第30話 教会にて
夜は家族四人で仲良く眠り、朝になるとみんなで宿の朝食を頂いた。朝食はとても満足のできる味だった。
さて、今日は服を買いに行ったり教会に行ったりと、いろいろとやることがある。気合いを入れていかないとね。
まずはちょっとお高そうな服屋へと入って行った。このお店ではフォーマルな服がたくさん売られているようだ。
母的には本当はオーダーメイドで僕の服を作りたいらしい。でもうちは貧乏だから、なるべくお値頃なものを選ぶことにした。
「ウィリー、次はこれを着てみて。その次はこっちね」
次々に母から服を手渡される。既に10着ほど試着しているけど、まだしっくりきていないようだ。
何やら母の着せ替え欲求に火が点いてしまった気がする。あれやこれやと楽しそうに僕を着せ替えてはこれじゃないとか、こっちの方が似合っているわねとか興奮気味に言っている。
「ウィリーくん、次はこれねー」
「フェリシーまで……ってこれは女の子ものやないかーい」
普通に白い子供用のドレスを持ってこられてしまった。スカートが短くて可愛いやつだ。
「え、ダメなの?」
母まで赤いドレスを持って来ている。
まあいいからいいからとフェリシーがドレスを持って試着室に入ってくる。
「ちょ、フェリシー」
「うへへへへ……。前からこういうことをしてみたかったんだー」
「い、いやあああああああああああああっ!」
僕はフェリシーに無理矢理ドレスを着させられてしまった。
僕のドレス姿を見てフェリシーがニヤニヤと心の底から嬉しそうにしている。
「天使! まさしく天使よ! ここに降臨されたわ!」
「ちょ、ちょっとフェリシー。一人で楽しんじゃダメよ」
母がカーテンを少し開けて僕を見つめた。涙目の僕は母を上目遣いで見上げる。
「て、天使! まさしく天使だわ! ここに降臨されたわ!」
「もうー。ママまでそんなことを言う。うちにはとっくに天使が二人もいるのに」
「「あ、そういうのはいいから」」
いいんかーい。
「もう脱ぐね。どの服にするか早く決めてよ」
フェリシーがガーンとショックを受けたように口を大きく開けた。
「ああっ、まだもう少し夢を見させて」
「いーや」
「もうー、イヤイヤ期なんだからーっ」
着せ替え人形にされて僕はもう疲れたよ。うわ、ドレスを脱いだら母までがっかりしてしまった。なに、二人とも僕が女の子だった方が嬉しかったの。まあ自分で鏡を見ても我ながら女の子の顔だなぁとは思うけどさ……。
「はあ……、もう少し男っぽくならないとなぁ……」
「「ならなくていいから」」
母と姉の息はぴったりだった。
ランチに美味しい石窯焼きのピザをお腹いっぱいに食べた。そして僕らは元気いっぱいで教会へとやってきた。
とても立派で大きな建物だった。
中に入ってみると女神様や天使の像がいたるところにあったり、もの凄く大きな絵画が飾られていたり、あとはステンドグラスの細工が感動的だったりと、芸術性の観点から見ても素晴らしい建物だなって思った。
父がシスターに「大司祭様に女神様のお告げを聞いてもらいたい」という旨を伝えた。するとシスターが、丁寧に礼拝堂へと案内してくれた。
大司祭様は、礼拝堂の中で一番光りが入ってくる明るいところで祈りを捧げていた。
ずいぶん高齢な男性のようだ。でも、表情は若者みたいに活力に溢れていて、健康には何も不安がなさそうって感じに思えた。
シスターが大司祭様に声をかけてくれる。大司祭様が目を開けてシスターと会話をしてから僕らの方を向いた。
「これはこれはストラトス様、ようこそおいでくださいました」
「お世話になっております。今日は息子のスキルについて、女神様のお告げを頂きたいと思いまして」
父とこの大司祭様は顔なじみらしい。父は大きな戦いの仕事が入るとよくここに来て祈りを捧げていたのだそうだ。
「はあー、女神様は息子様にもスキルを与えてくださったのですか」
「はい。とても光栄なことです」
「スキルを持って生まれるのはとても幸運なこと。ストラトス家の未来は必ずや明るいものになるでしょう。大変素晴らしいことです。では、ちょうど時間が空いていますし、すぐに女神様のお告げを頂きましょうか」
「よろしくお願いします」
ということで大司祭様はすぐにお告げを聞くための祈りを捧げてくれた。
「私たちも祈りを捧げよう」
父の提案で家族みんなで祈りを捧げることになった。両親が一番前の席に座り、その後ろの席に僕とフェリシーが座った。そして両手を合わせて目を瞑り祈りを捧げる。
女神様、どうかストラトス家が末永く繁栄していけますように――。
熱心に祈りを捧げてみた。
そして目を開ける。うちの家族も大司祭様もまだまだ真剣に祈っていた。早過ぎたか。……ん?
ぴょこっと僕の隣に綺麗な何かが舞い降りた気がした。
横を向いてみると、なんとも可憐な美しい少女がいた。綺麗な瞳をパッチリ開いて嬉しそうにしている。
「わっ、女神様が天使を降臨させてくださった?」
「うふふふっ、違いますよ、ウィリアム様。わたくしです。ソフィーです。やはりわたくしたちは、女神様のお導きで強く強く結ばれているみたいですね」
「あっ、ああーっ! ソフィー、1日ぶりだね」
「はいっ。お会いできて幸せですっ」
「あっ、泥棒猫がいるぞっ」
違うでしょ、フェリシー。
ソフィーが僕のすぐ隣に着席した。僕と身体をぴったりと隙間無くくっつける感じだ。この距離感、まるでアツアツの夫婦みたいだ。
「ソ、ソフィーはお祈りに来ていたの?」
「はい。ヴァレリー家の繁栄と戦争の起きない世界を願って。女神様にお祈りを捧げていました」
「偉いなぁ」
「ウィリアム様は?」
「僕のスキルについて、女神様のお告げを頂こうと思ってここに来たんだ」
「まあ! スキルをお持ちなのですね」
「うん。ソフィーにはないの?」
「ありません。スキルは10万人に1人しか持っていないと言われていますから。持っていたらそれはもう本当に珍しいことですよ」
へえー。僕って凄かったんだ。しかも、姉弟でスキル持ちって、それはもう相当凄いことなんじゃないだろうか。僕は両親をとても尊敬した。だって、両親が凄いからこそ、スキル持ちの姉弟が生まれてきたんだと思うからね。
あっ、大司祭様が女神様に感謝を捧げている気がする。そして目を開いてゆっくりと僕らを振り返った。
「女神様からのお告げを頂けましたよ」




