第17話 敵襲
アルフレッドさんが上半身を急いで起き上がらせた気配がした。素早い動きでたぶん槍と盾を手にしたと思う。
僕は身体を少し起き上がらせただけで、それ以上は身体が動かなかった。
僕は治安の良い日本で生きてきた身だ。敵襲だなんて言葉を聞いてベッドから起き上がった経験なんてないし、そういうときにどう動くのかを考えておくクセがついていなかった。決してパニックになったわけではないけれど、次にどう動けばいいのか分からずに身体が完全に固まってしまった。
「ウィリー様っ、かけ布団をかぶってジッとしていてくださいね――」
そう言い切るか言い切らないかのタイミングで、家の外で魔法が発動したのを感じた。そして一瞬ののちに、アルフレッドさんの正面の窓で大爆発が起こった。
アルフレッドさんが大きな声で叫ぶ。
「うおおおおおおおおおおおっ! やっべーっ!」
やっべーっと言いながらも盾を構えてしっかりガードしてくれた。窓ガラスの破片がたくさん飛び散ったけど、僕に当たるようなことはなかった。
ただ、窓は全壊したし、周囲の壁もかなり破壊されてしまった。
「今のは爆発魔法ですか?」
「たぶん【エクスプロージョン】ですね。撃ったのは……あいつか」
外は月明かりがあるから多少は見える。
窓の向こう側にいるのは鷲の顔をしたライオンのような身体の生き物、いや、モンスターだった。大きな翼をはばたかせて空を飛んでいる。
「あれは……、たしかグリフォン」
「ウィリー様、博識ですね。かなりやばいモンスターですよ」
「このあたりに棲息していたモンスターなんですか?」
「いえ、飼い慣らされたのを誰かがレンタルしたんでしょう。傭兵がたまにやるんですよ」
「倒せます?」
「もちろんです。任せてくださいっ」
「あ、女性たちがまずいですね」
「いえ、レノアの心配はいらないですよ。あいつはグリフォンくらいなら瞬殺しますから」
言った傍からグリフォンの悲鳴が聞こえてきた。
ほらね、とアルフレッドさんが言う。
「んー……」
ガバッとアンジュが起き上がった。
「かなり強いモンスター。たぶん13匹」
僕はかなり驚愕した。
「ア、アンジュが13まで数をかぞえてるっ」
「そこ、驚くところなの?」
「うん、まあ。ていうか気配で敵の数が分かるの?」
「余裕」
「すごっ」
アンジュがベッドから下りる。
「ボクは騎士の家の子だから、ウィリーさまを守らないと」
グリフォンが雄叫びをあげて迫ってくる。刃物のように鋭い爪を剥き出しにして、僕の部屋へと飛び込んできた。
「甘いっ!」
アルフレッドさんがしっかりと盾で守ってくれた。
「お返しだぜ!」
盾でしっかりと守備をしつつ、槍でグリフォンの足を攻撃をしていた。
「ギャアアアアアアアアアアアッ!」
アンジュが剣、剣、剣と言いながら部屋の中をきょろきょろする。
アンジュに大人しくしていようねって言って僕は手を握ったけど、アンジュはきょろきょろするのをやめなかった。
うわっ、部屋のドアの向こう側で大爆発が起きたぞっ。その爆風を受けてドアが吹っ飛んできたーっ。しかもドアのあったところから、グリフォンが1匹部屋に入ってこようとしているーっ。
なんと。窓側とドア側からの挟み撃ちになってしまった。
アルフレッドさんは窓側のグリフォンを攻撃しているけれど、まだ倒せてはいない。これはかなりマズイかも。
「アンジュ、ジッとしていてね」
僕は立ち上がった。ドアから迫ってくるグリフォンは僕が撃退しよう。ベッドから下りてしっかりと立つ。
「ギャース!」
威嚇しながらグリフォンが部屋へと入ってきた。
こわっ。大きくて獰猛な生き物に殺意を向けられるのは恐怖しかない。でも、怖いからってひるんでいたら死んでしまう。行動をしないとダメだ。
グリフォンが迫ってくる。僕を獲物だと思っているようだ。このままだと大きなクチバシにパクリとやられてしまうだろう。
「ウィリー様っ!」
心配するアルフレッドさんの声を聞きながら、僕はスキルをオンにした。透明人間モードだ。これで相手から僕の姿は見えないはずだ。
僕はサッと横に避けた。グリフォンは僕を完全に見失っていると思う。
僕がいた場所に大きな盾が来た。アルフレッドさんが窓側のグリフォンを素早く撃退して僕を守りに来てくれたようだ。
ドアから部屋に入ってきた方のグリフォンのクチバシが、アルフレッドさんの盾に当たる。
スキルで逃げなくても盾が間に合うタイミングだったね。余計なことをしたかもしれないな。
「【マジカルブリザード】!」
僕は威力を抑えた魔法を使った。まあ威力を抑えたといっても僕は天才だからね。かなり強い魔法になったよ。
あっという間にグリフォンの下半身を氷漬けにすることができた。
「あれ? ウィリー様がいない? しかも、凄い魔法だ。いったいどこから? あっ、これが話に聞いていたウィリー様のスキルと魔法ってことか! どっちもすっげー力ですねっ!」
剣を抜く音が聞こえてくる。
「剣、あった」
アンジュがアルフレッドさんの剣を抜いていた。
「ウィリーさまはボクが守るよ」
「こら、アンジュ。子供はまだ戦っちゃダメだろ」
「剣さえあれば、大丈夫」
「大丈夫じゃありません」
氷漬けのグリフォンをアルフレッドさんが槍でグサッと倒した。アンジュはちょっと不満そうだった。
「む~……。ボクもウィリーさまを守りたかったのにな。あっ、パパ、次のグリフォンが来るよ」
「分かってるよ。アンジュは下がってなさい」
アルフレッドさんが盾でグリフォンを止める。そして、力強く槍で刺してグリフォンを倒していた。
アンジュがぎこちない動きで剣を鞘に収める。
「敵をぜんぶ倒せたみたい。ママが十匹くらい倒したみたいだね」
「ったく、アンジュは明日お説教だな」
僕はスキルをオフにした。二人の前に現われる。
「アルフレッドさん、アンジュ、僕を守ってくれてありがとうございます。二人ともとても頼りになる騎士でしたよ」
「もったいないお言葉です。でも、アンジュはまだ褒めないでください。すぐに調子に乗ってしまう子ですから」
「えへへー、ボク、ウィリーさまに褒めてもらえちゃった」
本当にアンジュは調子に乗っていそうだった。




