◆第四章 緑を灯す
港町の冬は長い。
外の景色がほとんど変わらない中で、プロジェクトは着々と進んでいた。港の倉庫には日本からの貨物が積み上げられ、その中には小型風力タービンやLED照明、循環式水耕プラントの部材が詰まっている。
「このLEDは波長を細かく制御できるんです」
悠介は木箱から取り出したパネルをエミリアに見せる。
「赤と青の光を調整して光合成を促進、緑色の演色も加えることで見た目にも鮮やかに育つ」
「まるで植物用の舞台照明みたいですね」
「そう、観光客が見学しても楽しめるように設計しています」
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坑道の山側では、すでに防音・耐火の隔壁が組み上がり、発電設備区画と菜園区画の骨組みが姿を現していた。
技術スタッフたちが手袋越しにボルトを締め、タービンの羽根が坑道の暗がりに並んでいく。
「冬は外の風速が上がる分、発電量も増えます。夏は潮風を取り入れて冷却に使える」
「じゃあ、一年中稼働できるんですね」
「ええ。むしろこの環境だからこそ安定して回せるんです」
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菜園区画に最初の水槽が設置される。循環ポンプのテストが始まると、透明な水が管を通って静かに流れ出す。
「この水はどこから?」
「港の淡水化設備から供給。使用後は濾過して再利用します」
「……港の水が、ここでレタスになるなんて、面白いですね」
エミリアの目が少し柔らかくなった。
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その日の夕方、坑道の外に出ると、空に淡い光が揺れていた。
「オーロラ、見えますか?」
「ええ。こんな静かなのは初めてです」
二人はしばらく黙って光を見上げた。寒さで頬が刺すように痛いのに、不思議と足が動かない。
「……完成したら、この光の下で菜園の緑を見せたいですね」
「きっと、忘れられない景色になりますよ」
エミリアの声が、雪に吸い込まれるように静かに響いた。