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フリードが飛来する無数の土塊に突っ込んで行くのをアルトは呆れたように眺めていた。

しかし凄まじい気迫で次々と土塊を叩き斬る様子に次第にその余裕が消えていく。

追加の土塊を放つがそれすらも叩き斬ったフリードは一気に空き地を駆け抜けて残り数メートルという距離まで迫った。だがそこまで接近されてもアルトは追い詰められていなかった。


「アースウォール」


フリードとアルトの間に土壁が出現して再びアルトの姿が見えなくなる。

それを予期していたフリードは土壁を回り込んで接近するが先ほど同様無数の土塊が頭上から落ちてくる。だがそれすらも無視して突き進むフリード。


「さすがにそれは無茶というものです。今度こそ終わらせてあげましょう」

「終わりなのはお前の方だ!」


上空から迫る攻撃を無視して大剣を振りかぶったフリードにアルトは戸惑った表情を浮かべる。どう考えても大剣が届く前にアルトの魔法がフリードを襲う方が早いからだ。

そして土塊がフリードに当たる瞬間、驚くべきことが起きた。


「なに!」


フリード目掛けて降り注いだ土塊が一斉に方向を変えてアルトに向かって行ったのだ。

さすがに予想できなかったアルトは間一髪で身を捻って自身の魔法を浴びずに済むが、その隙にフリードの接近を許してしまう。

冷や汗をかいたアルトはその刹那、戦いの最中で遠くにいるヨミトと目が合う。あまりに距離があるため見間違いかと思ったがヨミトは微笑を浮かべていた。だが理由が思い当たらない。

その時はアルトは何が起きたのかを悟った。ヨミトが念動力で土塊の向きを変えたのだ。


「ま、まずい!」


気づけば目と鼻の先までフリードが迫っており優位に立っていたはずのアルトに明確な危機が訪れた。

アルトの土壁は『アースウォール』と唱えてから一秒ほどで生成される。実践で使うには十分な速さだが既にフリードの間合いに入っている。この距離だと間に合わないはずだ。

しかしフリードが大剣を振り下ろす寸前、それまで余裕の無い顔だったアルトが突如醜く口を歪めて笑った。


「ふふ、残念でしたね。アースウォール」


なんとこれまでより一層速く、わずかコンマ数秒でアルトが土壁を出現させたのだ。

その様子を後ろから見ていたヨミトを悔しげに舌打ちをする。相手を油断させるためにアルトはわざと本気を出していなかったのだ。せっかくここまで近づけたのにまた土壁で防がれてしまうのか。


「土壇場で協力するとは思いませんでしたが惜しかったですね! しかしここまで追い込んだことは褒めてさしあげます」


この後に及んで奥の手を隠していたアルトが早口で捲し立てる。まんまと相手が騙されたことが嬉しくて内心で小躍りしていることだろう。

土壁に守られながら今度こそフリードを仕留めるためにアルトは杖を掲げた。

しかし全く冷静さを失っていなかったフリードは先ほどと変わらぬ調子で大剣を振りかぶった。


「言っただろ。終わりなのはお前だ」


静かに告げたフリードが大剣を勢いよく振り下ろす。また弾き返されると思われた大剣だったが、不思議と何の抵抗も受けずに容易に土壁を両断してアルトの体を大きく切り裂いた。


「な……ぜ……」


完全に不意を突かれたアルトは体から血を吹き出しながらその場に崩れ落ちる。

致命傷の一撃を食らったアルトの脳内を埋め尽くしていたのは困惑。身体中を激痛が支配しているがそんなことよりも今起きた事象に納得ができないのだ。

土壁が突破された理由が分からないアルトが答えを求めて辺りを見渡すとフリードの大剣に何かが巻き付けられていることに気づく。

そこにあるものを理解した瞬間、口から弱々しい言葉が漏れる。


「孤独者のペンダント……」

「他者の魔力を遮断する。その説明を聞いた時にもしやと思ってな」


ペンダントを大剣から外しながらフリードが答える。実はアズラスを倒した時にひそかに拝借しておいたのだ。

いくら土壁が強靭であっても所詮はアルトの魔力を通して作られたもの。他者の魔力を遮断するペンダントがあれば土壁も分解できると思ったのだが予想通りであった。

悔しそうなアルトはもう言葉を発する余裕も無いのか力無く笑うだけだ。既に自身の命が長くないことを悟っているのかいつもより儚げである。


「まさかこんな結末を迎えるとは……人生とは分からないものですね」


そう告げるとアルトは苦しそうに咳き込んだ。口の周りには血がついている。

黙って見ていたフリードだったが、突然ハッとするとアルトの胸倉を掴んで強引に引き起こす。


「そうだ! さっさと解毒剤を渡せ!」


瀕死の人間を掴んだまま容赦なく揺らすとアルトは思わず呆れた笑いを返す。

アルトが懐から紫色の液体の入った瓶を取り出すとフリードはそれをひったくり急いでヨミトの元まで走る。

ぐったりしていたヨミトは近づいてくるフリードに気づくと顔をあげた。身振りで口を開けるように言われた気がしたので素直に開けるとドロっとした液体が一気に流れ込んで思わずむせ返る。


「発症してから随分経っています……効くかは分かりませんよ」


遠くから小さな声が聞こえてくるが無視するフリード。治るかどうかは今考えても意味がない。

すると全て飲み干したヨミトの顔色が少し良くなった。体から溢れていた黒煙も徐々に消えていく。

それを見て安堵したフリードはアルトの方に顔を向けた。


「こんな危険なものじゃなくて人の役に立つものを開発しろ」

「多くの人を利用して数々の罪を重ねてきた。今更そんなことする気にもならないですよ」

「大事なのは本人が変わろうとするかだと思うがな。それより、約束は忘れていないだろうな?」


ヨミトを置いて再びアルトの方に近づいたフリードが問う。するとアルトは小さく頷いてから体を起こそうとする。

今も体から血がダラダラと流れ出ておりアルトは苦しそうな表情をしているが勿論手を貸すことはしない。黙って見ていたフリードは腕を組んでアルトが話し始めるのを待つことにする。

そして近くの木に背中を預けたアルトは大きく息を吐くと口を開いた。


「既に組織を抜けた身なので詳細は知りませんが、邪神教は三年前の戦いで壊滅したと聞いています。生き延びた者もいたらしいですが、フリードさんのように恨みを持った者達に次々と消されていきました。おそらく私が最後の生き残りだと思います」

「そうか……分かった」


意外とあっさりと教えてくれた。

何か他にも聞くべきことがあるかもしれないが今は思いつかない。そもそも本当のことを言っているかも分からないがこの状況で嘘を付く理由も無いだろう。

結局信じることにしたフリードはそれ以上何も言わずアルトに背を向けた。

戻ってきたフリードは背負った大剣を腰に括り付けるとヨミトを背中に担ぐ。自分も体のあちこちが悲鳴を上げているが背負って帰るくらいなら大丈夫だろう。さっさとこんな森からは立ち去るべきだ。

アルトを残したまま森の空き地を後にするとヨミトが背中越しに話しかけてきた。


「トドメを刺さないの?」

「アルトのことか? どうせあの傷なら長くはないはずだ」

「でも邪神教の司祭だよ。師匠の仇なんじゃないの?」


その質問にはしばらく答えなかったフリードは少ししてから口を開いた。


「もういいんだ。それより怪我人は大人しく寝ていろ」


そう言われたヨミトは何か言いたげな顔をする。しかし既に体力が限界だったのか結局何も言わずに気を失った。

背中が急に重くなる。正直フリードもこの場で寝てしまいたいくらい疲労が溜まっていたが気力を振り絞って森の外へと歩き始めた。

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