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第13話 ベタベタしすぎじゃない?

 オオカミに追われていた少女、アンジュを助けてから数日が経過した。あれからアンジュは毎日のように僕に会いに来てくれるようになったよ。


 本当はアンジュって一人遊びが好きな子だったんだけどね……。一人で山に遊びに行って虫取りをしていた結果が、あの日のオオカミとの追いかけっこだったらしい。さすがに危なすぎるよねってことで、ご両親から一人遊びの禁止令が出たんだそうだ。それでこれからは僕と一緒に遊ぶことにしたんだって。


 そんなアンジュが今日も僕と遊ぶためにうちに来てくれた。あれ、手に何か持ってるね。


「ねえ、ウィリーさま、これあげる」

「え、ありがとう。ってかぶとむしだーっ! すっげー! 超かっけーっ!」


 童心に返って喜んでしまった。5歳児なんだから童心なのは当たり前だけど、そんなのはどうでもいい。とにかく超かっけーんだ。

 アンジュからかぶとむしを受け取る。ツノがめちゃくちゃ長くて強そうでかっこいいぞ。


「これ、どこで見つけたの?」

「すぐ近くの木だよ」

「へえー。すっげー!」

「えへへ」


 アンジュは嬉しそうにドヤ顔を見せた。とても可愛いと思った。


「アンジュは虫取りが好きなんだっけ?」

「うん。あと、積み木とか剣のお稽古とか冒険とかも好きだよ。パパとママに禁止にされちゃったけど……」


「まあ子供の一人遊びは危ないもんね」

「うん。身に染みて分かった」


「僕ら同い年みたいだし、これからは一緒に遊ぼうよ」

「うん。とりあえず、かぶとむしをもう一匹見つけて、二匹で戦わせてみたい」

「いいね、それ」


 というわけで一階に下りて母のところへと向かった。今はフェリシーの勉強を見ているようだ。二人で真面目な顔になって頑張っている。


「ママー」

「あら、どうしたの?」


「アンジュと虫取りに行きたいんだけど」

「ええっ。む、虫……?」


 あからさまにイヤそうに青ざめられてしまった。まあ母は貴族のお嬢様育ちだからね。どう見ても上品な人だしムリもないか。


「ど、どうしましょう……。そうだ。フェリシー、ついていってあげてくれる?」

「ママ、あのね、私も貴族のレディだから、虫遊びはちょっとどうかと思うのよ」


「まあいいじゃない。今日のお勉強はここまででいいから」

「えーっ」


「今度新しい服を買ってあげるから」

「よーし、張り切って行ってくるわ」


 簡単に物につられてしまう貴族のレディだった。まあまだ8歳児だからね。

 フェリシーが立ち上がって僕たちの方へとやってくる。


「ねえ、ところであなたたち?」

「「はい?」」

「ちょっとベタベタしすぎじゃない?」


 ベタベタしすぎなんだろうか。まあアンジュは僕の腕に抱きつくように密着しているけれども。5歳児の距離感ってこんなものじゃないかな。


「僕ら仲が良いからね。このくらいは普通だよ」

 って返したらフェリシーがジェラシー大爆発みたいな表情になってしまった。

「ほお……?」


 ピリ……ピリ……ピリ……。フェリシーの怒気が空気を揺らしている気がする。

 アンジュがますます僕にギュッとしてきた。


「ボクはウィリーさまのことが大好きだよ?」

「へえ……?」


 ピクピクピク……。フェリシーは頑張って笑顔を作っているけれど、眉がつり上がってピクピクしていた。


「お姉ちゃん二人に聞きたいんだけどね。二人はどこまで進展しているの?」

「ボクがね、ウィリーさまにキスをしたところまで進展したよ?」

「ピギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!」


 怒ったんだろうか。すごい発狂したような声がフェリシーから発せられた。おおおおっ、凄いぞ。フェリシーの長い髪がゆらゆらしながら逆立っていく。


「アーンージュー? ウィリーくんのお嫁さんになるのは誰だかちゃんと分かっているのかしらぁ?」

「ご近所には同世代の女の子はあんまりいないし、ボクがお嫁さんになれるって思ってるよ」


 フェリシーが両腕をクロスさせた。


「絶対にダメーッ! ウィリーくんのお嫁さんになるのはお姉ちゃんであるこの私なの。だから交際禁止! キスも禁止!」

「フェリシーお姉ちゃん、姉弟で結婚はムリなんだよ?」


 そんなことも知らないの? って感じでアンジュが無垢な感じに首を傾げた。


「そ、そんな法律はないわ!」

「常識的に考えるべきだと思うよ」


「ごっ、5歳児が常識を語るだなんてっ。ねえ、アンジュ、あなたは私のライバルになるってこと?」

「ライバルっていうか。将来、妹になるだけだよ」


「よーし、良い度胸ね。それじゃあ、これから私と勝負をしなさいっ」

「勝負? あ、どっちが大きいかぶとむしを見つけて、ウィリーさまのハートをつかめるかの勝負をする?」

「そうよ! じゃなかった。違うわ!」


 違うんかーい。


「えー、違うのー? じゃあ、剣で戦う?」

「そんなのレディのする戦いじゃないわ。クッキー勝負にしましょう。どっちが美味しいクッキーを焼けるかで、ウィリーくんをどっちがもらえるのか勝負をするのよ」


「えー。でも子供だけで火を使っちゃダメなんだよ?」

「ママがいるから大丈夫よ」


 ニコニコしながら成り行き見守っていた母が、いきなり巻き込まれたことにちょっとびっくりしている。


「いいよね、ママ!」

「え、いいけど……。お昼寝したかったなぁ……」


 しぶしぶだけど了承する母だった。

 こうして僕を奪い合うフェリシーVSアンジュの戦いが始まったのだった。お願い、僕のために争うのはやめて。って言いたいけど、恥ずかしいから言えない僕であった。




 楽しいクッキー作りが始まり、僕は一人でかぶとむしと遊んで過ごした。

 やがて良い香りがしてきた。どうやらクッキーが焼けたようだね。


 見てみれば、様々なかたちのクッキーがお皿に載せられていた。

 可愛いウサギとか犬とか猫とかのクッキーがフェリシー作で、丸とか星とかハートがアンジュ作のクッキーのようだ。


「さあ、ウィリーくん、食べてみて!」


 もう勝ったって分かりきっているんだろう。フェリシーが余裕ありげなドヤ顔でクッキーの載せられたお皿を差し出してきた。

 しかし、アンジュの方が素早く動いてフェリシーの前に出てくる。


「ウィリーさま、ふつつかものですがよろしくお願いします。はい、あーん」


 アンジュがクッキーを僕の口に運んでくれたから、あーんして食べた。フェリシーがしてやられたわとショックを受けている。


「アンジュ、すっごく美味しいよ」

「やったー!」

「くぅぅぅぅぅ……、じゃ、じゃあお姉ちゃんは、これでウィリーくんに食べさせてあげるわ。ん~~~~~~……」


 フェリシーがクッキーの端っこをくわえている。そしてそのまま僕の口に迫ってきた。

 口で直接渡す……だとっ……。何て高度なプレイを知っている8歳児なんだろうか。うっかりするとそのまま口づけをしてしまいそうじゃないか。


 どうにか上手いことクッキーだけをもらわないと。僕はフェリシーの口に自分の口を近づけた。そして口を開ける。年齢にそぐわない女の顔をしてフェリシーが迫ってくる。フェリシーが目を閉じた。


「フェリシー、普通に食べさせてあげなさい」


 母がフェリシーのクッキーを横から奪いあげてしまった。


「ああああああああああああっ。一世一代の大勝負だったのにーっ」

「そんな大げさな。はい、ウィリー、フェリシーのクッキーよ」


 あーんして母から受け取って食べた。


「うん、美味しいよ。どっちのクッキーも美味しいから引き分けだね」


 フェリシーとアンジュが腕をクロスさせた。不満ありありって感じだ。


「「それはダメ!」」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……」


 うまくまとめたと思ったんだけどな。僕を奪い合う二人の戦いはそれからかなり白熱するのであった。


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