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第12話 オオカミ討伐

 僕は少女を背中側に隠した。

 僕のスキルをこの少女にもかけてあげられればいいんだけど……。あいにくそういうスキルの使い方は思いつきもしなかったから試したことがないんだよね。


 ぶっつけ本番でやってみるのはあまりにもリスクが高い。失敗したら二人ともオオカミに食べられてしまうからね。

 少女が息を切らしながら僕のとなりに並んだ。そして、オオカミを見る。


「はあっ、はあっ、はあっ、ど、どうするの、ウィリーさま。パンチとキックで戦うの?」

「いやー、子供のパンチとキックじゃあ、あいつは少しも痛くないだろうなぁ……」


 だから僕は別の手段を使ってこの場を切り抜けようと思う。


「じゃあ、説得するの? ムリだと思うけど」

「そんなんじゃないよ。まあ見てて。本当はパパからダメって言われてるんだけどね――」


 僕は両手を前に出した。そして、心の中で姉のフェリシーから教えてもらった魔法陣を思い描く。

 オオカミが楽しそうに大ジャンプをした。僕らに派手な動きを見せつつ迫ることで、怖がらせて楽しもうとしている気がする。


 でもね、その単純な動きのおかげで逆に僕は狙いやすくなったよ。大ジャンプをしたせいで空中にいる間は回避行動をとれないのも都合がいい。


「あわわわっ、ウィリーさま、このままじゃあ食べられちゃうよっ」

「大丈夫大丈夫」


 身体の奥底からなんとも言えない強い力が湧き上がってくる。出し惜しみはしない。僕のありったけの力を全てこの魔法にこめるよ。

 僕は上空を楽しそうに跳んでいるオオカミを睨み付けた。


「くらえっ! 【マジカルブリザード】!」


 僕の両手の先から吹雪が飛び出した。

 視界一面が猛吹雪だ。魔法を撃った僕ですら、凍えて死んでしまいそうなほどの圧倒的な冷気を感じる。


「うわ、寒いっ。寒すぎるっ」


 自分で撃った魔法なのに、あまりの寒さにびっくりしてしまった。

 僕の手から向こう側はいっきに真冬の雪国、いや、全ての生き物が絶対に生存を許されないような完璧な氷の世界だった。


 少女が僕の身体にしっかりくっついてくる。その体温がとても僕を安心させてくれた。

 ジャンプ中のオオカミが、吹雪の中で目を見開いて口を大きく開けている。あまりにも想像を超えすぎた攻撃だったんだろう。


「ウギャッ。ワギャアアアアアアアアアアアッ!」


 オオカミが悲しそうな声をあげた。想像を絶する寒さを感じたんだと思う。そして、オオカミの声はすぐに聞こえなくなった。


「ふう……。どうにかなったね」


 吹雪が収まった。僕は両手を下ろした。


「しゅ、しゅごい……」

「ははは……、前にやったときよりも大きな山ができちゃったな」


 僕の正面には、今いる山の頂上を越えるほどの大きな氷の山ができあがっていた。そしてその中に、寒くて凍えてしまいそうな表情になっているオオカミが氷漬け状態になっていた。


 少女がふらふらと氷の山に向かう。そして、氷を指先でちょんとした。


「わっ、冷たいっ。これ、ウィリーさまの魔法だよね。ウィリーさまって魔法を使えたっけ?」

「うん。僕、魔法を覚えたんだ」

「へえ~、かっこいいなぁ」


 やった。同世代の女の子に褒めてもらえたぞ。しかも、かなり可愛い女の子だ。


 改めて少女の容姿をよく見てみる。

 金髪に緑色の瞳の女の子だ。睫毛が長くてちょっと眠たそうな目をしている。将来は美人さんになること間違いなしじゃないだろうか。サイドテールの髪型も凄く可愛いぞ。

 年齢はたぶん僕と同い年くらいだと思う。


 少女がてってってっと歩いて僕のとなりに来た。そして、目をつぶってキス顔を見せてくれる。


「ウィリーさま、助けてくれてありがと。本当にかっこよかったよ」


 チュッと僕のほっぺにキスをしてくれた。

 ふあああああっ、すっごく可愛いキスだった。相手は小さな子供だって言うのに僕は顔が真っ赤になってしまったと思う。


 少女が僕のほっぺから離れた。改めて少女の表情を見てみたら、すごく照れているし、なんというか女の顔になっていた。とんでもなく可愛いぞ。


「ボク、もっと強くなって次はウィリーさまを助けてあげるね」

「え、いや、僕がまたきみを守るよ」


「ボクの家はウィリーさまのおうちを守る騎士の家だから。だからボクが守るんだよ」

「そ、そうなんだ」


「大丈夫だよ。次はさっきのオオカミをね、ボクががおーって食べちゃえるくらいに強くなってるから」

「それは頼もしいな」


 いやー、でもちょっと変わってる女の子かも。話し方も少しのんびりだし、ふわふわしているというかなんというか……。


「きみ、名前はなんていうの?」

「え? あ、そうか。ウィリーさまは何も覚えてなくて、初めましてからしないといけないんだったっけ。ボクはアンジュ・フレーズだよ。よろしくね」

 僕はアンジュから眩しいくらいの可愛らしい笑顔をもらえた。




 さて――。

 可愛いアンジュを助けられたのはよかったけれども、それはそれ、これはこれ。


 こんなにも大きな氷の山をこんなにも目立つ場所に作ってしまっては、いずれ僕が父の言いつけを破ったことも、母のお昼寝の間に家を抜け出したこともバレてしまうだろう。


 というわけで、僕にはやらなければいけないことがある。

 街の大人たちに父の居場所を聞いた。そして僕は父のところまで歩いて行った。


 父は領民のおじいさんおばあさんの畑を手伝っているようで、汗を流して働いているところだった。偉すぎて尊敬できる父だと思った。


「パパ」

「ん? あれ、ウィリーじゃないか。一人で来たのかい? ああ、アンジュちゃんも一緒か。いやそれでも、子供だけでこんなに遠くまで来るのは――」


「それについて、パパに聞いて頂きたいことがあります」

「えっ、どうしたんだい。かしこまって」


 僕は両膝を土につけた。両手も土につけた。おでこも土につけた。そして、精一杯に心を込めて謝罪の言葉を口にした。


「このたびは、大変申し訳ございませんでしたあああああああああああああああっ!」


 僕は言いつけを破ってダメなことをしてしまったんだ。先に謝るにこしたことはない。


「はあ?」


 父は何が何だか分からないと言った様子だった。

 僕は顔をあげた。そして、手をそっと先ほどの小山に向けた。ここからだと少し距離がある。


「あちらをご覧になってください」

「な、なんだあれはあああああああああああああああああああああっ!」


 事情をしっかりと説明した。

 そうしたらめっちゃ褒められた。大事な騎士の家の一人娘をよく守ってくれたと。しかし、ダメなものはダメだとしっかりと言われてしまった。


 今後は一人での冒険は禁止。ただ、魔法は父か母が見ているときだけはOKにしてもらえた。先に謝ったから甘い裁定を下してもらえたようだ。それについては良かったなって思った。


 あと、頑張ったってことで父が晩ご飯を奮発してくれた。それについても良かったなって思った。


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