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閉まった扉をジッと見つめるケビン。客がいなくなると狭い店内が少しだけ広く感じられた。

奴が簡単に死ぬとは思えないが覚悟はしていた方がいいかもしれない。

気づけばフリードを心配している自分に舌打ちをするとカウンターの下から酒を取りした。


「また例の子が来ていたのかい?」

「起きていたのか、リゼ」


聞こえてきた声に振り返るとふくよかな体型の女性が店の裏口から顔を覗かせていた。

リゼと呼ばれた女性はスタスタと近づいてくるとフリードが座っていた席に腰を下ろす。


「すっかり客足の落ちた店にも変わらず足を運んでくれて店主の妻としては嬉しい限りだよ」

「ふん! 大した売上には繋がってないがな」


照れ隠しなのが見え見えの様子にリゼは口を隠してこっそり微笑んだ。

窓から微かに見える月を見つめながらジルは過去に思いを馳せる。


「不思議な縁だよな。邪神が倒された一週間後、店先でぶっ倒れていたあいつを助けたのが全ての始まりだ。原因はただの疲労と空腹だったが」

「本当……助けられてよかったわね。それにしても、どうして倒れていたのかしら?」


普段は店頭に立たないリゼはフリードとほとんど話したことがなかった。

しかもフリードもお喋りな性格では無いため目が合っても軽く会釈する程度だ。

答えを求めて旦那を見つめているとケビンが徐に語り出した。


「邪神が消えて世間が幸せな空気に包まれている中、あいつだけは浮かれていなかったのさ。連合軍の一員だったあいつの師匠が命を落として、その後は何かに取り憑かれたかのように不眠不休で邪神側勢力の残党を狩り回っていたらしい。そりゃ飯を食うことも忘れてぶっ倒れるだろうさ」


口数の少ない常連客の意外な過去を知ってリゼは驚く。大勢の国や人々を葬ったあの邪神によって心に傷を負った者が身近にもいるとは思わなかった。

暗い気持ちになりかけたリゼだったが気持ちを切り替えると『よしっ!』と元気よく言って立ち上がる。


「じゃあ彼が次に来るまで店を畳むわけにはいかないね! どうせなら潰れる前にツケを受け取りたいわ」

「その話も聞いていたのか……まぁ、客が増えるといいな」

「そうねぇ。一体どうすればいいのやら」


同時に溜息を吐いた夫婦は目があって苦笑いを浮かべるのであった。



深夜を回ると人の気配は一気に無くなる。

店を出たフリードが夜道を歩いていると後ろから声がかかった。


「おーい! ちょっと待ってくれ!」


聞き覚えのある声に振り返ると目の前には息を切らす人間。

それは昼間に街の正門で助けを求めていた男だった。


「正門にいたおっさんか。何のようだ」

「やっと見つけたぜ。グレイトウルフが討伐されたと傭兵達が噂していたぜ……あんただろ?」

「さっきも言ったが礼ならいらんぞ……そもそも金があるようには見えん」


そう言われた男は改めて自身の格好を見る。

ボサボサの髪にあちこち破れている服。どう見ても裕福には見えない格好に苦笑いが浮かぶ。


「当たっている。しかしフリードさんは強いな。一人であいつらを倒してしまうなんて」

「そんな話なら俺はもう行くぞ」


どうやら世間話をする気は無いらしい。

すぐに立ち去ろうとするフリードを男は慌てて呼び止める。


「待てって! 確かに払えるお金は無いが礼くらい言わせてくれよ。フリードさんのおかげで人生捨てたものじゃないなって思えたんだよ。これも傭兵達から聞いたんだが、他にもあんたに救われた人がいるらしい。どうしてそこまで他人のために命を張れるんだ?」


助けてもらった男の素直な疑問。

その質問には思うところがあったのか顎に手を当てて考えるフリード。

しかしフリードの返答は男が予想していたものではなかった。


「他人のために本気になれる奴は偽善者か善人らしい。俺はどっちなんだろうな」


突然何の話なのか。

おかしなことを聞かれた男は困惑するが少し考えてから返事をする。


「助けてもらった俺からすれば善人だが、偽善者と呼ぶ奴もいるかもなぁ。こんなご時世だし」

「そうか…俺もそう思う」

「は?」


意味深なことを告げたフリードはそのまま歩き去ってしまう。

結局、残された男は言葉の意味が分からず首を傾げるしかなかった。

こうして街を出発したフリードは邪神が生み出したと言われている伝染病が今になって現れた原因を探るべく、西にあるミアの森へと旅立ったのであった。

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