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終わりが見えない細道。薄暗い空間がどこまでも続いている。

濁った水溜まりは何日前に降った雨のものなのか分からずあちこちにゴミが散乱している細道は清潔とはほど遠い場所であった。

人通りが全く無いそんな細道を進んでいると正面に人の気配を感じた。


「やぁ、さっきぶり。ちなみにはじめまして……だよね?」


商店街で見かけたヨミトが十メートルほど先に立っていた。どうやらフリードが追いかけてくることは見抜かれていたようだ。

普通は尾行されれば不快感を示すはずだが今のところ敵意は感じない。むしろこの状況を楽しんでいるような、そんな微笑みを浮かべている。

無言で見つめているとヨミトは困ったように頭をポリポリと掻いた。


「用事があるのかと思ったけど勘違いだったかな。そういうことなら僕はそろそろ……」

「金髪の悪魔」


立ち去ろうとした背中に投げかける。するとヨミトはピタリと静止する。

決して大きな声ではなかったが、自分の声がさざ波のように細道を駆け抜けた気がした。

こちらに振り返ったヨミトを見た瞬間、フリードは反射的に大剣に手を伸ばしてしまう。


「……久しぶりに聞いたよ、その言葉」


薄暗い細道で青い両目が爛々と輝いている。

ヨミトの顔には相変わらず笑顔が浮かんでいたが先ほどまでの穏やかなものではなく、獲物を前に舌なめずりをする肉食モンスターのような背筋が凍る微笑であった。


「どこでそれを?」

「ドリアスだ」


真意を探ろうとする鋭い視線。

続きを話せとヨミトが目で訴えかけてくるのでフリードは自身の聞いた話を語り始める。


「金髪の悪魔。ただの人間でありながら邪神の右腕と呼ばれるほどの強さを持っていた人物。ある時、依頼を受けた数百人の傭兵が金髪の悪魔討伐のために村に向かったが誰一人として傷をつけることすら出来ずに返り討ちにあった。その力を利用したい国の権力者や裏の人間が何度も接触を試みたが誰にも靡かず、どんな刺客を差し向けても返り討ちにされるため国々はついに関わらないのが一番という結論を下した」


話を聞くヨミトは微かな笑顔を浮かべながら過去を懐かしむかのような表情を見せる。

嫌な予感がしながらもフリードは説明を続けた。


「しかし邪神が現れる数年前、金髪の悪魔が消えたという噂が流れた。好奇心を抑えられずに村や森に向かった奴もいたそうだが帰って来た者はいなかった」

「ふふ、そうなんだ」


ヨミトは口を手で抑えながら笑う。その仕草は妙に様になっていた。

そして再びこちらに向いた顔からは笑顔が消えていた。


「僕がその金髪の悪魔だよ……って、言ったらどうするの?」

「そんなことは決まっているさ」


武器を抜いたフリードは剣先をヨミトに向ける。

手心を加えるつもりなど一切無いと言わんばかりの鋭い目つき。既にフリードの覚悟は決まっていた。


「今まで誰も出来なかったことを俺がするだけだ」

「……できるかな? ファイアーボール」


そう言って徐に右手を掲げる。

何のつもりだと言おうとした瞬間、なんとヨミトの掌に直径一メートルほどの火球が現れた。

攻撃の気配を察知したフリードが身構えると宙に浮いていた火球がヨミトの手を離れる。向かう先は教えられずとも分かった。

ゴォっという音を立てながら迫ってくる熱の塊にフリードは息苦しいほどの熱さを感じ、サッと身を捻ることで火だるまになることを免れる。

しかし前方を見ると既に次の火球が放たれた後であった。


「攻撃の隙を与えないつもりか」


しゃがみ込んだフリードの頭上をまたもや火球が通りすぎる。魔法を打つ間隔が短い。

このまま防戦一方になることを危惧したフリードは足にグッと力を込めて地面を蹴ると、ヨミトとの距離を一瞬で詰めて横薙ぎの斬撃を叩き込んだ。

後ろに避けるか防がれるかの二択だと考えていたが、大剣が触れる寸前になんとヨミトはその場から消えるようにいなくなった。


「なに!」


驚いて思わず声が出てしまう。一体どこに行ったのか。

しかし鋭敏な感覚がすぐに相手の気配を察知し、頭上を見上げたフリードの目に映ったのは家の三階くらいまで飛び上がっていたヨミトであった。

空中にふわりと浮いたままのヨミトの手に再び火球が出現する。


「ファイアーボール」


真上から迫る熱の暴威を素早く後ろに宙返りすることで避けると、火球は勢いよく地面に着弾してゴミや枯れ木を一瞬で燃やし尽くす。

地面が数センチ抉れたことに眉を顰めていると再びヨミトが再び右手を構え、同じ攻撃が飛んでくるがフリードはもう避けなかった。


「ハァッ!」


鋭く息を吐いて大剣を振ると飛来した火球は真っ二つに切り裂かれる。

予想していなかった行動にヨミトは目を瞬かせた。


「これくらい平気だ。それに、俺は誰にも負けるつもりはない」


呆れた口調で問われたフリードは挑発の言葉を返す。

小さく笑ったヨミトが再び右手を掲げ、また斬ってやろうと剣を構えかけたフリードだったがその手が止まる。現れた火球が直径一メートルを超えてみるみると大きくなっていくからだ。

やがて五メートルはある細道の両壁に届くほどの巨大な火球が完成する。


「……まずいな」


相手の思惑を察知したフリードはヨミトに背中を見せて走り出す。一刻も早くここから離れなければ手遅れになる。

その場から遠ざかっていくフリードを眺めながらヨミトは笑みを零した。


「懸命な判断だけど、もう遅いよ。ゆけ……ファイアーボール!」


特大の火球がついに放たれた。

壁を焦がしながら迫ってくる攻撃はさすがに剣で切り裂ける大きさを超えており、今のフリードには逃げる以外の手段が残っていなかった。

必死に逃げるが背中が徐々に熱くなってくる。視線の先には曲がり角が見ており、あそこに入り込めれば助かるはずだ。


「くっ!」


死の気配を感じたフリードが呟いた直後、細道の入り口に建っていた古い木造の屋敷に激突した特大の火球が大爆発を引き起こし爆風と火の粉が辺りに飛び散った。

それを見届けたヨミトは踵を返して細道の奥へと消えていった。


火球が着弾した屋敷は一瞬で火の手が広がり全体を包み込む。

燃え盛る屋敷はしばらく原型を留めていたが柱や壁が炭化して脆くなると屋根を支えきれなくなる。やがてあちこちから木が軋む音が聞こえ始め轟音を立てながら屋敷全体が崩れ落ちた。


「……さすがに焦った」


大量の木片となった元屋敷を眺めながら安堵の台詞が漏れる。

間一髪で曲がり角に飛び込んだフリードは、発生した爆風によって勢いよく飛ばされたが器用に空中で回転すると両足で地面に着地する。

目立った傷は無いが体を見渡すと服のあちこちに焦げ跡がついており元々白かった服は真っ黒になっていた。こんな格好で歩けば目立つのは確実だ。

先ほどまでヨミトが立っていた場所に目を向けるとそこには誰の姿も無かった。

もしかしたらトドメを刺したと思ってこの場を去ったのかもしれない。

しかし今まで出会った奴の中でもかなり強い部類に入るのは間違いない。あいつが本当に金髪の悪魔なのかは分からないが、並の実力ではないことは確かであった。


「あいつに乗せられて本気になって……いや楽しんでしまった」


無意識のうちに笑みを浮かべているのに気づいたフリードは苦笑いをする。

そう、フリードは楽しんでいたのだ。実力が拮抗した者との戦いはいつだって胸が躍るものである。もしかすると自分は戦闘狂なのかもしれないが。


「うわぁ! 火事だ!」


その時、商店街の方から焦ったような声が聞こえる。

ここまで派手にやると流石に人目につくし、犯人は逃げた後だがこの場に留まっていると疑われても文句は言えない。早く離れた方が良いだろう。

細道に戻ったフリードはヨミトを追うために奥へと進んで行った。

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