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第8話 幸せな夜

 すっげー、眠い。

 父に歯を磨いてもらいながら危うく眠ってしまうところだった。


 ふらふらになりながら自分のベッドまで歩いて行く。子供ってこんなに眠気が強いものなんだな。そういえば前世でも遊び疲れたらそのまま床とかで眠ってたっけ。


 部屋に入ると後ろから姉のフェリシーが追いかけてきた。


「ウィリーくん、私も寝るよー」

「え? フェリシーのベッドは?」


「別の部屋にあるけど、私はいつもウィリーくんと一緒に眠ってるんだよ」

「あれ? 僕って一人で眠ってなかったの?」


「うん。お姉ちゃんと眠ってたよ。ウィリーくんが頭を打ったときはパパとママにダメって言われてたの。本当は私、ウィリーくんを抱き枕にしたかったんだけどねー」


 この姉は弟を抱き枕にしていたんかーい。

 というわけで僕は姉と一緒にベッドインすることになった。記憶にある限り僕は女性とベッドインした経験は前世の子供時代にすらない。これは貴重な経験……だけど、今夜はもう眠すぎて幸せを噛みしめることができそうになかった。


「ふあーあ」

「あれ、ウィリーくん、もうすぐに眠っちゃいそうな顔をしてる」


「眠る前っていつも一緒に遊んでたの?」

「絵本を読んであげてたよ。あと、将来は子供が何人ほしいかを二人で相談したりしてた」


 8歳児と5歳児の姉弟の会話ってそれでいいのだろうか。


「絵本……」

「聞きたい? 読んであげるよ」


 フェリシーがベッドから出て本棚に向かった。薄くて大きな絵本を持って戻ってくる。幸せそうな家族が描かれている絵本だった。

 二人で並んで寝っころがりながら絵本を見る。


「むかしむかし、おとうさんとおかあさんが……」


 どこの世界でもそういう書き出しで物語は始まるんだな。

 絵本の内容は、女神様の加護を強く受けて生まれてきた少年が、やがてたくさんの妻をもらって平和で幸せがいっぱいの世界を作るというものだった。


 あー、そういえば、今回の人生では僕はモテたいんだったな。あと出世したいんだった。そんな前世のときの強い願望を思い出した。その願望を、叶えないとな……。

 なんて思いながら僕は途中で力尽きてしまった。


「ぐー……。すやあ……。すぴー……」

「ありゃ、寝ちゃった」


 フェリシーが絵本を閉じた気がした。


「うふふ、可愛い寝顔だ」


 フェリシーが絵本を本棚にしまった気がする。そして明かりが消えた。

 フェリシーがベッドに戻ってくる。


「おやすみ、未来の私の可愛いダーリン」


 フェリシーが僕のおでこにキスをした気がした。

 そしてそのまま僕は眠りの世界へと溶け込んでいった。ぐっすり眠りながら僕は思った。


 ああ、僕は家族から愛されているんだなって。

 父にも母にも姉にも大きな感謝を捧げたい。そして、愛してもらった分以上に、僕も家族を愛していこうって思った。




 う……。タコが……。タコが襲ってくる。

 長い足を僕に絡みつけてきて僕を動けなくして、口で僕のほっぺをチューチューしてくるぅ。


 ううう……。ううううう……。たこ焼きを食べたい……。アツアツのやつがいい……。ソースをたっぷりかけて……。

 でも、この世界にタコっているのだろうか……。




 チュンチュンチュン――。チュンチュチュチュン――。


「ハッ。もう朝か」

「チュウ~~~~~~~~~~~~~。チュウ~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

「う……、身体が動かない……。これは金縛りか……?」


 いや違った。

 なーんか温かいと思ったら、フェリシーが僕を抱き枕にして絡みついていただけだった。


 あまりにもしっかり抱きしめられすぎて、僕はまったく身体を動かせない状態だった。脚とか完全にフェリシーの脚と絡まってるよ。

 そして――。


「チュウ~~~~~~~~~~~~~。チュウ~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 さっきから何をチュウチュウしているのかと思ったら僕のほっぺだった。この姉は欲求不満なんだろうか。僕のほっぺがべしゃべしゃになってるんだけど。


 しかし、フェリシーの顔を見てみるとなんとも幸せそうだった。絶対に良い夢を見ていると思う。あ、寝言だ――。


「うへへへへー。ウィリーくんと結婚……、5児の母になれちゃったぁ……」


 わあ、子だくさんだなー。

 ふう……、あとどれくらいしたらフェリシーは起きるのだろうか。起きるまでは僕はずっと姉の抱き枕になり続けるしかなさそうだった。


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