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第11話 逃げる子供と追いかけるモンスター

「たーすーけーてぇーっ。ボクは美味しくないよぉーっ」


 また悲鳴が聞こえてきた。しかも、小さい子供の悲鳴だ。

 美味しくないよと言っているあたり、モンスターに襲われているのかもしれない。


 聞こえてくるのは小さな山の中からだ。近くには誰もいないから、僕以外にあの悲鳴が聞こえている人はいないと思う。これはまずいな。

 僕はもう一度周囲を確認した。


「見える範囲に大人はいない……」


 たとえいたとしても、父くらい強くなければ助けてはもらえないかもしれない。じゃあ、走って父を探してくるか……。いや、そんなことをしていたら間に合わなくなるだろう。事態は一刻を争うんだ。


「ええいっ、僕に何かあったらパパ、ママ、ごめんなさいっ」


 スキルはオンにしてあるから、たぶんモンスターから僕を認識することはできないはずだ。そう祈るしかない。


 5歳児の身体で武器もなしに何ができるのかは分からないけれど、最悪の場合、僕がおとりになることくらいはできるはずだ。それでスキルを使いながらなんとか逃げることは可能かもしれない。


「たーすーけーてぇーっ。たーべーらーれーるぅーっ!」


 一度、スキルをオフにした。


「今いくよ! もう少し粘って!」

 力いっぱいの声を届けた。

「あっ、誰かいるのぉ? もう限界が近いよぉ!」


「限界を超えろ! 根性の見せどきだ!」

「今どき根性論とか! 時代遅れもはなはだしいよぉ!」


 時代遅れのファンタジー世界の住人が何を言っているんだか。


「とにかく僕が行くまで持ちこたえてて!」

「えーっ!」


 僕はスキルをオンにして山を走って行った。くっ、上り坂だからきつい。このまったく鍛えられていない脚で、いったいどれだけのスピードで上っていけるだろうか。


「くっ、根性ーっ!」


 僕は領主の息子だ。領民の子供は守らないといけない。何がなんでも助けてあげるぞ。うおおおおおっ、ダッシュだーっ!


 はあっ、はあっ、はあっ、脚が重い。すぐに息がきれる。

 ああでも、山道の右上の方を見上げてみると、何かが凄い速度で移動しているのが見えた。


 木々が邪魔をしてよく見えないけど、黄色のワンピースの子供が凄いスピードで山を下りていると思う。あの子は僕と同い年くらいに見えるけど、僕の3倍くらい足が速くないだろうか。下り坂だし、命がけで走っているから速いだけかな。


「ていうか、女の子だったんだ。ボクっていうからてっきり……。いや、ボクっこは日本にもたくさんいたっけ」


 って、うわ。すっげー。なんだあれ。牙を剥き出しにした巨大なモンスターが少女を追いかけてきているんだけど。


「あれが、モンスター……」


 想像以上すぎる。像みたいな大きさのオオカミだった。

 大きな口からよだれを垂らしながら少女を追いかけていた。


 そのモンスターは見るからに凶悪で獰猛そうな顔をしている。毛は紫でなんだか硬そうだ。

 正直、戦って勝てる気がしないし、走って逃げ切れる気もしない。


 そういえば母がオオカミが話題になっているって言っていたっけ。もっと本格的に調査をしてちゃんと討伐しておくべきだったね。


 少女が下り坂の折り返し地点を鋭角に曲がってきた。

 僕はスキルのスイッチをオフにした。これで少女から僕が見えるはずだ。


「助けにきたよ!」

「うわっ、思ったよりちっちゃい人だった!」


「そっちだってちっちゃいでしょ!」

「ていうか、ウィリーさまだし。これむしろボクが守らないといけないやつだよ」


 そういうことになるのか? いや、領民って別に領主を守る必要はないでしょ。税を納めてもらって、それで領民の暮らしを守るのが領主の務めだからね。僕はこの世界の領主の役割はまだ知らないけれど、きっとそういうものだと思う。


「はあっ、はあっ、はあっ、ウィリーさまっ、はあっ、はあっ、剣を持ってない?」

「持ってないよ」


「絶望的だ。じゃあ、一緒に走って逃げるしかないよ」

「それだと二人とも食べられちゃうと思う」

「ボクもそう思う」


「だから僕があいつを倒そうと思うんだ」

「ウィリーさまはよわっちぃからムリじゃない? はあっ、はあっ、はあっ」

「いや、僕を信じてほしい」


 少女が素晴らしいスピードで坂を駆け下りてくる。しかし、オオカミが大ジャンプ一つでその少女のすぐ後ろまで迫ってきた。


 オオカミのよだれがすっごい。あと、ニヤニヤしている。あの表情から察するに狩りを楽しんでいるんだろうな。イヤなやつだ。


「はあっ、はあっ、はあっ、ウィリーさま、き、来たよ」

「よく頑張ったね。じゃあ、僕があいつをなんとかするよ」


 手を差し伸べる。その手を少女はしっかりとつかんでくれた。

 少女が足を止めて後ろを振り返る。オオカミは獲物が二匹になったことに心から喜んでいるようだった。


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