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冴えない僕の転生ライフ ~スキル〈認識阻害〉で成り上がる!~  作者: 天坂つばさ


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第38話 とらわれのウィリー

 なにか知っている感じの匂いがする。これ、なんだっけ。

 う……、目が覚めた。だいぶ眠っていた気がする。僕はずいぶん硬いところで眠っていたんだな……。身体とか頭が痛い。


「よお、目が覚めたか」


 いっきに目が覚めた。冷たすぎる低い声が聞こえてきたからだ。すぐ近くに見るからに悪そうな男が座っていた。ひげ面で大柄な男だ。

 ああ、思い出した。僕はこの男に気絶させられたんだった。


「ここは……」

「どっかの小麦倉庫だ」


 なるほど。僕が嗅いだ匂いの正体は小麦だ。収穫を何回か手伝ったことがあるから匂いを覚えていたんだ。

 さて、どういう状況だろうか。僕は身体を起こして座った。


 この男はたぶん盗賊だろう。しかも、とびっきりに強い盗賊だ。ガロン伯爵様とヴァレリー卿の計2500人もの兵の包囲を突破してきたはずだし、逃亡先に待ち構えていた父たちと剣を交えても生き延びることができた男だ。僕なんかじゃあ、どうひっくり返ってもこの男には勝てないだろう。


「ねえ、僕は人質か何か?」

「察しがいいな。その通りだよ。人質でもとらないと俺は逃げ切れそうにねーんだわ」


「盗賊だよね。お仲間は?」

「さあな。さっき山の中ですげーやばい剣士がいてな、瞬きする間に十人単位で斬り殺されていったんだ。ありゃ化け物だ。もう俺の仲間は誰も生きてないかもな」


 男が寂しそうに言った。

 盗賊とはいえ仲間は仲間。死んでしまったとなれば思うところはあるのだろう。しかも、自分は仲間を見捨てて一人だけ逃げ延びてしまったんだから……。


「おじさんはこれからどこに逃げるつもりなの?」

「南だな」

「南……?」


「南って分かるか? 地図で言えば下の方だな」

「うん、それは分かるけど……。ここから南って蛮族……っていうか、違う種族の人たちの街とか集落があるんじゃなかったっけ……」


 これまで誰も手出しができなかったくらい屈強な種族だって聞いている。


「よく知ってるじゃねーか。そうだよ。その蛮族のところに行こうと思ってるんだ。そこで俺の昔の上司や同僚が仲間を集めてるって話があるからな」

「上司……?」

「たとえば、このストラトス領を前に治めていた領主とかだな」


 前に治めていた領主……。父からそのあたりの話をちょっと前に聞いていたっけ。悪いことをいっぱいして伯爵様に粛正されたとかなんとか。


「まだ生きてるんだ」

「追放されただけだからな」


 そんな悪い人が蛮族と手を組んで仲間を集めているのか。ろくでもない話だな。いや、とりあえずそれはいいや。今は自分の窮地をどうにかしないと。


「あのー、ちなみにだけど」

「どうした?」

「僕ってどのあたりまで人質になってればいいの?」

「……坊主には大事な話だな。……そうだな。蛮族の集落までかな」


 えーっ。気が遠くなる。数日間はこの男の一緒ってことじゃないか。とても付き合ってられないぞ。


「そんなイヤそうな顔をすんなよな。しばらくは旅の仲間だ。仲良くしようぜ」


 超イヤだ。どうせ逃避行をするのなら綺麗なお姉さんとがいい。

 僕は周囲を見た。どこもかしこも収穫した小麦だらけだ。出口までへの道は盗賊の男が塞いでいる。この男を倒さないとここから出るのはムリだろう。


「逃げようだなんて思わない方がいいぜ。いざとなったら俺はお前の足を切り落としてつれていくからな」


 冗談を言っている感じじゃなかった。目が怖すぎる。


「生きて家に帰りたいのなら、今は大人しくしてるこった」


 それが最善だと思う。スキル〈認識阻害〉を使って逃げるのも試してみたいけど、今の僕だと相手が悪すぎると思う。


 この盗賊の男は僕がスキルを使った瞬間にすぐに状況を把握して、剣を振ってくる気がする。僕がどういうルートを走って突破を図るか正確に推察したうえでだ。そして僕はあっさりと足を切られてしまう。

 今は動いたらダメだと思う。待つんだ。時を――。


「夜になったら馬と食料を奪って逃走する。体力を温存しておくんだな」


 タイムリミットは夜か。

 この男に連れられて逃走することになったら、たぶん逃げる隙はいくらでもあると思う。ただ、僕は5歳児だ。サバイバル能力はないに等しい。あまり遠くにまで連れていかれてしまうと、街に帰る途中で力つきて動けなくなってしまう思う。じゃあどうするか。他の手を考えるしかない。


 一番の手は誰かが助けに来てくれるってことだけど……。


 小麦倉庫に夕焼けが差し込んでいる。

 ん? 今、小麦倉庫に白い生き物が忍び込んだぞ。盗賊の男は僕を見ていたから、まったく気がついていない。

 これは僕が助かるチャンスが来たかもしれない。僕は心の中でにやけるのだった。


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