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ヨミトの顔は真剣そのものだ。さすがに口を挟める雰囲気では無いと感じたのか相槌も打たない。
その後フリードはポツポツと凄惨な過去を話し始めた。
「幼い頃の環境は一言で言えば『最悪』だった。住んでいた貧民街は盗みや喧嘩が日常茶飯事で、体の弱いやつから次々と病気で死んでいった。俺は武器工場で働いていたんだが、理不尽に怒鳴り散らす上司と古株達による陰湿な虐め、とにかく最悪の環境で生きる意味を失っていた。そんなある日、見知らぬ長身の女が目の前に現れた」
無言で聞くヨミトに視線を移したフリード。
続いて語られた女性との出会いは驚くべきものであった。
「仕事が終わって家に帰るとそいつが家の前に立っていたんだ。そして最初に言われた台詞が『一緒にこの世の悪を滅ぼさないか?』だった」
「えぇ? なにそれ」
意味が全く分からない。ヨミトの脳内に大量の疑問符が浮かんだ。
知らない人にそんな風に声をかけられたら怖くて逃げ出すかもしれない。少なくともマトモな人間だとは思わないだろう。
フリードも同意見だったのか複雑な表情を浮かべていた。
「結局その時は無視した。一度見たら忘れないほどの美人だったが、それよりも恐怖の感情が勝っていたからな。だが翌日も女は同じ場所で立っていた。それが何日も続いたんでついに無視できなくなった俺は『世直しなら一人でやっていろ。こっちは仕事で忙しいんだ』って言ったんだが、それを聞いた女は笑ったんだ」
「ますます怖いんだけど……」
その光景を想像したヨミトは不気味さで体をブルっと震わせる。
今のところ怪しさしか無いが、この後一体どうなるのか。
すっかり話に聞き入っているヨミトが続きを急かすとフリードは再び話を再開した。
「しかし翌日から何故か女は現れなくなった。結局何も分からないままその出来事もすっかり脳内から消えかかっていた頃、いつものように仕事に向かったら武器工場が燃えていた。周りにいた同僚に聞いたら何者かが深夜に入り込んで工場長と幹部を皆殺しにしたらしい」
「ねぇ、その犯人って」
ヨミトは『まさか』という表情を浮かべる。話の流れを考えると怪しすぎる人物が一人いた。
溜息を吐いたフリードは肯定を意味する頷きを返した。
「察しの通り、全て例の女の仕業だった。訳がわからず呆然とした状態で家に帰ると数日ぶりに女が立っていた。そいつのニヤニヤした顔を見た瞬間、全てを察した俺は掴みかかって怒鳴ったんだ。『なんでこんなことしたんだ!』ってな。そしたら女は何て言ったと思う?」
「んー。悪を退治とか言っていたし……『世直しのため』か『悪者だから』とか?」
少し考えたヨミトが告げるとフリードは首を横に振る。どうやら違うらしい。
考えるのを諦めたヨミトがフリードの方を見ると予想外の回答が返ってきた。
「正解は『私が気に入らないから』だ。ちなみに察しているかもしれんが、その女というのが俺の師匠だ」
「うん、君の師匠が色んな意味で凄い人なのは伝わったよ」
「だろ? 後になって分かったんだが武器工場は邪神教の息がかかっていた。師匠は過去に親友を邪神教に奪われたみたいで、各地を渡り歩いて邪神教の関係者を始末していたらしい。結局職場を失った俺は師匠に付いて行くしかなかったのさ」
邪神教絡みだったということを知ってヨミトは少し納得する。
世界の破壊を目論んだ邪神、そして邪神を崇める邪神教。その邪神教が運営する武器工場を野放しにして世界のためになるとは思えない。
しかし武闘派の集まりである邪神教の面々を一人で倒した師匠は相当の強さなのだろう。
フリードの過去を知って満足したヨミトはせっかくなので自身のことも話すことにした。
「君の質問にも答えてあげるよ。金髪の悪魔についてだよね?」
「教えてくれるのであれば断る理由は無いな」
フリードがそう返すとヨミトは焚き火に視線を移す。
焚き火を見つめるヨミトの青い両目はユラユラと赤く揺れていた。
そしてヨミトも自身の過去について話し始めた。
「金髪の悪魔……世間でそう呼ばれている人は、僕の母親なんだ」




