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広大なミアの森の中心部。そこには生い茂る草木に隠された大きな洞窟があった。

探そうと思わなければ決して見つけられない場所、その洞窟の入り口からガラの悪そうな者達が数十人ほど中に入り込んで行く。そこはアズラス盗賊団のアジトであった。

アジト内は松明が等間隔に設置されており薄暗い灯りが不気味にアジト内を照らしている。最奥にある一際豪奢な椅子には団長であるアズラスが座っており部下の報告を受けていた。


「あの二人はまだ戻らんのか?」


地鳴りのように響く低い声。がっしりとした体格に鋭い眼光のアズラスは中年に差し掛かろうという年齢だったが、鍛え抜かれた体からはまだまだ現役であることが伺える。

アズラスの目の前には数十名の部下が並んでおり、先頭に立つ男が質問に答えた。


「ええ、そのようです。さすがに遅過ぎるので何かがあった可能性もあるかと」

「そうか……おい、何か知っているか?」


振り返ったアズラスの後ろには全身をローブで包んだ怪しい男が立っていた。フードで顔を隠しているため表情は見えないが、直接の部下ではなく協力者という雰囲気を醸し出している。


「狩人達の話によれば見知らぬ男が例のガキを救出したらしい。お前の部下を倒してな」

「見知らぬ男だと?」


ローブの男が頷くとアズラスの表情が途端に険しくなる。 怒りで爆発といった顔だ。

嫌な予感がした盗賊たちだったがその予感は的中する。


「おい、てめぇらはガキの一人も攫えねぇのか! 何処の馬の骨とも分からん男に邪魔されやがって!」


椅子から立ち上がって大声で怒鳴るアズラスに部下達は震え上がった。

アズラスは腕っ節だけの脳筋ではなく作戦を重要視するタイプだ。そのため予定が狂うと著しく機嫌が悪くなり、部下達はボスの逆鱗に触れないよう細心の注意を払うようにしていた。

説教を交えながら今回の作戦の重要性を力説するアズラスの肩にローブの男が手を置く。


「既に別の手を考えてある。例の計画に支障はない」


その言葉に冷静さを取り戻したアズラスは『そうか』と呟いて椅子に深く座り直す。

普段より説教が早く終わったことに部下達は心の中でローブの男に感謝したのであった。

座ったまま宙を見つめたアズラスが徐に呟く。


「あれから五年……長いようで短かったな」


目を細めるアズラスは苦い過去を思い返していた。

五年前、狩人の村を襲ったアズラス達は見事な返り討ちにあった。

攻めてきた盗賊団に狩人達も容赦はなく、仲間が次々と命を落としていく中で当時の団長はアズラスにだけ逃げろと告げた。なぜならアズラスが実の息子であったからだ。

最終的にミアの森に逃げ込んだ盗賊達だったが、ドリアスの街まで逃げ延びたアズラスは盗賊団が壊滅したことを偶然街中で耳にして絶望する。まさか頼れる父だけでなく盗賊団ごと失うとは思っていなかった。

独りになったアズラスであったが村への恨みを忘れたことはなく、新たな仲間を募って盗賊団を再生させ、着々と力を付けながら今日という日を迎えたのであった。


「狩人……あいつらは絶対に許さん。そして何より……金髪の悪魔! あいつさえ出てこなければ俺たちが負けることは無かったのだ! あいつだけは必ず俺の手で仕留めてやる!」


殺意の篭った叫び。積もりに積もった恨みを晴らす時がついに来たのだ。

アズラスが勢いよく立ち上がると部下達は背筋を伸ばした。


「近日中に村を攻める! まだ居場所が分かっていない金髪の悪魔もどこかに隠れているはずだ。必ず見つけ出せ!」

「「「はい!」」」


一糸乱れぬ団員たちの返事にアズラスは満足気に頷く。

早速指示を受けた者たちが迅速に動き出し、部下達がいなくなるとアズラスは再び後ろを振り返った。


「ということで今回はお前にもしっかり働いてもらうぞ、司祭」

「『元』司祭だ。あの組織はだいぶ前に抜けた。それに俺が直接動くのはお前らが不甲斐ないからということを忘れるな」


その台詞に舌打ちを返したアズラスは忌々しそうにローブの男を睨みつける。

実際に部下が誘拐に失敗しているため堂々と言い返すことはできないが、ローブの男のせいで過去にアズラス達が辛酸をなめたこともあった。


「狩人達との戦いで金髪の悪魔が参戦した瞬間に逃げたのは誰だ? お前が残っていれば親父達は死なずに済んだかもしれないんだぞ。やっとの思いで辿り着いたドリアスの酒場で呑気に酒を飲んでいる姿を見た時は殺してやろうかと思ったぜ」

「負けると分かっていて戦うのはマヌケのすることだ。それにこうやって復讐の機会を用意してあげたではないか。むしろ感謝してもらいたい」


鼻につく言い方にアズラスは握りしめた拳を怒りで震わせる。

確かに目の前の男に恩があるのは事実だった。ここまで来られたのも重要な局面で裏から手を回してくれたおかげだったが、面と向かって言われると感謝の気持ちなど湧いてこなかった。

五年以上の付き合いだが相変わらず反りが合わない、とアズラスは心の中で思うのであった。


「俺は引き続き村に潜伏する。正体に感付いた奴もまだいなさそうだからな」


そう告げてゆっくりとした足取りで洞窟の出口に向かうローブの男。

ふと思い出したアズラスはずっと気になっていたことを聞いてみることにした。


「どうして金髪の悪魔に執着する? 邪神教を裏切ってまで追い続ける理由はなんだ?」


自身背中に投げかけられた言葉にローブの男が立ち止まる。

盗賊から見てローブの男は依頼主。全てを話す義務は無いがアズラスはどうしてもそこが気になっていた。何度か聞いてみたことはあるがいつもはぐらかされるため、今回が最後の機会というつもりで聞いてみる。


「それはお前が知る必要の無いことだ……報酬に見合った仕事を期待している」

「けっ! 相変わらずムカつくほどの秘密主義だな」


この後に及んでも教えるつもりはないようだ。一体何を考えているのやら。

悪態をつくアズラスには構わずローブの男はそのままアジトを出て行った。

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