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新しい獲物だ。

怯える人間の子供にトドメを刺そうとしたら別の人間が乱入してきた。

先ほど殺した者達よりは強そうだが、こいつも同じ場所に送ってやるとしよう。

この森に入った時からまるで自分の体が自分のものでないような、そのくらい圧倒的な力を自身から感じる。

頭もいつも以上にスッキリしている……この黒い霧のせいだろうか。

脳が『目の前の人間を殺せ』と囁いてくるのだが、私自身が強くなった力を試したくてウズウズしているのかもしれん。今の私に敵う者などいないということを思い知らせてやる。


間一髪で少年を助けることができたフリードは正面に立つゴブリンを注意深く眺める。

目的地であるミアの森はドリアスから西に数日進んだところにあった。

言葉に表すことができない不気味な感覚を感じながら足を踏み入れたのだが予想に反してしばらくは何者とも出会わなかった。

『暗くなる前には森を出よう』とぼんやり考えていた時、それは起きる。

必死で助けを呼ぶ声に反応したフリードは即座に声のする方に走り始め、ようやく着いた時には少年がゴブリンに殺される寸前であった。

なんとか救うことは出来たが安心するのはまだ早い。何故ならゴブリンが纏っている黒い霧の正体に心当たりがあったからだ。


「こんなに早く見つかるとは思わなかった」


呟いたフリードが背中から大剣を引き抜くのとゴブリンが杖を振ったのはほぼ同時だった。

既に二人の命を奪った風の刃が空中に現れるがフリードは動じない。その瞬間を見計らってその場でジャンプすると真下を勢いよく風が吹き抜けた。

攻撃を見切られたゴブリンは驚いた反応を見せ、何度も杖を振って次々と風の刃を撃つがいずれも軽やかに身をひねるフリードを捉えることができない。


「すごい……」


後ろから少年の呟きが聞こえてきた。

全く攻撃が当たらないゴブリンはキーキーと鳴きながらその場で地団駄を踏む。


「今度はこちらの番だ」


敵の力量を把握したフリードが構えていた大剣を下げて地面を蹴る。

両者の戦いを手に汗握りながら見つめていた少年はフリードが一瞬消えたように感じた。それほどまでの瞬発力でフリードは相手との距離を一気に詰める。

あまりの速さに驚いたゴブリンは慌てて杖を掲げるが既に敵を射程圏内に捉えていたフリードは構わず大剣を振りかぶる。


「お兄さん!」


果たして少年の叫び声がきっかけになったのか。

直前に気づいたフリードは強引に大剣を振り下ろすがゴブリンの口が不気味に歪む。

一撃で決めるつもりで振るわれた大剣はゴブリンの体から数センチ離れたところに現れた風の刃に受け止められ、その衝撃で発生した火花の眩しさにフリードは思わず目を瞑ってしまう。


「ちっ!」


視界の端でゴブリンが再び杖を掲げたのが見えたので後ろに飛んで距離を取る。

少し離れたところに着地したフリードは手の痺れに内心で驚きながらも口を開いた。


「そういう使い方もできるのか」


タイミングを合わせれば防御にも使えるらしい。ゴブリンらしからぬ知能の高さだ。

距離が空いたので攻撃が飛んでくるかと思われたが、先ほど簡単に避けられたせいかゴブリンはこちらの出方を伺っている。

そういうつもりならばこちらも時間を使わせてもらおう。

実はフリードには気になっていたことがあった。先ほどから生成されている風の刃は『魔法』と呼ばれる特殊な技であり、ゴブリンならば二、三発撃つだけで疲労困憊となるはずである。

しかし目の前の奴は十発以上撃っていながらまるで衰える気配が無い。

改めてゴブリンの全身を眺めると相変わらず黒煙が禍々しく溢れている。


「長期戦は下策か」


脳内に一つの策が浮かぶ。予想通りであれば相手の体力切れを待つのは得策ではない。

大剣を握る手に力を込めて再び地面を蹴ると呼応するようにゴブリンも杖を掲げる。

しかし今度は風の刃が飛んでこない。近づくフリードを狙う気は最初から無いようだ。

そして接近したフリードが振りかぶる瞬間に再度風の刃が現れるが、先ほどのように火花が散ることは無かった。

刃に触れる寸前、振るいかけた大剣をパッと引いたフリードは地面を蹴って飛び上がる。

その結果、フリードを捉えるはずだった魔法は何も無い空間を通過することになった。


「ギィ!」


動きに翻弄されたゴブリンが上を向くと大剣を構えるフリードと目が合う。

それがゴブリンの生きている間に見た最後の景色となった。

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