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戦闘開始から十分、狩人と盗賊はほぼ互角の戦いを繰り広げていた。

剣や斧を振り回しながら威圧してくる盗賊に当初は狩人達も気圧されていたが、盗賊一人に二人の狩人が襲いかかっているところもある。


「そこを退けぇ!」


その中で一際存在感を出しているのが狩長のジルだ。

雄叫びを上げながらまた一人の盗賊を剣で切り倒したジルはそのまま次の敵に狙いを定める。


「くっ! 伊達に狩長は名乗ってねぇな……複数で当たれ!」


味方をやられた盗賊が悔しそうに叫ぶ。

集中してジルを狙おうとする盗賊達だったが狩人達も黙って見てはいない。集まってくる盗賊達をそれぞれが引き受けることで攻撃がジルに集中するのを防いでおり、このまま押し切れそうな雰囲気が狩人達の間で流れている。

しかしジルの胸中に広がっていたのは困惑であった。


「一体どういうつもりだ」


ジルの前方には戦いが始まってからまだ一歩も動いていないアズラスが立っていた。戦場を無言で見つめていたアズラスはジルの視線に気づくと不気味に笑う。

人数差とジルの勢いにより徐々に盗賊達は数を減らしていき、残った者達は苦しそうな顔を浮かべていたがアズラスに助太刀する意思は無い。明らかに盗賊側が押されているのに焦った様子が全く無いのは不気味である。


「どう思う?」

「何も無ければこちら側が勝つだろうね。何も無ければ」


同じく一歩も動かず戦場を眺めていたフリードが隣に立つヨミトに問いかけると意味深な言葉が返ってきた。アズラスが何かを企んでいるとヨミトも考えているようだ。

もしかすると人数差をひっくり返すほどの何かが起きるのを待っている可能性もある。もうすぐ援軍が現れるのかもしれないが、だとしてもアズラスが静観している理由が分からない。仲間の命が惜しくはないのだろうか。


「何か策があるんだろうな……ところでそろそろあいつらの真意も聞いてみたい」


視線を前に移したフリードはゆっくりこちらに近づいてくる集団を見ながら再び口を開く。そこには戦いが始まってからまた一度も武器を抜いていない五人の傭兵達がいた。

すぐ近くでは狩人と盗賊は熾烈な戦いを繰り広げていたが傭兵達は戦いに加わるつもりは無いらしい。

五人はフリード達から五メートルほど離れたところまで近づくと足を止める。


「お前達は……戦わないのか?」


先頭にいるリーダーらしく男が訝しそうに問いかけてきた。

他の四人も敵意を剥き出しにはしていないが各々の武器に手をかけている。いざとなれば戦うつもりはあるようだが、いきなり殺し合いが始まるわけではなさそうだと思ったフリードは安堵の溜息を吐きながら返事をする。


「それはこっちの台詞だ。俺たちは傭兵……つまりお前達の相手をするつもりだった」

「なるほど、お前は狩人達に雇われた傭兵ってことか。それならば安心してほしい。俺たちは依頼主が盗賊だと知らずに引き受けてしまった大馬鹿の傭兵だ。戦意は無い」

「ねぇ、私たちに相談せずに依頼を勝手に受けたのはリックでしょ? 馬鹿はあんただけよ」


女の傭兵が反論するとリックと呼ばれた男はバツが悪そうに頭を掻いた。どうやら彼が騙されたせいで他のメンバーは巻き込まれてしまったらしい。

自分は傭兵では無かったがせっかく歩み寄ってくれているので訂正はしないことにする。話をややこしくして警戒されても面倒だからだ。盗賊を手助けする意思が無いのであれば説得してこちら側についてもらうこともできる。

しかしフリードは開きかけた口を閉じた。リックが疑わしげに目を細めてフリードのすぐ横を見つめていたからだ。


「ところで……そこの金髪は何者だ?」


そう言われて隣を見るが肝心の本人は無表情で口を開くつもりは無いらしい。

嫌な予感がしたフリードは適当に切り抜けようとするが先にリックが言葉を続ける。


「武器も持たず動きづらいローブを着ているということは魔法使いなのだろう? 金髪の人間も珍しくは無いが雰囲気が只者ではない。まさか……邪神教の関係者じゃないだろうな?」

「え、もしかして金髪の悪魔?」


仲間の一人がギョッとして後ずさると他の仲間達も身を固くする。

ヨミトの外見から傭兵達は噂を思い出したのだろう。フリードもヨミトが金髪の悪魔だとは思っていなかったが関係者なのだとは推察していた。勘違いするのも無理はないが、このまま訂正しなければ協力してもらうのは難しいだろう。

ところがヨミトはフリードが想像していた最悪の行動に出る。徐に右手を掲げると自身が持つ膨大な魔力を体から溢れ出させ、明確な殺意を持って傭兵達を睨みつけた。


「申し訳ないけど今は気分が悪いんだ。世間話をするつもりは無い」

「待て、ヨミト! 落ち着け!」


今にも魔法を放ちそうな雰囲気にフリードは慌ててヨミトの右手を掴む。ここで暴れられてしまえば傭兵の説得も不可能になる。

ヨミトのあまりの迫力に傭兵達は顔を真っ青にしてガタガタと震え始めた。

一方のヨミトは殺意を剥き出しにしたまま自身の右手を掴むフリードの方をチラッと見る。二人の目が合い、しばし無言の時間が流れるがやがてヨミトが手を下ろしたのでフリードも内心で安堵する。

すっかり傭兵達を警戒させてしまったがフリードは自身が黒煙病を調べるために旅をしていることとヨミトが金髪の悪魔ではないことを彼らに説明することにした。その際、母親のことは伏せてあくまでヨミトは村に住む魔法使いということにする。

半信半疑で聞いていた五人だったが一応は納得してくれたみたいで、チラチラとヨミトの方を見ながらもひとまずは狩人達に協力してくれることになった。



「ちっ、裏切りやがったか」


盗賊の数が十人を下回った頃、ついにアズラスが言葉を発する。遠くからフリード達の様子を見ていて傭兵達が寝返ったことに気づいたようだ。


「今更降参しても見逃す気はないぞ?」

「まぁ降参する場面ではないからな……そんじゃあ、反撃開始といこうか!」


不気味に口を歪めたアズラスは徐に挙げた右手を勢いよく振り下ろした。

意図が分からないジルは注意深く辺りを見渡すが平原に異常は見られない。その代わり、遠くから何かが迫ってくるような地響きが聞こえてきた。


「ようやくか! 待ち侘びたぜ」


生き残っていた盗賊の一人が嬉しそうに呟き、他の盗賊達も次々と背を向けて走り出す。

どうやら敵はこれから何が起きるのかを知っている様子で、後方に下がっていく盗賊達を追撃するチャンスではあったが敵の目的が分からない以上ジルも突撃の命令を出せないでいた。

そしてついに地響きの正体が明らかとなる。


「あ、あれを見てください!」


いち早くそれに気づいたジェシカが声をあげ、ジェシカが指差す方向を向いた彼らが目にしたのはなんとミアの森から湧き出てくる大量のモンスターであった。


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