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村の外に一歩出ると穏やかな風が二人の頬を撫でる。今日もユタ平原は快晴であった。

先ほどのパイロの態度が気になったフリードは早速尋ねてみることにした。


「あいつ、お前の時だけ態度がおかしくないか?」

「ん? ああ、パイロさんのこと? 僕も気になって何度か聞いたんだけど『なんでも無い』って言われちゃってさ。よく分かんない」


そう言って首を傾げるヨミト。

本人も不思議がっているがパイロに話す気はないらしい。何か事情がありそうだがこれ以上掘り下げるのも難しそうだ。

思考を切り替えたフリードは今日の方針を確認することにした。


「盗賊のアジトを探すんだったな。まずは平原を見て回るか? それとも森に行くか」


隣を歩くとヨミトに話しかける。この辺りの地理については自分よりも詳しいだろう。

顎に手を当てて悩んだヨミトは少ししてから答える。


「そうだね……村を大きく一周するように平原を回ろうか。まずは北、その後は西から南、最後は東にあるミアの森に行こう」

「回り切れるのか? 夜の探索は避けた方がいい」

「確かに森までは入れないかもね。まずは平原で怪しい場所が無いか見て回ろう」


フリードの意見に同意したヨミトが頷く。

モンスターと違い人間は夜目が効かない。日が落ちてから出歩くと危険は倍増する。

それからしばらくは平和な時間が続いた。モンスターや人に出会うことも無くヨミトの方も特に話題を振ってこない。だが不思議と気まずさは感じなかった。

そういえば次に会ったら聞こうと思っていたことがあった。ヨミトの力についてだ。


「今更だが、お前は魔法が使えるな? あの火の玉以外は何ができるんだ?」


ヨミトはその質問にしばらく答えなかった。

情報は時として武器になる。気軽に自身の力について話すことは利口では無い。

フリードも似たような考えを持っていたのでヨミトに聞いたのもダメ元であった。

無言の時間が二人の間に流れた、再び口を開いたヨミトは全く別の話を始めた。


「ねぇ、人がどうやって魔法を使うか知っている?」

「……質問に質問で返すなよ。いきなり何の話だ? そんなこと知らなくても困らないだろ」

「ふーん、知らないんだ?」


馬鹿にするようなニヤニヤした表情。思わずフリードはムキになって返事をする。


「馬鹿にするな。体内にある『魔力』を使っているんだろう」

「じゃあ魔力って何?」

「……」


知ったかぶりをしてみたが二の句が継げずにいるとヨミトが溜息を吐く。憐れみの視線が非常に腹立たしい。

怒りに拳を震わせるフリードに構わずヨミトは魔力の説明を始めた。


「魔力は生物が宿している一種の生命エネルギーだよ」


人差し指をピンと立てて得意げに話すヨミト。それは出来の悪い生徒に教える教師のような口調であり、フリードは一言一句聞き漏らすまいと真剣に耳を傾ける。


「生物は皆、生まれつき体内に魔力を宿している。血液と同じように体内を循環していて、普通の人間は自身の魔力を意識することは無い。だけど魔力量が多い場合は様々な使い道があるんだ。怪我をした時に魔力を集中させることで治りが早くなったり、足に魔力を集めれば通常より速く走ったりもできる」

「そうだな。俺が説明したかったのはまさにそのことだ」


胸を張って答えるフリードにヨミトは呆れたような視線を向ける。

魔力の原理はなんとなく理解していたが、ヨミトがしたような端的な説明はフリードには出来なかった。


「君って意外と子供なんだね。話を戻すと、今説明したのは体内で魔力を使う場合の話で、体外に放出することもできる。たとえば……」


掌を上に向けたヨミトが『ファイア』と呟くと、ボンっという音が鳴り小さな火が灯った。


「こうやって魔力を使って火を起こすこともできる。体内にある魔力を別の物質に変換して体外に放出する技を『魔法』と呼ぶ」

「火魔法だな。その火を大きくして相手に飛ばすのがファイアーボール」


フリードの言葉にヨミトは頷く。

一部を除き、この世に存在する魔法は火・水・風・土・雷、いずれかの属性に分類される。

魔力の多寡に限らず人は生まれつき使える属性が決まっており、基本的には両親が使える属性が子供にも引き継がれる。両親の属性が異なる場合、どちらの属性に目覚めるかは運任せ。

また、魔法は戦闘だけでなく日常生活でも広く使われている。例えば人間が生きる上で必要な水を生み出せる水属性を宿した人間はどこでも重宝されるし、その他には土魔法が建築や工芸に利用されたり火魔法は料理や武器、防具開発を行う工房でも活用されたりしているのだ。

これら魔法に関する知識は誰もが知っている常識であり、勿論フリードも例外ではない。

しかしフリードは未だにスッキリしていなかった。


「お前が商店街で男を吹っ飛ばした魔法……あれは何だ? 大の男が宙を飛ぶくらいの魔法だ。もし風を操ったのなら広範囲に影響が出ていないとおかしい」


その指摘にヨミトは笑みを浮かべる。どうやらフリードの予想は正しかったらしい。

風魔法はその名のとおり風を起こす魔法である。先ほどヨミトが実演して見せた通り、何も無いところに風を発生させることで掌の火を消したのだ。

商店街で使われたのが風魔法だった場合、周囲の人間が倒れてしまう程の強風が吹いていたはずだ。しかし男を挑発していた老婆は何事も無かったかのように立っていた。


「あれも魔法だよ。五属性じゃないけど」

「やはり……そういうことなのか」


その答えを半ば予想していたフリードが頷く。

魔法には五つの属性がある。一部を除いて。

つまり五属性に当てはまらない特殊な魔法も存在しているのだ。

突然立ち止まったヨミトはその場にしゃがみ込むと何故か小石を拾う。


「よく見ていて」


掌に乗せた小石を見ながら呟いたヨミトの意図が分からずにフリードは首を傾げる。

どう見てもただの小石を持っているようにしか見えないが、次の瞬間驚くべきことが起きた。

なんと小石がヨミトの手から離れてゆっくり宙に浮かび上がったのだ。

顔の高さまで小石を浮かび上がらせたヨミトはポカンと口を開けるフリードを見た。


「物体に自分の魔力を流し込むことで動きを操ることができるんだ。これが僕の『念動力

ねんどうりょく

』だよ」

「念動力……特異魔法か」


いつになく真剣な眼差しでフリードは呟いた。

五つの属性に属する魔法は纏めて『基本魔法』と呼ばれている。そして基本魔法に当てはまらない特殊な魔法、それらは『特異魔法』と総称されていた。

特異魔法がどのようにして生まれるのか、それに対する有力な説は未だに無い。とある一族で代々受け継がれるものもあれば、特定のモンスターだけが使えるものもある。

確認されているだけで数十種類の特異魔法があり、いつの時代でも世に名を轟かす者は特異魔法を有していることが多い。

ヨミトが再び魔力を込めると小石がこちらに向かって勢いよく飛んできたのでパシッと手で掴む。ゆっくりと手を開くと最初に見たとおりの何の変哲も無い小石がそこにはあった。


「物体に魔力を流し込むだけで動かせるのか?」

「さっき言った通り魔力は一種のエネルギーだよ。エネルギーは『モノを動かす力』だから、それを操ることができれば自由自在ってわけさ」

「だがお前が説明した通り、自身の魔力を変換して体外へ放出すること自体は誰にでも出来る。それが魔法だからな。火の属性を持つ者は火を、水の属性を持つ者は水に変換して放出している。別の何かに魔力を流し込むことも体外への放出ではないのか?」


フリードの指摘は正しい。

物体に魔力を流し込むためには当然体外に放出する必要があり、物体を自由自在に動かす方法がそれなのだとすれば念動力は誰にでも使えそうだ。特異魔法と呼ばれるほど異質なものにはどうしても思えない。

フリードの疑問に何と答えるべきか少し悩んでからヨミトは再び口を開いた。


「確かに魔力の体外放出は誰にでも出来る。だけど放出できるものは自身の属性に限った物質だけなんだ。火属性の人が水や風を生み出せないことは言わなくても分かると思うけど、純粋な魔力のみを放出することも不可能なんだよ」

「……言われてみれば魔力だけを放出した場合にどうなるかは考えたことがなかった。普通の人間はそれが出来ないということか」


徐々にヨミトの特異魔法について理解が進んできた。

続いてフリードは効果の対象について聞いてみることにした。


「生物無生物問わず、どんな物体にも念動力が効くのか?」

「基本的にはね。でも僕にも魔力の上限はあるし、連発すると魔力が切れて基本魔法さえ使えなくなる。あとは極端に魔力量が多い相手にも効果が無いかな。例えば、魔力量が『百』の相手に対して魔力を『五』流しても影響はほとんど無さそうでしょ? そういうこと」

「なるほど……」


フリードは昨日の商店街で見た光景を思い出していた。

店主に絡んでいた男を吹っ飛ばしたのがヨミトの念動力だったということは説明を聞いた今ならば分かるが、気づかれないうちに魔力を流し込まれたら対抗手段が無いというのが恐ろしい。もしあの男の魔力量が多ければ結果は違ったのかもしれないが。


「便利な魔法だな……というか強すぎないか?」

「最初はそう思うよね。でも使うには凄く集中力がいるし、無機物ならともかく元々魔力を持っている人間やモンスターの場合には同時に使えない。だから複数人が相手だと隙が出来てしまうんだ……あとは素早く動かれると狙いづらいかも」

「だとしても一対一ならかなり有利だろ? 俺もあのまま戦っていたら危なかっ……ん?」


苦い顔でヨミトとの初対面を思い出していると、ふと何者かの気配を感じる。

視線を彷徨わせたフリードは前方から見覚えのあるモンスターが向かってきていることに気づいた。


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