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冴えない僕の転生ライフ ~スキル〈認識阻害〉で成り上がる!~  作者: 天坂つばさ


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第28話 ソフィーとフェリシー

 父が倒した盗賊たちは、なんと全員生きていたようだ。父はしっかりと急所を外して器用に斬っていたらしい。


 盗賊に仲間はいるのか、この馬車にヴァレリー家のお嬢さんが乗っていると知っていて襲ったのか、そのあたりを調べるために父は盗賊を殺さずにおいたのだそうだ。


 目的地であるガロンの街に着きしだい、盗賊たちを兵に引き渡して詳細なことを調べてもらうらしい。

 ということで、僕と母とフェリシーはヴァレリー家の馬車に乗せてもらうことになった。さすがに盗賊と一緒にうちの馬車には乗れないからね。


 フェリシーがうちの馬車から降りて、僕のところへと歩いてくる。あれ、なぜかムッとした顔になっていた。


「あーっ、ウィリーくん、浮気したでしょーっ」


 鋭いな。


「いいえ、心当たりがございません。僕は紳士を絵に描いたような誠実な男です。浮気だなんてあるわけがないじゃないですか。あはははは……」


「嘘おっしゃい。お姉ちゃんの目をしっかりと見て言って」

「はははは……。みなさんお待ちですので、速やかにあちらにあるヴァレリー家の馬車へと移動してほしいなーって」


「あーっ、話をそらしたーっ。ウィリーくんと結婚するのはお姉ちゃんなんだからねっ。そこのところちゃんと分かってるんだよねっ?」


 よその家の人の前でもフェリシーってこのノリなんだなぁ……。

 御者の男性がニコニコしながら僕らを見ている。


「はっはっはっ、ムリもありませんよ。ヴァレリー家のお嬢様は地元では天使だと呼ばれているほどで。紛れもない絶世の美少女なのですからね」


 あ~っ、絶世の美少女。なるほど、確かにその言葉がふさわしいって思えるくらいの美少女だった。

 だってソフィーのあの可愛らしい顔を思い出すだけで、僕の頬がにへら~っとゆるんでしまうくらいだからね。


「あああああーっ、私のウィリーくんが、お姉ちゃん以外の女の子にときめいちゃってるーっ。なんて屈辱的なのっ。その天使の顔を見てやろうじゃないの。どうせそこそこ可愛い程度なんでしょっ」


 フェリシーが大股でヴァレリー家の馬車へと移動する。そして馬車のドアを開けて、ムスッとした顔でソフィーの容姿を確認したようだ。


「ごきげんよう。うちの可愛い弟をたぶらかしたのは誰? ……っ、……っ、……っ。ま、マジかー……」


 あれ? なんかフェリシーがダッシュで僕のところに戻ってきたんだけど。


「ウィリーくん、ウィリーくん、お姉ちゃん、びっくりなんだけど。あの天使ちゃん、すっごい美少女だよ!」

「う、うん。知ってる」

「って、あああああっ、なにを言ってるんだ私は……。恋がたきで泥棒猫なのに……」


 フェリシーが苦悩しちゃってる。感情がコロコロ変わって大変そうだ。


「と、とにかくっ。ちょっと可愛いからってデレデレするのは禁止だからっ。メッだよ」

「善処します」

「善処じゃダメッ」


「前向きに検討させて頂きます」

「なんでそんな難しい言葉を知ってるの?」


「弊社に持ち帰って検討させて頂きますね」

「へ、兵舎……? ウィリーくん、意味が分からないことを言ってごまかそうとしているでしょ」


 ふっ、社会人時代に覚えたその場をしのぐためのどうでもいいセリフの数々さ。もう二度と使うことはないと思っていたけど、意外と異世界に転生してからも言うもんなんだな。


 フェリシーとわいわい話をしながら馬車へと乗りこんだ。もちろん母も一緒だ。

 ストラトス家とヴァレリー家で対面して座るかたちだ。御者の男性が馬を走らせてくれる。


 馬がカポカポ足音を鳴らすのを聞きながら進んで行く。

 移動を始めてからわりとすぐに、僕はヴァレリー家の馬車に感動してしまった。それはなぜかというと――。


「ねえ、フェリシー、この馬車、ぜんぜん揺れないんだけど。凄くない?」

「くっ、たしかにそうね。めちゃくちゃ良い馬車ってこんな感じなのね」


「これでお尻が痛くならなくてすむね」

「パパにもっと働いてもらって、良い馬車を買ってもわらないとね」


「えっ、これ以上働かせたらパパが過労死しちゃうよ」

「過労死……? 今日のウィリーくんは変な言葉をいっぱい使うわね」


 そういえばこの世界に来てから、まだ過労死って言葉は聞いたことがないな。そんな文化は存在しない世界なのかもしれない。素晴らしいことだ。

 あのー、と僕ら姉弟はソフィーに声をかけられた。


「ストラトス様は、どのようなご用件でガロンの街に向かわれるのですか?」

「そんなっ、声まで可愛いだなんてっ」


 たしかに。でも、恥ずかしいから大げさに反応しないでもらいたいな。


「僕らはガロンの街で服を買ったり、あとは教会に行ったりとか」

「それに家族で温泉にも行くんです」


 母が補足してくれた。母はフェリシーと違ってソフィーを可愛いがっている感じがする。ソフィーはお人形さんみたいな女の子だからね。大人受けはいいんだと思う。


「まあ、ご家族で温泉。とてもうらやましいです」


 でもどうせさー、男性と女性で別々に入るんだよねー……、なんて考えてテンションが下がる5歳児の僕であった。


「ねえ、ソフィーさんはガロンの街で何をするの?」

「ソフィーで構いません」

「じゃあ、ソフィー」


「ちょっと? 私のウィリーくんと距離を縮めないでくれるっ」

「あ、うちのお姉ちゃんは変わってるので気にしないでくださいね」


 ソフィーが困ったように微笑を浮かべる。


「……わたくしは父に呼ばれて伯爵様にご挨拶をしに行くんです。伯爵様にそろそろ顔を覚えてもらいなさいと言われまして」

「うわ、偉いなぁ」


「ちょうど伯爵様のお城でお子様女子会が開催されるらしく。そこにお呼ばれしたのも、わたくしがガロンの街を訪問する理由ですね」

「え、嘘。そのお子様女子会に私は呼ばれてないんだけど」


 フェリシーが母を見た。母はニコニコしていて何を考えているのか分からない。


「パパにそういう政治的な手腕を期待しても無駄よー。あの人は戦う一辺倒の人だからね」

「パパァーッ。そんなんで私、貴族社会を生きていけるのーっ」


 ソフィーがくすくすしている。


「では女子会で、お義姉様が参加したがっていたとお伝えしておきますね」

「ちょっ、お義姉様って呼ばないでっ。あなたとウィリーくんの結婚を許可した覚えはないわっ」


 フェリシーの反応が面白かったのか、ソフィーが「うふふふっ」と笑顔を見せてくれた。その天使みたいな笑顔は、フェリシーが100回挑戦しても1回も勝てなさそうな圧倒的に可憐なものだった。フェリシーがその可愛さにびっくり仰天して眩しそうにしている。


「ああああああああっ。可愛いっ。可愛すぎるわっ。まさかこの世に自分よりも可愛い女の子がいただなんてーっ」


 あの狭い領地で生きていたら自分が一番可愛いって思ってしまうよね……。


「ソ、ソフィー、これで勝ったと思わないでよねっ。大人になる頃には私が絶対に大逆転してみせるからねっ」

「お義姉様は今でもとても素敵な女性だと思いますけど……」

「キーッ、その気遣いが心にぶっささるわーっ」


 フェリシーが頭を抱えてイライラを隠せないでいる。僕はソフィーが傷ついていないか、ちょっと心配になってしまった。


「ソフィー、あんまり気にしなくていいからね。うちのお姉ちゃんは本当にちょっと変わってるから」

「うふふふふっ。素敵なお義姉さんだと思いますよ」


 ソフィーはまたも天使のようなスマイルを炸裂させ、僕ら姉弟をときめかせるのだった。


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