第40話 盗賊騒ぎを終えて
「ウィリーくん、無事でよかったよぉー。お姉ちゃん、気が気じゃなかったよぉー」
家に帰った途端に大泣き状態のフェリシーに抱きしめられてしまった。
その上から覆い被さるように母も抱きしめてくれる。
「ウィリー、本当に無事で良かったわ。ごめんね、怖い思いをさせて」
「フェリシー、ママ、心配をかけてごめんなさい」
「ウィリーくんは謝らなくていいの」
「そうよ。今夜はママと一緒に寝ましょうね。ずっと離さないから」
なんか今夜は家族に全力で甘えまくっていいことになりそうだ。せっかくだし家族愛に思い切りつつまれようと思う。
「で、なんでアンジュは泣きながらずっと素振りをしてるの?」
「ううう~。だってぇ~。ボクはウィリーさまの騎士なのにぃ。盗賊が来てもぜんぜん何もできなかったからぁ。うええええっ、ふえええええええええええええんっ」
大泣きしながら素振りをしてる。しかもその素振りがかなり良い振りだった。
「ウィリーさま、明日からもっともっと剣のお稽古につきあってねぇ……。びえええええええええんっ」
「お、おう……」
明日からもっともっと疲れる毎日になりそうだなって思った。
それから数日後――。
僕と父は伯爵様に呼ばれて、ガロンの街の城へと向かって急いで旅立った――。
立派なお城の赤い絨毯を歩いて行って、僕はたくさんの人たちの前で伯爵様にたくさん褒めてもらえた。
周囲にいた貴族や騎士たちからは温かな拍手をいっぱいもらえた。
「ということで、ウィリアム・ストラトスよ。こたびのそなたの働きは誠に見事であったぞ。報酬は大いに弾んでおく。父に美味しい物でもおもちゃでもなんでも買ってもらいなさい」
伯爵様は白髪頭の優しそうなおじいさんだった。僕を見て孫を見るみたいに優しい笑顔をくれた。
「はいっ!」
僕は5歳児らしく元気に返事をした。伯爵様が嬉しそうにする。
「さて、それではウィリアムよ。最後にきみのお披露目をしよう。ここには我が地方を治める重鎮や実力者が勢揃いしている。自己紹介をして顔と名前を覚えてもらいなさい」
ついこのあいだ両親と一緒に良い服を買っておいて良かった。こういう機会がポンと来るから貴族って良い服を買っておかないとダメなんだね。
僕はくるりと後ろを振り返った。たくさんの大人たちが優しい表情で僕を注目してくれている。
普通の5歳児だったら照れちゃったり怖がっちゃったりしそうだ。でも、僕は普通の5歳児じゃないから大丈夫だ。
隣にいる父が僕のするべきことを優しく教えてくれる。
「さあ、ウィリー、みなさんの前で自己紹介をするんだ。僕はウィリアムですって」
「はいっ。みなさま、初めまして! 僕は剣神エルヴィス・ストラトスの息子、名前はウィリアム・ストラトスです! これからいっぱい大活躍しますので、みなさまどうぞよろしくお願いしますっ!」
みんなの笑顔がほころんだ。本当に心から温かい拍手を送ってもらえた。歓迎されているんだなってはっきりと分かって嬉しかった。
僕、自分の仕事がこんなに認められたのは前世から考えても初めてだよ。こんなにも心から嬉しくなれることだったんだね。
まあ、ヴァレリー卿だけは、ちょっと面白くなさそうな顔で拍手をしていたけどね。
さて、後日談を少々――。
今回の盗賊団との戦争を最後に、ストラトス領は数年の平和な時代を迎えることになった。
ヴァレリー卿のおかげで丈夫な小麦が育つようになったし、冬越えもそう苦労することはなくなった。だから父は少しゆっくりと領地経営を行えるようになったよ。
そしてソフィーが気を回してくれたのか、姉のフェリシーは貴族のお茶会にちょくちょくお呼ばれするようになった。いつも楽しそうにしながらおめかしをして出かけているね。ただフェリシーは、相変わらずソフィーを恋のライバルと認識しているようだ。そこだけは何年経っても変わらないかな。
最後にアンジュだけど、彼女は剣の虫になって来る日も来る日も稽古稽古稽古、寝るときも木刀を離さないらしい。僕は毎日付き合わされたから、本当に毎日へとへとだよ。
そんな平和な時代に入って、あっという間に3年が経過した――。僕、ウィリアム・ストラトスは8歳になっている。背が高くなったし、少しはたくましくなったんじゃないかな。
そんな8歳になった僕の新たな物語が、今、幕を開けようとしている――。
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読んでくれてありがとうございますー!
いかがでしたでしょうか、姿が見えなくなる系の主人公。きっとかくれんぼをしたら無敵ですよね。
ウィリアムは成長していき、これからも冒険がまだまだ続いていきますが、今回はこのへんまでにしようと思いますー。
それではーノシ




