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冴えない僕の転生ライフ ~スキル〈認識阻害〉で成り上がる!~  作者: 天坂つばさ


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第19話 領地がちょっとだけ増えた

 大騒ぎだった夜が明けた。

 悪いおじさんたちが逃げ出すようなことはなく、無事に情報を吐き出させるための専門家へと引き渡すことができた。


 グリフォンに壊されてしまった僕の家についてだけど、領民の皆さんがもの凄く心配をしてくれた。それでストラトス家の皆様にはいつもお世話になっていますからってことで、優先的に修復工事を始めてくれたんだよね。しかも、けっこうな友情価格で対応してくれるんだって。


 僕は領民の皆さんにもの凄く感謝をした。

 それに、父と母をとても尊敬したよ。常日頃から領民の皆さんのためにといろいろと頑張っていたからね。その頑張りが領民の皆さんに伝わっていたんだと思う。もしも父と母が領民の皆さんに慕われていなかったら、工事を後回しにされたり高額をふっかけられたりしてもおかしくはなかったと思うからね。


 僕も父と母を見習って、今のうちからちゃんとしておこうと思う。工事の人たちの前で両手を揃えて丁寧に「おうちを直してくれてありがとうございますっ」と元気にお礼を言っておいた。皆さん、明るい笑顔を見せてくれたから、きっと僕の感謝の気持ちは伝わったんじゃないかな。


 ということで、敵襲騒ぎの後始末がいったん片付いたわけだけど……。


「ふあーあ……、最高にヒマだ……」


 大きなあくびが出てしまった。今日、何をして過ごそうかな。昨晩あんなことがあったわけだし、母から家を出ちゃダメよって言われているんだよね。


 じゃあ家で遊べばいいんだけど、この世界には家の中で楽しめる娯楽は全然ないみたいなんだよね。おかげでとても退屈な時間を過ごすはめになってしまった。


 おやつの時間になってアルフレッドさんがどこかから帰ってきた。椅子に座っていた僕の母の前にひざまずいて、何やら報告をするみたいだ。


「セリーヌ様、あいつらあっさり情報を吐きましたよ」


 おっと、これは僕も気になる話題だ。アンジュと積み木を組み立てながら聞き耳を立てる。


「あいつら、西の街の傭兵だったそうです」

「西の……? ということは雇い主は」

「雇い主はヴァレリー領の領主で間違いない、と言っていました」


 母は表情を曇らせた。


「まあ……、それは残念なことね……。戦争になってしまうのかしら」

「いえ、それはまだ分かりません」


「というと……?」

「ストラトス家の者を殺せとは命令されていないんだそうです。脅かしてやれと言われただけなのだそうで」


「え……。あれで……? 脅しだけだったの……?」

「はい。それにも関わらず彼らが過激な襲撃を選択したのは、金まわりが悪くなっていた傭兵団がインパクトのある成果を出したかったから、とのことでした」


 なるほど。傭兵団の宣伝活動のいっかんで、うちを魔法で爆破したりしたわけか。


「……つまりまとめると、ヴァレリー卿はうちにイヤがらせをしたかっただけ、ということかしら?」

「はい。広大な領地を持つ領主のわりに、ずいぶん小さいことをするもんだなとは思いますが。本当に間違いないようです」


「本当にただのイヤがらせ……。でも、こちらはモンスターに襲われているのだし、子供たちだって怖い思いをしたわ。決して笑って流すことはできないわね」


 母が強気な戦う女って感じの表情を見せた。温和な人だからそんな表情をするのは意外だけど、かなりかっこよかった。


「今回の件、この地方をとりまとめる伯爵様に判断を仰ぎましょう。伯爵領にいる夫に、すぐに手紙を書きます。どなたかに届けてもらえるよう、手配してもらえるかしら」

「はっ、かしこまりました。良い馬を持っている騎士がいます。すぐに手配しましょう」


 伯爵家はこの地方全ての領地を取りまとめる役を担っているのだそうだ。その支配下の領地でいさかいがあれば、まずは支配者である伯爵様に報告をするのが筋ってものらしい。


 ということで母はすぐに父に宛てた手紙を書いた。アルフレッドさんがその手紙を良い馬を持っている騎士へと届けに行く。

 騎士はすぐに出発してくれたらしくて、夜通し走ってくれれば明日の午前中には伯爵領に入れるのだそうだ。


 それから数日が経過した――。

 特に何事もなく普通の毎日が戻ってきている。家の工事は順調で、もうほとんど元通りといった感じだ。


 そんなある日、夕方頃に馬に乗った父が大急ぎで帰ってきた。

 僕らは夕ご飯をもうすぐ食べ始めようかという時間で、みんなで同じ部屋に集まって過ごしていた。


「ただいま。みんな無事かい!」


 父は家族みんなとフレーズ家の面々を見て心底安心したようだった。少々やつれているように見えるのは、僕らのことが気がかりでしょうがなかったからだろう。


「うわあっ」


 父の熱烈なハグに選ばれたのは僕だった。男性からこんなにも熱いハグをしてもらえるとは思わなかったな。ちょっと日本とは文化が違うのかもしれない。日本にいたときは一回もこういうのはなかったし。


「ああ……無事で良かった。ウィリーもフェリシーもセリーヌも。アルフレッド、レノア、アンジュちゃん、本当にありがとう。心から感謝するよ」


「俺たちは当たり前のことをしただけですよ。エルヴィス様、ぼっちゃんとお嬢ちゃんのことも褒めてあげてくださいよ。大活躍でしたよ」

「そうかそうか。ウィリー、よくやったぞ。ママたちを守ったんだな」


 僕は髪の毛がぐしゃぐしゃになるくらいに撫でられてしまった。そして父は次にフェリシーをいいこいいこしにいく。


「あああああっ、髪がっ、ぐしゃぐしゃにっ」

「セリーヌ、最後になってすまない」

「私は、私は撫でなくていいですからっ」

「そうかい? ははははっ」


 ということでアツアツのハグをしていた。それはそれで恥ずかしそうな母だった。


 父が落ち着いてから、みんなでテーブルについた。そしてみんなで夕ご飯を食べ始める。

 食べながら大事な話を切り出してくれたのはアルフレッドさんだった。


「それでエルヴィス様、伯爵様は今回の件にどんな裁定を下されたんですか?」


 父がナイフとフォークを置いた。


「順を追って話そうか」


 みんな食事の手を止めて父の話に耳を傾けた。


「私がセリーヌの手紙を受け取ったときに、ちょうど伯爵様も目の前にいらしたんだ。それで一緒に手紙を読んだんだけど、伯爵様はこれはとても見過ごせない事態だと憤慨されたんだ。そしてすぐに、伯爵様への定期報告のために城に来ていたヴァレリー卿に事実確認をしてくれたんだ」


「ヴァレリー卿もいたんですか。でも、しらばっくれるんじゃないですか?」

「いや、逆に開き直られたよ」

「マジっすか。良い根性をしているやつですね」


「ああ、彼は私のことを見ながら、お前が伯爵様のお気に入りになっているのが腹立たしいのだ、と言っていたね。彼は私が伯爵様から領地をもらう以前からずっと、このストラトス領の土地が欲しい欲しいと常々進言していたんだそうだ。それなのに若造のストラトスにあっさりと土地を与えたものだから、ついイラついてしまったのだと」

「それで腹いせっすか。たまんないっすね……」


「人生、何もかも上手くいくと思うなよ、って私に警告をしたかったらしいね。ただ、彼としては剣神エルヴィス・ストラトスが在宅のときに脅しをかけてやれって傭兵たちに命令したはずだったそうだよ。高い金を払ったのに裏切られたってボヤいていたね……」

「つまり、傭兵どもが剣神の名にビビッて留守を狙ったってことですか」


「ああ、戦うのが本職の傭兵なのに、なんとも情けないことだけどね」

「で、肝心の伯爵様の裁定は」


 父が良い笑顔を見せた。


「うちの領地が少し増えたよ」

「え、それはめでたいじゃないですか!」


「まあ増えたと言っても、ヴァレリー領とうちの間にある小さな村が一つ分だけだけどね」

「ああ、あの村かー……。って、あそこは少し高地にあるからブドウが採れるじゃないですか。酒が今までよりも安く飲めるようになるんじゃないですか?」

「その通り! これは素晴らしいことだよ」


 ただ、土が悪いせいか、ぶどうの粒は小さいし味もイマイチってことで荒稼ぎできるようなものではないらしい。それでも大人たちは喜んでいたけどね。ブドウ畑を大きくしていこうと夢を語ったりもしていた。

 うちは貧乏だから、お金になりそうなものがあればなんでも嬉しいのだそうだ。


「ああそれと、別件だけどね。伯爵様から領内のモンスター討伐の仕事を頂けたよ。ここからずっと北東の方にある山に、モンスターが千匹ほど大量発生しているのが分かったらしい。うちの領内に出たオオカミのモンスターはそこからやってきた1匹だったみたいだね」


「おおっ、ということはこれで、ストラトス領は冬を越せそうですね」

「ああ、討伐ができたら報酬を弾んでくれるのだそうだ。食料に薪に飼料に……それに移住をしてきた人たちの衣食住もどうにかしてあげないといけないし。いろいろと買わないといけないものは多いけど、これで今年の冬もどうにかなるんじゃないだろうか」

「そいつはめでたいですね。じゃあ、前祝いってことで、とっておきの酒を持ってきますよ」


 アルフレッドさんが嬉しそうに棚の高いところにある瓶を持って来た。

 大人たちはそのお酒を美味しい美味しいと飲んでいた。子供たちにはジュースを出してくれた。


 みんなで賑やかに夕ご飯の続きを進めていく。なんだか楽しかった。ひさしぶりの気持ちって感じだった。

 父が戻ってくるとみんなが明るくなるんだな。なんだか父の存在が誇らしいなって僕は思った。


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