9 ※ダービン目線※
公爵家令息として生まれた俺には、生まれた時から婚約者がいた。
自由恋愛が主流となり、王族ですら自由恋愛が許されるこの時代に、だ。
政治的なものでもなく、ただただ父親同士の昔の口約束からの「婚約者」だった。
物心つく前から婚約者・レイナとの交流は始まっていたらしい。
特に母がレイナを気に入り、息子の俺よりも可愛がっていた。
とは言えレイナとの関係は良好で、月1で行われていた交流会はとても楽しく、終わった後はいつも次の交流会が待ち遠しく感じるほどだった。
ただ、年齢を重ねるうちにどんどんと綺麗になるレイナは思春期の自分には眩しくて、恥ずかしすぎてなかなか直視できないようになっていった。
その頃からだろうか、俺が彼女に抱いていた好意が友人に対するようなものから、恋愛として抱く感情に変わっていったのは。
中等部になると、周りの友人たちも徐々に異性への興味関心を示すようになり、そのうち友人たちの中にも交際を始めるものが出てきた。
そうなってくると必然的に俺とレイナの関係についても、みんな興味を持って聞いてくる事も増えてきた。
特に高等部に入る頃のレイナは、俺の目だけでなく周りから見ても綺麗な女性へと成長していたため、彼女に近づきたい野郎たちから、やかっみを掛けられる事もしばしばあった。
友人たちとの話も恋愛に関したものが多くなり、近況報告や相談といったようなものも話に出てくるようになった。
恋愛に悩んだ友人たちから必ず言われるのが
「お前はいいよな、婚約者という確立した存在がいて。しかも相手はあのレイナだろ。お前ら仲も良さそうだし、うらやましい!」
事実ではあるし俺自身もレイナの「婚約者」という立場に不満もなければ、むしろ良かったと思っていた。
しかし、そこは思春期。
他人から言われるとどこか恥ずかしく、素直に認めるのも癪にさわる。
そんな俺は毎回
「レイナとの婚約なんて迷惑でしかない。親同士のあんな約束がなければ、俺はもっと自由にできたのに」
と答えていた。
見栄や恥ずかしさから言った言葉ではあったが、ほんの少しだけ本心でもあった。
「婚約者」という立場でなく自分の力でレイナとの関係を築いてみたかったし、自力で彼女の心を振り向かせてみたかった。
ただ、レイナを他の誰かに取られる心配のないこの「婚約者」という立場に、安心ししきっていたところもあった。
ある時から、レイナの態度が変わった。
明らかに俺を避けている。
月に1度必ず行われていた交流会も体調不良や忙しさを理由に中止になる事が増え、たまに会ってもよそよそしい態度をたられていた。
話をしてもすぐに切り上げようとしているし、学園内では逃げられるような事もあった。
誰かほかに好きな人でもできたのだろうか。
そう不安になって校内での彼女の様子を観察してみたが、彼女は交友関係が広いのか男女関係なく多くの友人たちと交流をしていた。
観察している分には、特に特定の男と深く関わっている様子はない。
ただただ、彼女の社交力に高さに関心するばかりだった。
ただ一人、アイリスという男を除いては。
アイリスとは同じクラスで、特に仲がいいらしい。
いつもは伯爵令嬢のエマと3人で居る事が多いけれど、二人でいるところもたまに見かける。
お互いに想いあっている様子は感じられないし、むしろ姉と弟のように感じたが本当のところはどうなのだろうか。
もしかしたら学園以外のところに居るのかもしれない。
卒業したら母親の会社に勤める事が決まっているため、高等部に入る頃からたまに手伝いに行っているとも言っていた。そこで誰かに好意を抱いたのかもしれない。
おば様の会社には男性社員も多く勤務しているし、取引先を考えるとキリがない。
もしかして、彼女はこの婚約を嫌がっているのではないだろうか。
直接聞くこともできず、これといった手がかりもなく、レイナとの関係は日を追うごとに冷えたものになっていく感覚だけはあるものの、まともに会ってももらえず、話もしてもらえない。
たまに手紙を書いてみても、社交辞令のような返事が来るだけで、彼女の気持ちが見えないまま、気づけば学園を卒業し、俺たちは結婚式を挙げていた。




