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依頼したいことがあると突然告げたマスター。

しかし具体的な内容を聞く前に承諾することは難しい。なんと答えるべきか。

返答に迷っていると会話について行けないヨミトが口を挟んでくる。


「ミアの森? ゴブリン?」


首を傾げるヨミトにマスターは今朝の出来事を伝えた。

全ての狩人が動員される大事件であったが混乱を避けるために情報は伏せられているらしい。

話を聞き終えたヨミトは驚きのあまり大声が出てしまう。


「ジルさんの子供が攫われた!? しかもアズラス盗賊団!?」

「そうじゃ。つまりヨミトは村の恩人を殺しかけたということだ。反省するんじゃな」

「むぅ……それで、依頼って何のことですか?」


不満気にこちらを睨むヨミトだったがフリードは肩を竦める。フリードとしても話の途中でいきなり襲ってきた奴に謝るつもりは無かった。


「話を戻すが、村の子供が盗賊に誘拐されるという前代未聞の事件が起きた。また盗賊が入り込まんように警戒はしておるが待ってばかりでは根本的な解決にならん」

「ということは……盗賊を退治してくれってことか?」


先回りして答える。ただの盗賊退治であれば苦労はしないだろうが黒煙病のモンスターが関係しているのであれば話が変わってくる。

しかしフリードの予想は外れていたようで、マスターは首を横に振るとカウンターの内側にある椅子に腰掛けた。


「いや、盗賊退治は狩人にやらせたい。それよりも気になることがある。どうも誘拐の標的が最初から決まっていた気がするんじゃよ……」

「え? 狩長であるジルさんの息子が狙われたのは偶然じゃないってことですか?」


眉をヘの字に曲げたヨミトが疑わしそうな視線を向ける。

誘拐の標的を定めるためには綿密な計画が必要だ。人相だけでなく標的の居場所を押さえる必要もあり、事前の情報収集は必須である。盗賊がそこまで把握していたとは思えない。

フリードも同じ意見だったがマスターは確信を持った表情でこちらを見ていた。


「ワシも最初はそう思っておったが手紙を見て考えが変わった」

「もしかして『子供は預かった。返してほしければ森の空き地まで来い』ってやつか?」

「おお、よく知っておるな。狩人以外は手紙の内容を知らんはずじゃが……」


フリードが一言一句違わずに言ったことにマスターは驚いた反応を見せる。

手紙の内容を知っていたのは先ほどパイロに絡まれた時に本人が口を滑らせたからなのだが、それを伝えるとマスターは溜息を吐いて『あいつには後で説教じゃな』と呟いた。


「でもマスター、どうして手紙を見て標的が決まっていたと?」

「そうじゃ。実はその手紙は肝心なところが抜けておる」

「そうなのか?」


それにはフリードも驚いた反応を見せた。

マスターはポケットからくしゃくしゃになった紙を取り出すと内容を読み上げる。


「ジルと相談して、結局皆には伏せるようにしたんじゃ。本当は『狩長の子供は預かった。返してほしければ森の空き地まで来い』という文章なのだ」


今度はヨミトが驚いて立ち上がる。

『狩長の子供』とハッキリ書いてあったということは、マスターが言ったように盗賊の狙いが最初から決まっていたことになる。盗賊が事前の情報収集に力を入れていたことも分かったが、それよりも今は気にするべきことがある。


「穏やかな話ではないな」

「そう……だね」


神妙な顔のフリードとヨミトは揃って頷く。つまりそういうことなのだ。

まず、計画を実行する前には入念な準備が行われたはずだ。見張り役の配置、逃走ルートの確保、怪しまれない変装など、実際に村に入って確認すべきことは山ほどある。ビルの家の付近にも何度も行ったはずだ。果たしてそれらを誰にも怪しまれず実行できるだろうか。

可能かもしれないが自分達で行うよりも村人の協力者を探した方が確実だ。おそらくそれが真実なのだろう。


「村人の中に……盗賊と通じている裏切り者がいるということですか?」

「おそらくな」


顔をあげたヨミトの目には鋭い光が宿っている。それはようやくマスターの言いたいことを理解したという顔であった。


「で、結局何をやらせたいんだ?」


盗賊が残した紙を眺めながらフリードが告げる。そろそろ結論を言ってほしいものだ。

こちらの内心を見透かしたのかマスターは苦笑いを浮かべる。


「すまん、脱線したな。この村の人間関係を知らんお前さんに裏切り者を探せとは言わん。それはワシらの方でやるので……代わりに村の近くを調査してほしいのじゃ」

「調査? 盗賊のアジトでも見つければいいのか?」

「そうじゃ。ただし見つけても戦わずにそのまま帰ってきてほしい。それでも構わないか?」


ようやく依頼内容を伝えられたフリードだったがすぐには返事が出来なかった。

盗賊を倒すのではなくアジトを探すだけ。戦闘が発生しない可能性もあるが危険がないわけでもない。そしてフリードにはもう一つ気になっていることがあった。


「一つ聞きたい。なぜ俺なんだ? 強い奴が良いなら傭兵に頼んでも良いはずだ」

「うむ、当然の疑問だ。それは依頼を受けることがお前さんのためになると思ったからじゃ」


言葉の意味が分からず首を傾げる。なぜ盗賊を探すことが自分のためになるのか。

マスターはニヤリと笑ってから盗賊と村の因縁について話し始めた。


「ビルを誘拐したアズラス盗賊団だが、五年前にもこの村は奴等の襲撃を受けた。当時の狩人達が奮闘して追い払うことには成功したんじゃが、追い詰められた盗賊の一人が邪神教の指示で動いていたと白状しよった」

「!」

思わずその場で立ち上がったフリードはマスターの言葉の意味を理解する。

子供が誘拐されたり裏切り者がいたり、村にとっては由々しき事態だが自分から首を突っ込む必要はないと正直フリードは考えていた。しかし邪神教が絡んでいるのであれば話は別だ。


「じゃあ今回も奴らが絡んでいると?」

「可能性はある」

「……分かった、引き受けよう」


少し悩んだがそう答える。

返答を聞いたマスターは笑顔で感謝を述べた後に予想外の提案をした。


「助かる! ついでにそこのヨミトも連れて行け。少しは役に立つじゃろ」

「よろしくね。じゃあ明日の朝、広場で集合ってことで」

「……ああ」


てっきり嫌がるかと思ったが意外と乗り気のようでニコニコしながら手を差し出してくる。

先ほど殺し合いをしたばかりなのだが本人は気にしていないのだろうか。

あまりの態度の変わりように違和感を覚えながらもフリードは握手を交わす。

その後、夕方になると酒場にチラホラと客が集まり始め、相変わらず酒は飲まずに料理だけをフリードは堪能した。ちなみにセーラの言う通り料理は絶品であった。

酒場を出た後はマスターに教えてもらった宿屋にフリードは向かう。酒場から徒歩数分の宿屋は外から来た商人が数人泊まっているだけの小さな宿で、部屋に案内されたフリードはベッドに倒れ込むとすぐに眠気が襲ってくる。

今日は目まぐるしい一日だった。森でビルと出会ったのが随分前のことに感じる。

目を閉じたフリードは数分で夢の世界へと旅立って行った。

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