ひかりのタネ(童話)
むかしむかし、深い森のはずれに、ひとつのタネが落ちていました。
それはどんな木にもなったことがない、不思議なタネでした。
「ぼくは、何になるために生まれてきたんだろう?」
タネは風に聞きました。
風は優しく答えました。
「それは自分で見つけるものだよ。ぼくは空を旅して、世界を知った。きみも、自分の根を伸ばしてごらん」
でもタネは不安でした。
「根を伸ばして、誰かの邪魔になったらどうしよう?」
「その時は、また考えればいい。大切なのは、挑戦し、止まらないことさ」
そう言って、風はどこかへ吹き抜けていきました。
タネは勇気を出して、土の中に小さな根をのばしました。
すると、そこにはミミズのおじいさんがいました。
「おや、君は珍しいタネじゃな」
「ごめんなさい、ぼく、生きる意味を知りたくて、根を伸ばしちゃいました……」
「生きる意味か、なら教えてやろう。わしは土を耕すのが役目じゃ。土を柔らかくすれば、いろんな命が育つ。それがわしの意味じゃ」
タネは驚きました。
「小さな体でも、そんな大切なことをしてるんだね」
ミミズのおじいさんは笑いました。
「大切かどうかは後からわかる。まずはやってみることじゃ」
タネは、根をもっと広げました。ある日、小さな芽が出ました。
太陽がそれに気づいて、にっこりと照らしてくれました。
「こんにちは、ちいさな命よ。ようこそ、世界へ」
「こんにちは、太陽さん。ぼく、まだ何になるか分からないけど……生きてみるよ」
やがて芽は、小さな木に育ちました。
若い木は、虫に食べられたり、病気になったりツライ事が、たくさんおきました。
しばらくして、森では大きな嵐が起きました。倒れた木もあり、巣を失った小鳥たちが泣いていました。
タネから育った木は、まだ若く、細い体だったので、枝が折れてしまいました。
「痛いよう、こんなコトなら種のままが良かった……」
しかし、すぐそばで巣を失った小鳥達が泣いていました。そこで彼は、精一杯枝を広げました。
「ここでよかったら、おやすみなさい」
小鳥たちは、その枝に止まり、雨をしのぎました。
嵐が去ったあと、小鳥たちは木にお礼を言いました。
「あなたのおかげで、みんな無事だったよ。ありがとう!」
そのとき、木はふと思いました。
「これが……ぼくの生きる意味?」
小鳥たちが空へ飛び立つと、木の先に、小さな光がともりました。
それは花のつぼみでした。
季節がめぐり、その花は実になりました。
実はやがて落ちて、また新しいタネが土に落ちました。
そのタネも、いつか、誰かのために枝を広げるかもしれません。
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そして、その森のどこかで、今も小さなタネが風にたずねています。
「ぼくは、何のために生きてるの?」
その答えは、挫折したり、傷付いたりしながら、自分の心で考え、決めるモノだと思います。
~おわり~