第15話 アンジュとお風呂
アンジュとアルフレッドさんと一緒にめいっぱい遊んだ。
お腹を空かせてなんとなくキッチンに来てみると、母が夕ご飯の支度をしているところだった。
包丁で野菜を切っている母の隣へとアルフレッドさんが向かう。
「セリーヌ様。俺、手伝いますよ」
「あら、ありがとう。でも大丈夫よ。もし時間があるならウィリーをお風呂に入れてくれるかしら?」
「では、その役目はこの私が担いましょう」
キッチンの椅子に座っていたレノアさんがいかにも仕事ができるふうな態度で椅子から立ち上がった。レノアさんはアルフレッドさんの奥さんで金髪の美女だね。
……って、あれ? レノアさんは料理の手伝いをしないのだろうか。
「アルはしっかり料理の手伝いをしてね」
「ああ、分かった。でも、なんでそんなに偉そうなんだよ」
「こ、子供をお風呂に入れるのだって、立派なお仕事なんだからねっ」
ツンデレみたいなことを言う人だった。
んー、つまりまとめるとこういうことかな。僕はレノアさんを無邪気な瞳になって見上げた。
「あれれー? もしかしてレノアさんってお料理が苦手なのー?」
ズガーン、とレノアさんに落雷級の衝撃が走ったような気がする。
「べべべべべっ、別にそんなことはないですよよよよよ?」
そう言うレノアさんの瞳は僕を向いてはいなかった。あさっての方向を向いている。
「……あやしい」
「わ、私はまだ本当の力を隠しているだけですからねっ。おほほほほほほほっ」
アンジュが僕の肩に優しく手を置いた。そして僕に優しく語りかける。
「うちはね、ご飯を作るのはパパが担当なの。……あとは上手くさっして」
5歳児の僕に空気を読むことを求めるのか。まあアンジュも5歳児だけどさ。
「な、なるほど」
少しだけ考える。レノアさんって見た目は料理が凄くできそうなのに、実際はそうでもないんだな。
「でも、そういう家庭って僕はありだと思うな」
料理ができる男性はかっこいいし。僕は料理ができる人に憧れるよ。
「ウィリー様……。私、一生、お仕え致します」
レノアさんの忠誠心がもの凄くアップした感じがするぞ。気を使って良かった。
アンジュが親指をグッと立ち上げた。何を言うのかと思ったら――。
「ぐっじょぶ!」
良い仕事をしたねって褒めてもらえたよ。
さて……。別に僕がお願いをしたわけではないし、よこしまな願望を心に抱いていたわけでもないんだけどね。
僕はアンジュとレノアさんと一緒にお風呂に入ることになってしまった。
ああっ、意識した瞬間に僕の身体が火照って心臓がドキドキし始めてしまったよ。
お、落ち着け。落ち着くんだウィリアム・ストラトスよ。5歳児の男子がお友達の母親の裸体にドキドキするのはどう考えてもおかしいぞ。
「ウィリー様、手を万歳してください」
ばんざーい。ばんざーい。服を脱がしてもらえたぞーっ。ばんざーい。ためらいなく下までも脱がしてもらえたぞ。ばんざーい。
アンジュは「ボクは自分で脱げるよ」と自慢気にパパパッと脱いでしまった。
これはいちおう同い年の女子の裸体になるのか。でもまあ、ただの子供って感じだね。ねえ、アンジュ、できれば10年後も20年後も僕と一緒にお風呂に入ってほしいな。なーんて心の中でお願いをしておく僕だった。母親のレノアさんが美人だし、アンジュはきっと将来は綺麗になるだろうからね。
レノアさんが服を脱ぎ始める。うおっ、僕は目を離せそうにないな。
レノアさんはうちの父の同級生だから25歳かな。25歳美人若妻のおっぱい……。おっぱい……。おっぱい……。おっぱい……。ああっ、ダメだ。頭の中がおっぱいのことしか考えられなくなってしまっている。
レノアさんが上の服を脱いでしまった。柔らかそうで形が良くて大きな乳房が外気に晒される。
う、うおおおおおっ、吸いつきたいっ。超吸いつきたいですっ。サイズ的にはうちの母の方が大きいけれど、これはこれで最高です。アルフレッドさん、うらやましいですっ。あと僕なんかがおっぱいを見てしまって本当にごめんなさい。
レノアさんがひょいひょいっと下の服も脱いでしまった。
うひゃあああああっ。そっちも見せて頂けるんですかっ。ていうかうちの母のときも思ったけど、子供を生んだとは思えないスタイルの良さだった。
レノアさんは騎士なだけあって身体全体は引き締まっているけれど、でもけっして筋肉質な感じではなかった。柔らかそうなところはしっかり柔らかそうだし、ウエストはくびれているしで本当にもう最高。
「さあ、お風呂に入りましょう」
お風呂にみんなで入って行く。そして、レノアさんはアンジュと僕を並べた。
手を石鹸で泡立てて僕らを交互に丁寧に洗ってくれる。
「うふふっ、うふふっ」
僕はニコニコしながらくねくねしてしまった。25歳美人若妻の手は僕には刺激が強すぎるみたいだった。
「ウィリー様はくすぐったいのに弱いんですね」
「えへへっ。えへへへっ」
「ウィリーさま、嬉しそう。ボクは大丈夫だよー」
ほお? それならアンジュの全身をこそぐりまくってあげようかな。なんて考えてしまったけどやらない。僕は紳士だからね。
って、ああああああっ、お、奥さん、いけませんっ。紳士すぎる僕の一番紳士的な部位をそんな両手で丁寧に丁寧に、しかも大事そうに洗ってくれるだなんて。そ、そんなっ、裏側まで丁寧に洗ってくれるんですかっ。
アンジュがその様子をジーッと興味深そうに見つめている。
「男の子の身体ってなんか変……」
「え、超ショック」
「なんか気持ち悪い」
「本当にショックすぎる発言なんだけど……」
僕らの会話の何かが面白かったのか、レノアさんがあははははって噴き出していた。裸状態の綺麗な女性に笑われてしまうと男としてのプライドが折れてしまいそうだよ……。
ふう、体を綺麗に洗い終えたようだ。お湯を優しくかけてくれて石鹸を流してくれた。
「それじゃあ、ウィリーさま」
「ん? どうしたの? アンジュ」
「次はボクたちがママの身体を綺麗にしてあげる番だね」
「……は?」
「石鹸を手で泡立てて、ママの身体を丁寧に優しくすみずみまで洗ってあげるんだよ」
「……ええっ」
そ、それはさすがにどうだろうか。いくら子供の僕とはいえ、お友達の綺麗な母親の柔肌に手で直接さわってしまうのは――。
ああっ、ダメだ。ドキドキしてきた。興奮が止まらないー。うわー、これは抑え切れそうにないな。
つまりまあ、鼻血が出てきてしまったわけだ。
「うげー、鼻血が出たー」
「あら、鼻血ですか? なんでかしら」
「だ、大丈夫です。僕、最近、お風呂に入るとよく鼻血が出てきてしまって」
「上を向いてください。しばらくすると止まると思いますから」
「はーい」
「いいなぁ、鼻血」
アンジュが興味深そうだ。
「どうやったら出せるの?」
うーん、どう答えたものか。綺麗な女性の裸体に興奮しすぎたら……、なんて言えないし。そういうので鼻血を出すのは日本人男性くらいものだし、理解してもらえないよね。
まあ適当にごまかしておいた。
鼻血はわりとすぐに止まってくれて、僕はアンジュとお湯をかけあって遊びながらお風呂を楽しむことができた。
幸せだなって思った。こんな幸せがずーっと続いていくといいなって心から願うよ。
あと、楽しかったから、いつかまた一緒にお風呂に入れる機会が訪れたらいいなって思う僕だった。




