は一瞬静まり返った。
やがて観光局の代表が口を開いた。
「北極圏に新しい“緑の名所”を作る……観光面でも強い魅力を感じます」
Store Norskeの経営陣も頷く。「既存インフラの再利用として、我々の理念とも一致します」
悠介は小さく息をつき、エミリアと視線を交わした。
彼女はほんの少し笑って、口の動きだけでこう言った。
――Good job.